闇と光 第173話 第7エリアの大きな壁

白銀の門からマントに身を隠した人がゆっくりと歩いてきた。アヤネは姿を見た瞬間、身構え臨戦態勢となる。一瞬にして相手の強さを悟ったのだ。

 


「命唱。我はアヤネ。ハイロリ様の妻にしてハイロリ様の剣なり」

 


「・・・マントを剥がせたら名乗ってやるよ」

 


ボイスチェンジャーを使ったような声でレジェンドチャンピオンは話し出す。それはアヤネにとって屈辱だった。名乗るに値しない・・・自身の力が見くびられている。アヤネは命唱を重ねた。当然のごとくバトルフィールドが形成されていく。

 


「さぁ始まりましたっ!!レジェンドチャンピオン戦っ!!アヤネ選手はどこまでくらいつくことができるのでしょうかっ!?」

 


アリスもその様子を見ていた。アヤネの技が何もかも通じず、ただただ痛めつけられる試合とも呼べない闘い・・・。

 


「おぉっとっ!!バトルフィールドが消えていきますっ!」

 


僅か数分・・・展開されていたバトルフィールドは消滅した。何事もなかったかのように立っているグランドチャンピオン。アヤネは音も無く横たわっている。

 


「アヤネ選手が敗れてしまいましたっ!!グランドチャンピオンの壁はここまで分厚いのかぁっ!?」

 


観客達は静まり返る。歴代チャンピオン達が棄権するのも納得せざるをえないその実力。コロシアム全部門制覇・・・各部門を優勝しただけでは制覇とは呼べないのだ。そのためにはすべてのグランドチャンピオン達を倒さなければならない。来訪者達の前には大きすぎる壁が立ちはだかっていた。

 


「アヤネお疲れ様でした。あれは無理ですね・・・次元が違い過ぎます。でも・・・次は私が勝ちますからねっ!!」

 


「悔しいけど私の完敗・・・何も通じなかった・・・名乗るに値しないほどの実力差があったわね・・・でもハイロリ様の横に並びたいからいつか必ず倒してやるわっ!!もちろんアリスにも負けたくない。

 


でも正直に言うとそこにいる3匹がもうちょっと動けてたら私は勝てなかったわよアリス」

 


「そうですねぇ・・・動きがかなりゆっくりでしたもんね。やる気が足りないですっ!!わかってますね?ご褒美として特訓してあげますっ!!」

 


「「「・・・」」」

 


「・・・返事は?」

 


「「「はいマスター喜んでっ!!」」」

 


決して動けなかったとは言えない獣魔達・・・テイマーの世界ではテイマーによるパワハラが日常茶飯事・・・そしてこの先地獄の特訓を受けることになるのであった。戻ってきたハイロリのマナの影響を受けメキメキと実力を伸ばし、バトルフィールドを疾走する獣魔となるまではもう少し先のことである。

 


「たっだいまぁっ!!」

 


ハイロリが元気にマイルームに戻ってくる。しかしアリスとアヤネの姿がない。ハイロリの手には大量の手土産が・・・もちろんそれはロリ桃。美貴以外の嫁達とロリ桃のコラボが見たかった。ただそれだけの理由のために大量に持ってきたのである。

 


先に死に戻りした美貴の手により既に庭にロリ桃の苗木が植えられていた。ハイロリがきっと欲しがるから・・・その理由の通りハイロリはロリ桃栽培を狙っていた。ロリ桃の世話は獣魔達ができるからだ。生産ラインを確保することは頭の中で組み上がっていた。しかし何も言わずとも嫁が意をくみ勝手に行動する。これぞまさしく内助の功

 


後にこの星でもロリ桃は高値で取引されることになり、ハイロリは新たな財源を手にいれることになるのである。これ以上財源がなくてもまったく生活には困らない。消えても困らないお金・・・これが真の無駄金である。

 


アリスとアヤネが揃って帰宅する。獣魔達も一緒だ。獣魔達はハイロリの帰還を喜ぶがそれどころではないハイロリ。アリスとアヤネのロリ桃にロリ桃を押し付けることに夢中になっていた。

 


2人は顔を赤らめる。ハイロリ監修の元、嫁達の名前がついた専用ロリ桃・・・新たな品種であった。もはや彼女達のロリ桃と瓜二つなのである。ロリ桃を手の中で転がすハイロリを見てそうなってしまったのだ。

 


ロリ桃と自身のロリ桃を交互に食べさせる嫁達。ロリ桃はこの星でも嫁達の間で人気となるのであった・・・この後マイルームには激しい地鳴りが轟き響いていた。獣魔達はいつものことなので六花と外で遊んでいる。

 


翌朝転移塔の前にハイロリが現れると数人の来訪者が待っていた。

 


「ハイロリ待っていたぞっ!!さぁボスを倒しに行こうっ!!」

 


「アニキっ!!気合いれていきやしょうっ!!」

 


「・・・まぁ慌てるなお前達。オレはこう見えて慎重派なんだ。ボスエリア以外の場所に攻略の糸口が隠されているかもしれない・・・だからボスに行くのは1週間後にしよう。それにみんな連戦で疲れているだろう・・・強くなるためにはたまには休息をとることも重要だ。オレはその間1人でエリア内をくまなく捜索する予定だ」

 


「・・・ハイロリがまともなことを言っている。そんなにやる気があったのか・・・これなら勝てるぞっ!!言うことも一理ある・・・じゃあ決戦は1週間後ということで!」

 


「さすがアニキ・・・抜かりない・・・手伝えることがあったら言ってくださいっ!!」

 


「そうだな・・・唯との連携を見たいから後でジャンヌの部隊を借りたい。頼めるか?カポネ」

 


「構わないっすよっ!!ジャンヌもいいよな?」

 


「え、えぇ・・・いつにするの?」

 


「明日の朝あたりでどうだ?じっくりと確認したいから気合をいれてきてもらえると助かる」

 


「わ、わかったわ・・・(どう考えても水着よね・・・今日はみんな明日の準備で忙しくなってしまいそうね)」

 


「・・・(慶太さん・・・あの約束を忘れてなかったのね。それにうまい・・・目的を明かすことなくジャンヌ達を誘い出した・・・まぁご褒美なので先輩には内緒にしておいてあげますね。むしろバレたら私もやばい・・・)」

 


ハイロリの目的はただひとつ・・・ボスなどは正直どうでもいいのだ。すべてはこの水着を堪能するためにここまで頑張ってきた・・・ちゃんと事前に下見することを怠らないところを見ると慎重派というのもあながち間違いないであろう。

 


やっぱり邪魔が入るといけないからプライベートビーチだよなぁ・・・そうだあれも大量に買っておかないとな。ビーチ補正でいけるかもしれない・・・想像しただけでいいな。

 


とりあえず第3エリアにいったらまずはヌーディストビーチ・・・そしてお姉さん達を出迎えるためにプライベートビーチをレンタルして改造・・・金ならいくらでもあるしいけんだろ。最後に普通のビーチで水着の匂いを嗅ぐ予習もしないとな。潮風による匂いへの影響を調査する必要がある。

 


1日で足りるかわからないがやるしかない・・・明日のパラダイスのために。1万人クラスのお姉さんのコラボ・・・響きもぱないぜ・・・オレもきわきわの水着にするかもういっそのこと丸出しでいくか悩むところだな。

 


きわきわでいったところで・・・抜刀したら関係なくなるし丸出し水着風の丸出しでいこう。着ている体で実際は着ない・・・我ながら名案じゃねぇかっ!!さぁて早速第3の村へ行かないとな・・・時間は限られている。

 


変態の眷属はやはり変態でしかない・・・変質者は光に包まれ消えていった。

闇と光 第172話 デキウス

「奇しくもハイロリの妻同士の対決。さぁ結果はどうなってしまうのでしょうかっ!?残念ながら私の力では実況することはできません・・・どこかに行ったデキウス様に苦情をどしどしお寄せくださいっ!!」

 


アヤネとアリスの中心から風が吹き荒れる。球体が2人の姿を覆い尽くし光を放つ。バトルフィールドが形成されたのだ。2人とも絶理命唱を会得し、さらに超越者の域まで足を踏み入れているのである。

 


普段コロシアムの超越者同士の闘いはデキウスが実況していた。しかし今日は姿をまったく見せないのである。なぜならハイロリの様子をじっくりと見ていたから・・・たまにこういうことがあるデキウス。しかしいつものことであると住人達は知っている。

 


この星の創造神にして遊戯神デキウス。みんなその力は理解していた。そして放浪癖のある変態であることも・・・これが初めてではないのである。常習犯故に超越者同士以外の実況担当が何事もなく代わりに実況を務めていた。

 


デキウスの力があるならば、バトルフィールド内の戦闘の様子を見せることができるが・・・それ以外の実況者では不可能なのである。しかし同じ超越者ならば大きな実力差がない限りは絶理状態になれば中の様子を見ることはできる。

 


会場内でマナが膨れ上がっていく。様々な場所で自然とバトルフィールドが形成される。しかしコロシアム内でバトルフィールドによる被害が出ることはない。デキウスの力が働いているためだ。それを超越者達も知っている・・・だから躊躇なく力を解放できるのである。

 


そしてハイロリは現在妖精の星を立ち去ろうとしていた。

 


「ロリ先っ!!力が必要な時はいつでも言えよなっ!!瑜とともに助けにいくからよっ!!」

 


「ええ。もちろんですよ。ハイロリ殿またお会いしましょう」

 


「次に会った時には先生よりも強くなってるからな!また遊んでくれよなっ!!」

 


「相変わらずの脳筋ぶり・・・ゴブ信も成長してくれるといいのですけどねぇ・・・ゴブ瑜殿とともにあなたを超えれるように日々精進します」

 


「人族の未来の王ハイロリよ・・・星制圧の力がいるならば今から制圧しに行くかっ!?ゴハハハッ!」

 


「そうしてもらえるのは嬉しいんだけど・・・この星と地球の位置関係まったくわからないしなぁ・・・それにまだ今は修行の身だ。星を制圧したら会いにいくから待っててくれ。

 


じゃあみんな楽しかったぜっ!!皇帝軍っ!!手がいるときはいつでも頼ってこい!!また一緒にいつか暴れようぜっ!!」

 


それぞれと別れを惜しむハイロリ。ゴブ蔵はひたすら無言を貫いていた。目でまたなと言っているのはわかる・・・どうしてこんなにクールな漢になってしまったんだろう。あんなに熱い漢だったのに・・・。

 


ゴブ妻達も見送ってくれている。美貴によろしく伝えて欲しいと頼まれた。新婚旅行は妖精の星でもいいな・・・オレの真の力をあいつらに見せてやろう。全力の地鳴りを星中に届けてやるぜ。

 


オレはスタート地点に出現していた光に入った・・・みんなとさようならをしたのに帰る方法がわからなかったのはここだけの秘密である。別れてすぐ手を貸してくれはさすがにカッコ悪いので1人で星中を駆け回った・・・転移の感覚が抜けると第2の村へ戻っていた。

 


2nd Boss Clear

 


金色の文字が再びオレを祝福してくれていた。

 


「やぁ。クリアおめでとうっ!!僕としては推奨ルートと違って残念だったよ」

 


「・・・一応他のルートを教えてくれ」

 


「無双ルートが正規ルートだよ。とある人に試させた時は簡単に終わっちゃったんだけどなぁ。君がやったルートは歴史改変ルートだね。

 


この星では皇帝の座を争い皇帝が決まる度に僕が時間を巻き戻してきた・・・今回君が来るのに合わせて時間を動かそうと思ってたんだ。君が妖精族と敵対したままだったら地球にいつか彼らが攻め込んできたかもしれない。手を取り合う選択を妖精族は選んだから結局味方になっちゃったけどね。あははっ!

 


他には妖精ハーレムルートとかもあったよ」

 


「・・・そのルートはなんだ?嫌な予感がするけども一応教えてくれ」

 


「妖精の女の子を娶りまくって子供を産んでもらう・・・それを何度も繰り返すとあら不思議っ!!ハイロリ君の子孫の方が人口が多くなり制圧完了しちゃうんだよっ!!君ならできると思っていたのに残念だね」

 


「はぁ・・・そのルートは見つけようがないわ・・・それが推奨ルートなのか?」

 


「ううん。違うよ。推奨ルートは純愛ルートだよ」

 


「美貴とただひたすら愛を語り合ってればよかったのか?」

 


「あははっ!彼女はナビでしょ?そんなことしても制圧はできないよ。ほら1人いたじゃないか・・・」

 


「・・・ゴブ蝉か?」

 


「ふふ・・・外れ。ゴブ布くんだよっ!!君が夫になるもよし、妻になるもよし・・・彼と君が交われば星の制圧なんて楽勝だったのにな。熱烈な愛も交わしてたし」

 


「・・・いやまぁ出会い方が違っていたらもしかしたらそのルートは否定できないかもしれない・・・」

 


「だろぉ?変態神の眷属として両刀の素晴らしさをわかってきたじゃないか」

 


「待て待てっ!オレは女の子専用機なんだ。危うく変態神の思惑通りに誘導されるとこだったぜ・・・」

 


「あははっ!じゃあ第3エリアのクリアも応援してるからねっ!!まったねぇ!」

 


漢同士か・・・でも妻達がいるからな。うん妻達がいて良かった。迷わずに済むわ・・・変態神はさらっと罠を仕掛けてきやがったのか・・・うーむ侮れないな。

 


第2の村には第3の街への続く光が出現していた。ハイロリは行く仲間が待つ次の街へと・・・。

 


しかしハイロリはマイルームに戻ろうとしていた。寄り道もせずすぐ様マイルームへ向かうハイロリ。かれこれ妖精の星での滞在時間は5年を超えていた。しかしこちらの世界では過ぎた時間が固定されるため5時間ほどしか経っていない。

 


それでもハイロリにとっては5年ぶりとなる愛しの嫁達。第3エリアへの道などどうでもよかった。一方コロシアムではバトルフィールドが消え去っていく。血塗れの女が2人・・・1人は地に倒れている。もう1人は肩で息をしながら立っていた。

 


バトルフィールドが消滅しましたっ!!立っているのはアヤネ選手っ!!ソロ部門の新たなチャンピオンがここに誕生しましたっ!!

 


興奮冷めやらない中、申し訳ないのですが・・・仕事をさせていただきます。これまでのチャンピオン達は長い間、棄権してきました・・・アヤネ選手に選んで頂きましょうっ!!

 


優勝したアヤネ選手にはレジェンドチャンピオンへの挑戦権が与えられます。挑戦か棄権かお選びくださいっ!!」

 


ざわめき出す会場。コロシアム開設当初、圧倒的強さで頂点に君臨し続けた者に与えられし称号レジェンドチャンピオン。試合にならないためデキウスから出場を止められた者への挑戦権。

 


これまでの歴代のチャンピオンは絶対に敵わないことを知っている。故にここ数千年は事前に棄権を選択し続けてきた。しかし今日はソロ部門に新たなチャンピオンが誕生している。この問い掛け自体が数千年ぶりの出来事なのであった。

 


「・・・もちろんやるわよ。私はもっと強くなりたいものっ!!」

 


アヤネの挑戦表明を聞き大歓声に包まれる会場。アヤネの傷が治っていく。コロシアムではたとえ住人でも死なないようになっている。対戦終了後には傷は元通りとなるのだ。すべてデキウスの力によるものである。そしてアリスは観客席に戻っていた。3匹の獣魔は怯えながら隣に座ってその様子を見ている。

 


コロシアムには4つの門がある。漆黒の門。純白の門。白銀の門。黄金の門。通常は2つの門しか使用しない。開かずの白銀と黄金の門。チャンピオンを超えた超越者専用の門なのである。そして白銀の門が今宵開かれようとしていた。

 


「それではレジェンドチャンピオンの入場ですっ!!」

 


白銀の門はゆっくりと大きな音を立てながら開いてゆく。

 

闇と光 第171話 開かれる開星への扉

っふ・・・思ったよりダメージが大きい。いってぇな・・・しかし痛いということは生きているということ・・・ゴブ羽よ・・・オレはまだ生きているっ!!

 


・・・!マナが語りかけてくる・・・手伝ってくれるというのか・・・我が友よ。託されたくせに無様な姿を見せてしまったようだな・・・ははっ・・・任せろってか・・・ならばマナの流れの趣くままに・・・行かせてもらいますかねっ!!

 


ゴブ羽の背後にハイロリが現れる。治療に集中していたゴブ羽は反応が遅れた。ハイロリの拳がゴブ羽の体に向かって放たれる。しかしさすがのゴブ羽。しっかりと防御態勢をとってきた。

 


ゴブ羽の防御していた腕が弾き飛ばされる。すぐ様ハイロリが追撃の拳を放つ。拳こそが最速の攻撃。師から教わったことである。再び放たれた拳がゴブ羽の体に突き刺さった。

 


この戦闘で初めて見せる苦悶の表情。ハイロリの攻撃は防御を突破していた。ゴブ羽の第6感が叫んでいる。これはまぐれではない・・・すべての攻撃は防御を突破してくると・・・。

 


マナが囁いてくれている・・・心地よい・・・お前の愛を感じるぞ・・・ゴブ布・・・体の動かし方が手に取るようにわかる・・・だけど同じじゃつまんないよなぁ・・・ハイロリ流にアレンジさせてもらうぞ・・・我が友よっ!!

 


「八星双剣赤鬼流とでも名付けようか・・・さぁゴブ羽・・・反撃の時間だ」

 


ハイロリが再び二刀流の構えになる。しかし動きはまるで別物。八星大剣が振るわれるその姿はゴブ布の動きとシンクロしている。それが2振り・・・器用にハイロリは使いこなしていた。展開されたハイロリハンドには双鞭刀。ハイロリファントムからの変則三刀流の攻撃がゴブ羽を襲う。

 


ゴブ羽は斧槍で丁寧に受けている。かつて虎牢関で対峙したゴブ布とゴブ羽。両者ともにあの頃よりも激しくそして洗練された動きになっていた。先ほどまで苦しめられていた全方位攻撃はハイロリがその手で斬り裂いている。

 


ハイロリとゴブ羽は1対1で闘っている。ハイロリゲンガーによる分身、ゴブ馬俑はともに使用していない。意識を分散させる余裕が両者にはないのである。それだけ実力は拮抗していた。しかしこうなると緊急回避性能を持ったハイロリの有利となる。戦況は徐々にハイロリに傾きつつあった。

 


「このままじゃ埒があかねぇっ!!全力の一撃をくらえっ!!ゴブリンクラッシャァァァァッ!!」

 


「・・・受けて立つ。八星双剣赤鬼流・・・

 


ゴブ布クラッシャァァァァッ!!」

 


ゴブ羽の一撃を受けハイロリも攻撃を放つ。ハイロリの体には漆黒の闘気に黄色の光が蠢いてる・・・大剣をクロスさせ突き出し、回転しながらゴブ羽に突撃する姿。某クラッシャーを彷彿とさせる動きである。

 


2人の技と技がぶつかり合う。妖精の星の大気が震える・・・空を2人のマナの残光がオーロラのように煌めいている。両者激突したまま押し合いが続いていた。いつのまにか立ち上がっていたゴブ良、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ瑜がその様子を静かに見守っている。

 


「皇帝を舐めんじゃねぇぇぇぇっ!!」

 


ゴブ羽の咆哮とともにマナが膨れ上がった。押され出すハイロリ。その時、押し込んでいたゴブ羽の目には映っていた・・・ハイロリの後ろにゴブ布そしてゴブ厳達の姿が・・・。

 


「師匠に勝つなんて100年はぇんだよっ!!いくぜっ!!力を貸してくれ・・・お前らっ!!」

 


急激にマナが増幅するハイロリ。ハイロリの体からは茶色の閃光があふれ出ていた。均衡が崩れる。ゴブ羽の体にハイロリ達の一撃が叩き込まれる。ゴブ羽が星の大地に吹き飛ばされた。動かぬ皇帝・・・。

 


「開星しろよ・・・オレはこれから自分の星を制圧するつもりだ。多くの同族の命が失われることになるだろう・・・それでもオレは止まらない・・・妖精の星で闘ってきたように・・・オレの道を邪魔する者はすべて叩き潰す。

 


ゴブ羽よ・・・他星のゴブリン達を人族から救うというならば未来の人族の王が力を貸そう・・・そんなやつらはいらねぇ・・・人族だろうが他種族だろうが関係ない・・・オレの理想郷を作るためならば不必要なものはすべて排除してやるっ!!

 


妖精の星の民達よっ!!オレは人族であろうがなかろうがすべて平等に扱うっ!!我が友ゴブ布に向かってそれを誓うっ!!オレとオレの仲間以外の人族は別に信じなくていい・・・このオレのこれから作る星の人族達を信じろっ!!

 


オレ達人族とゴブリン族が共に手を取り合える未来を創るとここに宣言するっ!!」

 


その言葉を聞き、ゆっくりとゴブ羽が体を起こす。

 


「・・・オレの負けだ・・・もう体が動かねぇ・・・師匠超えはまた今度にお預けだな。

 


聞けぃっ!!この星の民達よっ!!皇帝が宣言するっ!!

 


妖精の星は鎖星を廃止し・・・開星を行うことするっ!!そして他星の同胞達を救うため侵略を開始することをここに宣言するっ!!」

 


その様子を見ていた民達が一斉に歓声を上げる。声は共鳴し、再びこの星の大気を揺らしていた。この後・・・ゴブ羽とハイロリ。2人の王が首都洛陽にて誓いを交わす。妖精の星とハイロリが作る未来の地球。2つの星の和平そして同盟締結の調印・・・共に手を取り合っていくことを誓った。

 


[ワールドニュース!!プレイヤーハイロリが第2エリアのエクストラボスエリア妖精の星を制圧完了!!

 


エクストラシナリオクリア妖精皇帝とプレイヤーハイロリが同盟を締結!!]

 


世界中の支部へとハイロリの第2エリア突破が報じられた。来訪者達の心はみんなシンクロすることになる。

 


「「「「「同盟?」」」」」

 


星そして同盟とわけのわからない情報に首をかしげる来訪者達。しかし日本支部だけは違った。この日、最前線組はこの報せを受け、盛大な宴を開くことになる。カポネ組が主導となっていたのはいうまでもない。待ちわびた漢がついに同じ場所にやってくる。

 


時は少し遡る・・・ハイロリがゴブ羽と押し合っていた頃、コロシアムは普段の数倍盛り上がっていた・・・。

 


「さぁ・・・ただいまよりソロ部門の決勝戦を行いますっ!!今回はチャンピオン不在となる波乱の展開・・・幾度と無く同じ組み合わせとなっていた決勝戦・・・それも終わりを告げました。彗星の如く現れた新星達がぶつかり合う・・・今宵新たなチャンピオンの名がこの星に刻まれる・・・それでは入場していただきましょうっ!!」

 


漆黒の門が開く。

 


闇の門から来たるは今話題の道場の元師範。鏖殺冥月流創始者。そして皆も知っているかの有名な来訪者ハイロリの妻。出場する度に実力はメキメキと上がっている刀使い・・・準決勝は前回チャンピオンを下しとうとうここまで駒を進めた。アヤネ選手の入場ですっ!!」

 


会場には大歓声が響き渡る。知っている者は知っている・・・親のいない幼きアヤネがヨシツネの世話をしながら、毎日懸命に剣を振り努力し続けていたことを・・・。観客席にはヨシツネそして門下生の姿もあった。そして純白の門が開く。

 


「光の門から来たるは英雄の忘れ形見。我らの愛しき英雄アステラが娘にしてこちらもハイロリの妻。アヤネ選手と同じく実力はメキメキと上昇している。その闘い方は両親の姿が重ねって見える・・・ビーストフェンサー。こちらも準決勝で前回ファイナリストを下し駒を進めた。アリス選手の入場ですっ!!」

 


再び大歓声が巻き起こる。今回のコロシアムはいつも以上に湧いていた。数千年の間、同じ名前が連なっていたソロ部門決勝に新たなニューヒロインの名があったからである。

 


さらに1人は遥か昔、命を救ってくれたあのアステラの娘。その雄姿を一目見ようと星中の実力者達が集まっていた。

 


「アヤネ・・・今回は手加減なしで相手してもらいますよっ!!」

 


「手を抜ける相手じゃないのはわかってるわよアリス。今回はちゃんとした得物・・・ゾクゾクするねっ!!」

 


アリスの雰囲気が変わる。

 


「ピヨ吉っ!!ピヨ子っ!!サリーっ!!おいでなさいっ!!

 


・・・わかってますね?ご主人様の力にもなれずおめおめと帰ってきておいてさらに無様な姿を晒した時は・・・?」

 


「「「ら、らじゃっ!!」」」

 


怯えながら答える3匹の姿がそこにはあった。ハイロリの横に最後まで並び立つことなく戻ってきたので、アリスによって恐ろしい叱責を受けていた3匹。実のところ3匹は現実でも死にかけることになったのである。呼び出された獣魔達を見てアヤネもスイッチが入っていた。

 


「あら?アリス・・・たった3匹でいいのかしら?」

 


「ふふっ・・・アヤネ相手に他の子達を出したって弾除けにもなりませんよ」

 


2人は妖艶な笑みを浮かべている。

 


「命唱。我はアヤネ。ハイロリ様の妻にしてハイロリ様の剣なり」

 


「命唱。我はアリス。ご主人様の妻にしてご主人様の盾なり」

 


「「・・・殺し合いましょう(愛し合いましょう)」」

 


アヤネとアリスがコロシアムソロ部門の決勝戦を舞台に再び激突する。

闇と光 第170話 ハイロリの天賦の才

ハイロリの不意をついた一撃はゴブ羽にヒットしたがまったくダメージを与えることができなかった。ゴブ羽が動き出す。

 


「次はこっちからいくぜっ!!集えっ!!ゴブ馬俑っ!!」

 


ゴブ羽が地のマナによる兵を繰り出す。その数3000体。一斉にハイロリへ襲いかかった。ハイロリの体が揺らめく。ハイロリゲンガーで分身を2体作り出した。

 


「量よか質ってか・・・っは!少しは頭を使えるようになったかっ!!」

 


兵達はハイロリの一撃では打ち崩せなかった。地のマナの強みである硬さ。それがハイロリをどんどん苦しめていく。次第に囲まれ身動きがとれなくなるハイロリ達。そこへゴブ羽の一撃が迫る。

 


「ゴブリンクラッシャァァァァッ!!」

 


自身の出した兵ごと粉砕するその威力。硬さは重い一撃へと変わる。3人のハイロリの姿は地上にない。ハイロリファントム・・・空中から攻撃に転じるハイロリ。しかしハイロリは血を吐きながら吹き飛ばされていく。分身も闇となり消えている。

 


ハイロリは全方位攻撃を苦手としていた。ゴブ羽のゴブリンクラッシャー・・・それはただの物理攻撃ではない。大気へ放てば大気へ衝撃が伝わりそれが敵に襲いかかる。

 


防御力の高さ故に慶トラップも意味をなさない。全方位攻撃により転移したそばから攻撃を受けることになる。ハイロリはパワータイプではない。より速くスピードを追求することを好む。ゴブ羽はハイロリがまさに苦手としている戦闘タイプであった。

 


・・・うん。がちでまずいな。攻撃が通らねぇ・・・こいつと相性悪すぎだろオレ・・・ゴブ布やゴブ羽のような重い一撃使えないんだよな・・・なんかコツでもあんのか?

 


でもゴブ羽の一撃を防御して軽減することはできている・・・つまりマナ量的に問題なし・・・後はどうマナを操作するかだな・・・おっさんからはハイスピード戦闘しか教わってねぇし・・・ダメージを最小限に抑えつつ・・・やり方を見て覚えるしかない・・・防御を突破できなきゃとりあえず話にならん。

 


ハイロリは傷を増やしながらもゴブ羽のマナの動きをじっくりと・・・ねっとりと観察していた。それはまるで嫁達を細部まで覗き込んでいるかのようだ。

 


溜めがあるな・・・インパクトの瞬間マナを放出するタイミングがオレより遅い。その結果、マナの勢いが爆発的に増している。重い一撃を放つにはそのまま大量のマナを込めるのではなく、体内で1度とどまらせることが必要なわけだな。

 


溜めを作ることによりマナはより圧縮、濃縮・・・表現の仕方はわからんが凝縮されてより大きなマナとなるわけか・・・水道のホースと一緒だな。だけどこれ普通に難しいな・・・。

 


ハイロリは気づいていなかった。今ハイロリはハイスピード戦闘をする時と同様のマナ操作速度で試行錯誤している。当然操作速度が速いほど難易度は上がる・・・初見のテクニックを数段階のステップを飛び越えいきなり高等テクに挑んでいた。

 


それはゴブ羽やゴブ布以上のマナ操作速度である。清十郎はハイロリにこのテクニックを教えていたつもりであった。ただ教える時は基本擬音のみで教えるため、ハイロリは見て盗むしかなかったのである。

 


ハイロリは清十郎から技術を盗み、物凄いスピードでテクニックを吸収してきた。しかし清十郎のマナ操作スピードは恐ろしく速い。そこでハイロリは速さが足りないと誤認した。師の攻撃に押されるならば押されないようにより速い操作速度を求めて対抗していたのだ。そのためこのテクニックの存在にハイロリは気づけなかったのである。

 


しかし基本である超高速マナ操作は会得しているハイロリ。基本と言ってもこれは清十郎基準・・・誰もがおいそれとこの域に到達できるようなテクニックではない。ハイロリの根底にあるものは思考能力・・・それと同時に感覚派でもあるハイロリ。

 


直感・・・勘で物事の真髄を掴む能力も異質なレベルであったからこそできたことなのである。それ故にハイロリは格下の動きならばいとも簡単に模倣することができるのだ。本人は自身を不器用だと思っている。

 


だがそれは物事に興味を持たないから・・・しかし何らかの目的もしくは興味が向いた時は恐ろしいほどの器用さを発揮する。これが凄まじい速度での成長の要因のひとつであった。天は二物を与えずというがハイロリは抜きん出た汎用性の高い2つの才能を持っている。

 


「うんっ!いいねぇ・・・自分の持つ才能を生かしきっている。まぁ・・・気づいていないみたいだけどね。ふふっ・・・地球という箱庭で真の才能を使ってる人なんてあまりいないのになぁ・・・大抵は夢に向かってとか間違った方向へ向かっていく。

 


それでいざ願いが叶うと夢が叶ったとか・・・周りから天才だともてはやされている姿・・・滑稽過ぎるよね。その点君はいい・・・さすが僕のハイロリ君だね」

 


デキウスが見守る中、何度も攻撃を繰り返すハイロリ。時折ゴブ羽は攻撃を躱していた。ゴブ羽は感じている・・・避けた攻撃をくらえばダメージを受けるということに・・・ゴブ羽も思考していた。

 


・・・たまに重い一撃が放たれている。さっきまでは軽い攻撃しかできなかったはずなのにどうなってるんだ?てっきりスピード型かと思っていたが違うのか?早めにケリをつけないとまずい気がする・・・この漢ならいずれ防御を突破してきそうだ・・・。

 


「そろそろ終わらせてやるよっ!!いくぜっ!!ゴブ馬俑っ!!」

 


ゴブ羽が再び兵を展開する。先ほどと同じような流れ・・・しかし結果は大きく異なることとなる。ゴブリンクラッシャーを放つゴブ羽。ハイロリファントムからゴブ羽に攻撃を入れる3人のハイロリ。溜めに成功した1人の攻撃がゴブ羽の体を真っ二つに斬り裂いた。

 


2つの塊となったゴブ羽。背後からゴブ馬俑の兵が接近していた。ハイロリの肉体へクリーンヒットする兵の一撃。ハイロリは遥か地中まで沈められていた。その穴の底は地上からは確認できないほどに・・・。

 


ゴブ羽はゴブ馬俑の兵士と入れ替わっていたのだ。かつて師が兵士の姿を変化させたようにゴブ羽と兵士の姿を変えていた。ハイロリが斬り裂いたのは兵士・・・ハイロリを沈めた兵士がゴブ羽なのである。

 


ゴブ羽の奥の手。師にすら見せたことのない技であった。伏兵ゴブ兵馬俑。本来ノリと勢いで戦闘するゴブ羽。ハイロリの裏をかくことに成功する。静けさが戦場に漂っていた。地中のハイロリが動く気配はない。

 


・・・もろに入っちまった。でもまだ生きている・・・咄嗟に全身にマナを展開したおかげかな・・・気づいた時には遅かったか・・・早く体を動かせるようにならなくては・・・追撃がきたら終わりだ。

 


ハイロリは静かに自身の体を修復していた。自己回復。それは超越者達の中でも一部の者にしかできない高等技。緻密なマナ操作と細胞レベルでのイメージが必要だからなのである。しかしこれはハイロリの得意分野。分子や原子レベルまでこの漢はイメージすることを普段から心掛けている。

 


ゴブ羽もまたこの隙をつき傷を癒そうとしていた。本当であれば追撃したいのだが、ハイロリ相手に退路の確保できない場所には行きたくない。ゴブ羽は師の闘い方は知っている。騙し討ちなどはもはや日常。あらゆる手を使ってくる。今本当に地中にいるのかすら信じられない。リスクをとるくらいならば、安定をとる・・・皇帝となったゴブ羽は堅実な選択肢を選んだ。

 


このことがハイロリを救う。もし追撃されていたら簡単に討ち取られていたことであろう。普段の行いというのものはとても重要であるようだ。ゴブ羽の選択・・・それはハイロリを仕留める好機を逃すことにつながった。ゴブ羽の修復速度はハイロリに比べて遥かに遅い。どちらが先に終わるかは明白であった。

 


これが妖精の星の未来という道の分岐点となる。

闇と光 第169話 立ち上がるハイロリ

ハイロリはその場から一向に動く気配がない。ゴブ羽が一歩ずつゆっくりと近づいてくる。

 


「・・・もうあんた1人だ。先生だって知っているだろ?とっくの昔にオレの方が先生より強くなっているということに・・・そして皇帝となった今さらに強くなった。たとえ命唱が使えたとしてももうオレには敵わないだろう?

 


・・・引いてくれないか?ゴブ美姐さんは不慮の事故だ・・・もうかつての仲間を・・・ゴブロリをこの手で殺めたくはないんだ・・・」

 


「・・・」

 


押し黙るハイロリ。今ハイロリには違う景色が見えていた。

 


ゴブ布・・・深紅の薔薇・・・お前らの思いは受け取った。必ず開星へと導いてやる・・・なぁゴブ布・・・愛しき友よ・・・オレの完敗だ・・・愛の大きさでオレはまだまだだと思い知らされたよ。美貴がオレを庇った時・・・オレはまったく動くことができなかった・・・。

 


お前らは違うんだな。自分を庇い、ゴブ厳達の命が目の前で奪われようとも心はひとつも乱れなかった。ゴブ布がゴブ厳らを信じ、ゴブ厳らもゴブ布も信じ切っている。彼女達が己を庇うために命を懸けるというのならば、ゴブ布はそれを受け止め前へ進む。彼女達の命という後押しを受けたからには、自身のなすべきことをなす。

 


大きすぎる・・・お前らの愛の域にオレ達は辿り着けていない・・・いやオレが辿り着けていない。美貴はオレを助けるために命を懸けた・・・あの笑顔は美しかった・・・その思いをオレは受け止めなければならない。

 


たとえこれが現実で実際に目の前で美貴の命が奪われようとも・・・オレは美貴の気持ちを受け止められる漢にならねばならない・・・っふ・・・幸せ者だなオレは・・・まだまだ嫁達より大きく愛することができるとはな・・・。

 


なぁ・・・ゴブ布・・・嫁達に今すぐ会いたくなっちまったよ・・・お前らのようにもっともっと愛し合いたくてたまらない・・・この最弱の王に力を貸してくれよ・・・オレとともにこの星を変えよう。

 


さっさと開星させてオレは王への階段を登らないとな・・・まだまだ1合目にすら辿り着いていない。お前の夢を叶えた後はオレの望む世界を見せてやるぞゴブ布・・・さぁ・・・行こう・・・。

 


ゴブ布と深紅の薔薇達の姿がハイロリには映っていた。ゴブ布らは優しい笑みを浮かべている。

 


「ふふっ・・・面白いねぇ。さらっと予定外のことをしてくれる・・・しかしこれで理の内へと入った・・・そしてこれなら・・・さぁ僕に新たな君を見せてくれたまえハイロリ君」

 


デキウスもこの様子を眺めていた。民達も星下無双のゴブ布の言葉通り1人の漢に視線が固定されている。妖精の星のすべての視線はハイロリに向いていた。立ち上がるハイロリ。その目にはもはや涙などない。

 


「ゴブ羽っ!!・・・これだけ同族が命を懸けているのにまだ心を変える気はないのか?なぁ・・・ゴブ羽よ。民達の声に耳をすませてみよ・・・オレには聞こえる・・・星のマナがそう言っている・・・彼らはゴブ布達の姿に心を動かされているぞ?

 


お前とてバカじゃない・・・もしかしたらと感じているのだろう?オレとゴブ布のように人族と妖精族が手を取り合える未来を・・・」

 


「・・・そんなもん最初から感じてるよ・・・でも認めるわけにはいかないんだっ!!オレは皇帝・・・この星の歴史という重いものがオレの背中にのしかかってくる。先人達の築き上げたこの星の軌跡を・・・皇帝となったオレに壊すことはできないんだよっ!!」

 


「・・・先人がなんだ?歴史がなんだ?そんなものに価値などないっ!!今を生きる者達を縛りつけ新たな可能性を摘み取るだけのものに過ぎないっ!!過去に囚われし固定観念など捨てされっ!!

 


過去の遺産などぶち壊せ・・・新たなものを創造しろっ!オレやお前が鎖星前の時代に生まれ・・・そして出会っていたら・・・鎖星が行われたと思うのかっ!?所詮鎖星はオレとお前がその時代にいなかったから行われた・・・その程度のことでしかないっ!!未来を作るのは今を生きている者たちの役目・・・過去の歩みなどただの足枷だっ!!不要なものであるっ!!

 


その足枷をこのオレが・・・師としてではなく・・・未来の人族の王として・・・対等な立場で・・・壊してやるっ!!

 


星を縛るその鎖をこの手で消滅させてやるよっ!!」

 


「・・・あくまで闘うというのか?残念だよ先生・・・結果なんてわかりきっているだろう?・・・その目は本気だな。わかったよ・・・相容れない時は争いとなる・・・あんたの教えだ。ならばオレとあんたでケリをつけよう。

 


・・・人族の未来の王よ。妖精の星皇帝ゴブ羽が貴様の幻想を打ち砕いてくれるわっ!!」

 


「命唱。我はハイロリ。ゴブ布が最愛の友にして人族の王なり」

 


「・・・っ!命唱。我はゴブ羽。妖精の星皇帝なり」

 


ハイロリが命唱を唱えた。マナが増えていく。ゴブ羽は戸惑いながらもそれを受け、命唱し返す。

 


「ゴブ羽・・・最初から全力でいくぞ?オレも友もそわそわしてっからな?開星が待ち遠しくて仕方がないってなっ!!」

 


肆の理へと入るハイロリ。そして・・・彼の体からはバチバチと稲妻が迸っている。スパーキング状態・・・それはゴブリン族にのみ許された秘術。それにハイロリはアレンジを加えていた。

 


自身もスパーキング状態になれないかと影で努力していた。そして神経内の電気信号を加速させることには成功していたのだ。これが命唱の使えないハイロリが敵と渡り合えてきた秘密なのである。そして・・・今ここにハイロリの努力とゴブリン族の秘術が交わる。

 


「ハイロリスパーキングとでも名付けようか・・・ゴブ布・・・お前の力を借りるぜっ!!」

 


ハイロリの右目の瞳は黄金色に染まっていた。ハイロリの体の中にはゴブ布そして深紅の薔薇達のマナが宿っている。ゴブリン族のマナを宿すことにより命唱を制限するという理から外れることができていた。

 


さらにスパーキング状態・・・ゴブリン族のマナのおかげでその状態に到達できるようになったのだ。強化術の使い方はゴブ布達のマナが囁いてくれている。

 


ゴブリン族と人族の違いは緑色であるか否か・・・かつてハイロリの言った言葉。その言葉が現実のものへと変わってゆく。民達はハイロリの姿を見て2つの種族にある違いはささいなことでしかないと思い始める。ハイロリが武器を構えた瞬間、星中の民達から歓声が湧き上がる。

 


「ハイロリソード・・・フォルム赤鬼(レッドデーモン)」

 


ハイロリはゴブ布の八星剣を左手に持ち、右手にはハイロリソード。その刀身は漆黒の八星剣そのもの・・・八星大剣二刀流。民達にはハイロリの立つ姿がゴブ布の姿と重ねって見えていた。

 


「ゴブ羽っ!!開星をかけた大喧嘩・・・もちろん買ってくれるよな!?

 


さぁ・・・殺し合おう(愛し合おう)」

 


ハイロリが八星剣を投げる。ゴブ羽はそれを受け流す。そこへハイロリソードの刀身が迫っている。さらに後ろから投げた大剣を掴みハイロリがそのまま斬りかかってきていた。

 


2人のハイロリの姿が戦場にあった。ハイロリゲンガーはこの星の闘いを通してさらに精度が上がっていたのである。2人のハイロリによる挟撃。分身攻撃を放てるまでハイロリは成長していた。

 


「甘ぇーよっ!!」

 


ゴブ羽が重い斧槍の一撃で2人のハイロリを吹き飛ばす。地面から這い寄るハイロリの姿があった。双鞭刀の一撃がゴブ羽にヒットする。さらに大量のハイロリハンドが八星剣とハイロリソードを携えゴブ羽へ襲いかかった。

 


ズドォォォンッ!

 


星の大地へと突き刺さる二振りの八星剣。

 


「そんな軽い攻撃・・・オレに効くと思ってんのか?」

 


無傷のゴブ羽の姿がそこにはあった。

闇と光 第168話 ゴブ布の咆哮

少数精鋭となった皇帝軍がハイロリ達へと迫る。一糸乱れぬ同時攻撃。反乱軍の兵力は減っていく。しかし皇帝軍の将兵達のダメージも大きい。繰り返す攻撃の中、ゴブ布により着実にダメージは刻まれている。深紅の薔薇の攻撃を避けた後では皇帝軍の将兵といえども被弾するしかない。

 


だが転移式車懸かりの陣が突破されるのはもはや時間の問題となっていた。最初からハイロリは皇帝軍がこの陣の欠点を見抜き、突破されるということは理解している。ともに闘い抜いてきた仲間達。彼らの実力はすべて把握済み。自身が討たれるということは計算尽くのことであった。

 


自身は討たれることになるが、皇帝軍の将兵達はそれぞれ浅くないダメージを負う。それだけ今のゴブ布を止めることは難しい。この戦術が打ち破られた後は無傷のゴブ布がいればきっとこの戦に勝てる。オレなどいなくても・・・ゴブ布の思いとこの戦を見た民達がいればきっと開星に近づくはずだ。

 


しかし計算外のこともある。皇帝ゴブ羽が無傷であること・・・皇帝となりさらに力が上がってしまったようだ。あいつだけはゴブ布の攻撃をなんとか受け無傷を貫いている。

 


これには理由があった。ゴブ信の言葉を聞いた皇帝軍。ゴブ布に勝てる可能性があるとしたらゴブ羽ただ1人。軍議の中で皇帝にダメージが入らないように他の将兵がカバーするということが事前に取り決められていた。しかしその分他の将兵のダメージはハイロリの予測よりも大きい。

 


ここで皇帝軍が動く。ゴブ信のマナが高まったことがトリガーとなる。深紅の薔薇で闘っている者達も残り僅か・・・ハイロリの首を取ろうとゴブ良、ゴブ策、ゴブ瑜、隊長達のマナも増幅する。

 


ゴブ信渾身の黑翠波が放たれる。ゴブ布の八星剣の一撃により水龍ごと斬り裂かれ、その斬撃はゴブ信の元へと届く。ゴブ信は星の大地へと沈む。

 


ゴブ策とゴブ瑜が防御を捨て、高速の連撃が深紅の薔薇へ放つ。彼女達はすべて吹き飛ばされてしまう・・・が2人もまたゴブ厳らの攻撃により星の大地に沈むこととなる。

 


ハイロリを守るものは存在しない。そこへゴブ良の真空波の連続攻撃が襲う。ゴブ布が急いでゴブ良の体を吹き飛ばした。この攻撃によりゴブ良もまた星の大地に沈む。

 


ハイロリに襲いかかる真空波。ハイロリゲンガーを使い避ける・・・しかしハイロリの本体が現れた位置へと真空波が迫っていた。師と弟子であるからこそ逃げる先が予測されてしまったのかもしれない。もはや避ける術は残されていなかった。

 


真空波はハイロリの体に当たることはなかった・・・ハイロリは突き飛ばされていたのだ。真空波に貫かれたのは美貴・・・ハイロリを庇うため転移してきていた。笑顔を見せたまま美貴の体は光となって消えていく。

 


そこへ非情なる一撃が迫っていた。ゴブ羽のゴブリンクラッシャーである。美貴を目の前で失ったハイロリはすぐに動き出すことができなかった。眼前に斧槍が迫ってきていてもハイロリは呆然としている。

 


激しい音が五丈原に響き渡る。斧槍から紅き血が滴り落ちていた。

 


「・・・なにやってんだお前っ!?」

 


ハイロリから怒号ともいえるような声が上がる。ゴブ羽の強力な一撃をゴブ布が受け止めていた。一歩も動くことなく、その身ですべての衝撃を受け止めている・・・しかし斧槍までは防げなかったようだ。ゴブ布によって吹き飛ばされるゴブ羽・・・ゴブ布は斧槍が突き刺さったまま仁王立ちしている。

 


「お前が残ってればこの戦はきっと勝てたはずだっ!!たとえオレがいなくとも開星への道が拓けただろうっ!?何をしているのかわかっているのかっ!?」

 


「・・・ハイロリよ。お前でなくてはならないのだ。ゴブ羽の心を動かせるのは我ではない・・・師であるお前だけなのだ。美貴も含め我ら全員で話し合った結果だ。

 


たとえ開星したといえども・・・民達全員が賛同したとしても・・・それは真の意味での開星ではない。妖精の星の開星を進める強きリーダーが必要なのだ。それは我ではない・・・我には王としての器はない・・・お前の選んだ王・・・ゴブ羽がそれをなさねばならぬのだっ!!」

 


「避けろっ!!ゴブ布っ!!」

 


ゴブ羽の追撃がハイロリ達に迫っていた。しかしそこへゴブ厳が転移してくる。

 


「ゴブ布様の夢の邪魔はさせませんわ・・・ゴフッ・・・」

 


ゴブ厳がゴブ布らを庇ったのだ。

 


「聞けぃっ!!星の民達よっ!!彼女達は我と同じ夢を見ているっ!!そのために我が妻達は我のために命を懸けてくれているっ!!」

 


ゴブ羽の追撃を深紅の薔薇が転移をして肉壁となり防いでいる。

 


「どけよお前らっ!!これ以上無駄な命を使うなっ!!オレは同族であるお前らを守りたいんだ・・・頼むからどいてくれ・・・」

 


ゴブ羽の攻撃の手が緩む。ハイロリを狙っていた攻撃なのにすべて同族により防がれてしまう。ゴブ羽は迷いながらも深紅の薔薇の命をひとりまたひとりと奪ってゆく。

 


「ゴハハハッ!!ゴブ羽よっ!!これこそ至上の愛・・・我と同じ夢を見た妻達であるぞっ!?ハイロリの命が欲しければすべて貫いて参れっ!!

 


我はこの赤き体により虐げられてきたっ!!常にひとりであったっ!!我は愛を知らなかったっ!!そんな我に初めて愛を教えてくれた者がここにいる人族ハイロリであるっ!!

 


ハイロリは命懸けで我を救ってくれたっ!!命を助けてくれたっ!!愛を知らぬ我に初めての愛をくれたっ!!愛とはとても温かいものであったっ!!我は満たされていくことを感じたっ!!

 


我は見たい・・・他種族と笑い合うその姿をっ!!ひとりだった我を救ったのは同族ではないっ!!他種族なのだっ!!妖精族も人族もなんら変わりないっ!!同じ命なのだっ!!我は他種族と妖精族が手を取り合う姿が見たいっ!!

 


民達よ・・・我が命・・・この夢にかけるっ!!人族ハイロリへとこの夢を託すっ!!この星下無双のゴブ布の命に免じて人族ハイロリの闘いを見守ってもらいたいっ!!

 


この漢もまた我と同じ夢を見ている・・・他種族であっても我と同じ夢を見ることができるのだっ!!人族であっても分かり合えるのだっ!!我らは互いに友と呼び合う仲であるっ!!

 


星の民達よっ!!我らが友の絆をしかと見届けよっ!!我らが手を取り合う姿をその目に焼き付けよっ!!」

 


最後の深紅の薔薇の隊員が倒れた。ゴブ羽がゴブ布に対し攻撃を仕掛けてきている。

 


「邪魔をするなっ!!友との最後の時間であるぞっ!!」

 


ゴブ布の一撃で再び吹き飛ばされるゴブ羽。その動きは止まっていた。星中の民達もゴブ布とハイロリの姿を注視している。ゴブ羽は2人の姿を立ち尽くしながら見ていた。

 


「兄上・・・」

「兄者・・・」

「「羽ーくん・・・」」

 


将兵達もわかっていた。ハイロリが他の人族と違うこと。ハイロリとならば分かり合えるかもしれない。ゴブ羽は皇帝が故に鉄の掟を破ることができなかった。先人達の思いを無駄にしてしまうからだ。皇帝という立場の責任は想像以上に重いのである。

 


「友よ。我の天命は尽きようとしている。最後に友の命を救えて幸せであったぞ。我の代わりに開星への道を切り拓いてくれ」

 


「ゴブ布・・・お前らみんな何してるのかわかってるのかっ!?今のオレに力はない・・・お前ならこの戦に勝つことができたのにっ!?馬鹿なことをするんじゃねぇよっ!!」

 


ハイロリは涙を流していた。友が託してくれた思いを引き継ぐことができない己の弱さ。最弱の王は己の力の無さをただ悔やんでいた。

 


「案ずるな・・・我が力を貸してやる。生まれ変わることができたならばお前とは異性で生まれたかったものだな・・・お前となら良き仲となれたことであろう・・・ゴハハハッ!しかしそれも叶わぬ夢・・・だがそれでも我はよい・・・友とともにゆく道を選ぶ。お前の思い描いた世界を必ず作るのだぞ」

 


ゴブ布は満面の笑みを浮かべながらハイロリへと手を差し出す。ハイロリの涙は止まらない。

 


「受け取れっ!!ハイロリよっ!!我らの魂は常にお前と共にあるっ!!

 


我もそう長くもない・・・我らの思いを無駄にするのか?未来の王よ」

 


ハイロリがゆっくりとゴブ布の手を取る。ゴブ布の体からマナが流れ込む。亡骸となった深紅の薔薇達の体からもマナが飛散し、ハイロリの中に入ってくる。

 


ゴブ布と深紅の薔薇の体は綺麗に消え去っていく。静かにハイロリを見つめるゴブ羽の姿があった。

闇と光 第167話 五丈原の闘い

ゴブ羽が斧槍を構えてハイロリへとすぐ様襲いかかる。しかしハイロリは闇となり姿をくらました。静けさが漂う五丈原

 


「ぷはははっ!そこで攻撃を仕掛けてくるとはさすがの弟子だな」

 


「ゆけ黑州兵っ!!」

 


ハイロリ目掛けて黑州兵が転移してくる。ハイロリも負けじと転移する。漆黒の閃光が戦場を飛び交う。

 


「敵襲っ!!」

 


皇帝軍の背後に茶色の閃光が飛び交っている。その数501。ゴブ布と深紅の薔薇による奇襲であった。前方では数名の黑州兵が地面に倒れている。遅れて銃声がやってきた。その数は倒れている兵の数とまったく同じであった。

 


美貴による狙撃。ゴブ良の真空波同様に風も吹き荒れている。真空波の技術を用い、さらに彼女もまた転移を会得していた。転移式移動型真空弾狙撃。音の鳴った方に彼女はいない。

 


「「「「「先生・・・」」」」」

 


ゴブ妻達はこの闘いに参加していなかった。ゴブ美先生と闘いたくなかったのだ。実は彼女達はゴブロリとゴブ美が人族であるということをだいぶ前から知っていた。

 


夜の戦闘の勉強を教えるため、実際の戦闘の様子を何も隠すことなく美貴はゴブ妻達へ見せていた。フーカが自分達に見せてくれたように美貴もまたゴブ妻達に見せていた。このことをハイロリは知らない。やはり男というものはまぬけである。

 


鋭い斬撃がハイロリの体を襲う。しかし体からは無数の手が生えてくる。その手を瞬く間に斬り裂くゴブリンの姿。ゴブ蔵がハイロリの首をとりにきたのである。

 


後方ではゴブ布目掛けて各将兵が突撃している。しかしゴブ布は将兵達を軽く吹き飛ばす。ゴブ厳達は転移からの攻撃を仕掛けている。ゴブ布とハイロリの共同の練兵。彼女達はハイロリファントムまでとはいかないが、誤差0.数秒で命唱状態まで持っていける。

 


ゴブ羽達ならば僅かな隙をつき対応できたかもしれない。しかし一般兵達はその隙をつくことができず、どんどんやられていく。

 


なるほどな。ゴブ蔵がオレの首をとりにきている・・・残りはゴブ布を抑える役割をしているのか。まずはオレを叩き潰すつもりのようだな。脳を潰せという教えをよく理解している・・・さすがの弟子達。

 


美貴の狙撃もゴブ蔵は避けている。命唱なしではさすがに当たらないか・・・このまま闘い続けていればいつかゴブ蔵の手によりオレは討たれる。しかし今回は策というものは何も持ってきていない。持ってきたもの・・・それはたったひとつの戦術のみである。さぁ披露するとしようっ!!

 


ハイロリソードから巨大なレーザーが放たれる。それは闘気状態のハイロリのフルパワーであった。ゴブ羽に向かっていく漆黒の光線。皇帝は一瞥することもなくそれを薙ぎ払う。

 


その隙をつきゴブ蔵がハイロリの首を狙う。それは絶妙なタイミングであった。命唱なしのハイロリはまったく動くことができない。ハイロリの首へとゴブ蔵の刃が迫る。

 


ズドォォォンッ!!

 


ゴブ蔵の体が星の大地へと沈む。

 


「我が友に触れさせんと言ったであろう?」

 


「ゴブ布っ!!ゴブ蔵は死んでないんだろうなぁっ!?合図は出したけどそこまでやれとは言っていないっ!!」

 


「ゴハハハッ!!我を信じれないのか?」

 


「・・・なら大丈夫だなっ!!敵さんはオレの友を抑えることができないようだ。存分に暴れてもらうぞゴブ布っ!!」

 


「まかせよっ!!我がこの武っ!!再びこの星下に轟かせんっ!!

 


我が名はゴブ布っ!!星下無双の豪傑なりっ!!」

 


いつのまにか深紅の薔薇も2人の背後にいる。500騎がくるくるとハイロリとゴブ布を中心に回り出す。

 


「受けよっ!!皇帝軍っ!!オレが用意してきたものはたったひとつっ!!この戦術のみだっ!!シンプルイズベスト・・・敢えて策を使わないこの単純な戦法っ!!受けきってみせよっ!!

 


車懸かりの陣発動っ!!」

 


皇帝軍が包み込むようにハイロリ達に向かって進軍してくる。激突するかに思われたその刹那それは起こる。502人の姿が消えた。皇帝軍の横腹を茶色の閃光が飛び交っている。ハイロリの戦術車懸かりの陣。それは全員が転移を扱えるからこそできた戦術。

 


かつて上杉謙信の用いた必殺戦術一手切。一般的に車懸かりの陣と呼ばれるその秘術。ハイロリは上杉を先祖に持つ小鳥遊芹香からその真髄は聞いていた。上杉謙信の必殺技が妖精の星に蘇る。

 


1度放てば止めれるものはいない。即ち敵なし・・・芹香がこの名字に変えた理由は目立つだけに非ず、己が先祖の秘術の強さからもとっていた。

 


ハイロリの用いている戦術はその亜種といってもよいだろう。本来は肉を切らせて骨を断つ・・・敵方の将兵の首をとるための戦術。しかしこれはまったく近づけさせずに敵を屠るための戦術である。転移式車懸かりの陣。

 


ひとりが攻撃を放てばそれは一撃ではない・・・数十連撃となる。高速転移を繰り返すことによりマナの残光が回転しているように見えるためこの名前をつけた。

 


さらに深紅の薔薇は遠近両用のオールラウンダー。美貴により遠距離攻撃も鍛えられている。同じく芹香の先祖である伊達政宗の戦術騎馬鉄砲隊の要素も取り入れていた。

 


騎馬で疾走しながら銃弾を放つ戦術。深紅の薔薇の前衛は近接攻撃。マナを貯めた後衛はそこから数十発の弾丸を放つ。放出すればマナを貯めた前衛と後衛がすぐ様入れ替わり高速の連携攻撃を繰り出している。

 


騎馬鉄砲隊は近接攻撃に持ち込まれ敗れてしまった。しかし遠近両用の転移式車懸かりの陣にはその欠点は存在しない。さながら織田信長の用いた三段構えである。ハイロリは守護家から各大名の戦術の真髄を聞き、己のものにしていた。

 


そしてもう一段。それを担当するのは美貴とゴブ布。美貴の精密射撃とハイロリファントムからゴブ布の攻撃が突如として加わる。二の槍を繰り出そうとする敵はすべて美貴に射殺される。そして打ち崩そうと向かってくる皇帝軍の将兵はゴブ布によりすべて吹き飛ばされることとなる。

 


ハイロリの産み出した最強戦術である。ゴブ布・深紅の薔薇とハイロリ・美貴。この闘いまでの時間、寝食をともにしてきたのだ。夜の戦闘時も同じ場所で自身の妻と地鳴りを起こしてきた。彼らの連携力は凄まじい。

 


そしてそれを統率するのがハイロリ。502人すべてに指示を出している。念話による指示。命唱はできなくても多重多列思考は可能・・・出せる限りのハイロリの最大限の強さを出している。

 


しかしこの完璧と思われる戦術にも弱点が2つだけ存在する。深紅の薔薇の転移から命唱までのタイムラグ。そして統率するハイロリの戦闘力が不足していること。もし仮に全員がハイロリファントムを会得し、ハイロリが制限なく命唱を使うことができたなら皇帝軍はなす術なく敗れ去ることになっていたであろう。

 


次々に皇帝軍の兵達がやられていく。黑州兵の隊長達ですら高速転移の闘いについていくことが精一杯である。ここで皇帝軍の頭脳が動く。一般兵をすべて下がらせたのだ。もはや対抗できていない兵達は弾除けにしかなっていない。ただの無駄死にである。そして邪魔なだけであった。

 


ゴブ羽、ゴブ良、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ瑜そして愛天地人の隊長9人のみとなる。彼らが一斉にあらゆる方向からハイロリ達へ襲いかかる。ゴブ良とゴブ瑜は気づいていた。この神がかった攻撃を可能としているのは中心にいるハイロリの存在であることに・・・そして深紅の薔薇のハイロリファントムが完全でないことに・・・。

 


目には目を・・・それは師の教えである。連携には連携で返す。皇帝軍は連携によって転移式車懸かりの陣を打倒しようとしていた。

 


将達の絶理状態を止めることができるのゴブ布ただひとり。それ故に全方向からの同時攻撃は次第に捌けなくなってゆく。タイムラグを狙われ、隊列が段々と乱れて深紅の薔薇の隊員の数も減っている。

 


幸いにも隊員に動けなくなった者達はいるものの死人は未だ出ていない。これは皇帝軍が切り崩すことに重きを置いていたためである。威力は最低限にし連撃とスピードを意識していたのだ。

 


ハイロリ考案の不完全な最強戦術は次第に打ち砕かれようとしていた。