闇と光 第166話 黑船来航

ゴブ羽は首都を再び洛陽に戻した。焼かれた街や城もかつての栄華を取り戻している。そんな洛陽の港に漆黑の船が来航する。

 


港は厳戒態勢。兵の姿がある。謎の黑船により妖国の巡視船が次々に沈没させられているからだ。民達は何が起こるのかと野次馬となり、港に殺到している。

 


「我は妖国大将軍ゴブ信っ!!そちらの目的はなんだっ!?」

 


「開星シナサーイッ!!」

 


どこからともなく声がする。しかし船上には誰の姿もない。

 


「・・・開星?妖精の星には鉄の掟があるっ!!それはできぬ相談であるっ!!」

 


「ならば・・・このゴブロリが皇帝軍に対し反乱を宣言するっ!!」

 


現れたのはゴブリンスーツを着たゴブロリであった。港に集まっていた民達がざわざわとし出す。民達も不思議でたまらなかったのだ。ゴブ羽三兄弟の師であり、皇帝軍を星平定へと導いた功労者ゴブロリ。彼の名が新皇帝軍の重役に名を連ねていなかったである。

 


民達の間では様々な憶測が飛び交っていた。病死説なども出ていた・・・そんなゴブロリが反乱を宣言し、民達の前に再び姿を現したのだ。民達の視線はゴブロリへと集まっていく。

 


ゴブロリはゴブリンスーツを脱ぎ捨てる。突如現れた人族の姿に民達は静まり返る。

 


「我が名はゴブロリっ!!真の名はハイロリであるっ!!みなの見た通り・・・オレは人族だっ!!しかし対等な立場で今日は要求しにきたっ!!

 


未来の人族の王が所望するっ!!この星を開星せよっ!!大将軍ゴブ信っ!!返答はいかにっ!?」

 


「・・・先生・・・なんで戻ってきたんだよ・・・。

 


要求の答えはノーであるっ!!最も我が同胞の命を奪った人族とは決して相入れることはないっ!!即刻この星より立ち去れぃっ!!立ち去るならば手荒な真似はしないとこの大将軍が誓おうっ!!」

 


「ならば宣戦布告させてもらうっ!!決戦場所は五丈原。日時は1週間後。我らが勝った暁には開星をしてもらうっ!!王にしかと伝えておけっ!!」

 


ゴブロリ改め人族ハイロリによる宣戦布告。民達は様々な事実により衝撃の嵐だった。皇帝の師が人族であり、さらに皇帝軍に戦を仕掛けるというのだ。再び民達はざわめき出す。ゴブ信は静かに目を閉じていた。しばらくした後、目を見開く。

 


「我らが王への叛逆と受け取った・・・1週間後と言わずこの場で散れぃっ!!人族の王よっ!!」

 


ゴブ信にも立場がある。ハイロリには感謝をしていた。たとえ人族であろうとも苦楽を共にした間柄。心の中では仲間だと思っている。だが皇帝に対しての堂々とした叛逆を民達の前では認めるわけにはいかなかった。ゴブ信は師ハイロリを討ち取る決意を固めたのだ。

 


ゴブ信の黑槍と翠槍がハイロリの眼前に迫る。茶色の閃光とともにゴブ信の体が吹き飛ばされる。そこから現れたのは赤いゴブリン。民達も知っているその姿。かつて星下無双と称された漢・・・ゴブ布の登場である。

 


「我が友に触れようならば我が許さぬっ!!我こそはゴブ布っ!!妖精の星最強の漢なりっ!!我は開星を要求するっ!!

 


人族の王ハイロリとともに反乱を起こすことをここに宣言するっ!!」

 


「我が友ゴブ布とともに反乱させてもらうっ!!仮にも皇帝軍・・・逃げも隠れもしないでくれるよなっ!?これは妖精族と人族の代表による共同声明っ!!我らは開星を要求するっ!!

 


妖精の星の民よっ!!ひとりひとりが我らの宣戦布告の証人であるっ!!我らの思い描いた開星という未来の行く末・・・しかと見届けよっ!!」

 


民達が様々な声を上げている。ハイロリとゴブ布の共闘。2人の知名度は抜群・・・民達はどちらが勝つのかという話題で持ちきりだった。何よりもかつて敵同士であった2人が種族を超え、手を取り合っている姿に心が揺れ動かされていたのである。

 


瓦礫の中で1人ゴブ信は俯いていた。ハイロリとゴブ布は堂々と去っていく。億夫不当の豪傑ゴブ信をたった一撃で吹き飛ばしたゴブ布の武勇はその日のうちに星中の民達に広まる。

 


民達の間でも意見は二分されてゆく。鎖星継続派と開星推進派。次第にこの星の未来を左右する決戦に民達の視線は釘付けとなる。

 


「ゴブ布はどうでしたか?ゴブ信?」

 


「・・・あれは化け物だ。以前のゴブ布とは比べ物にならない強さ・・・どうせ先生の仕業だろうよ」

 


「信くんがやられなければよかったのですがね・・・まぁ信くんがそう言うならば厳しい闘いになりそうです」

 


「ましてやあのロリ先が敵・・・一筋縄ではいかねぇよな」

 


「しかし警戒するのはゴブ布のみでよい。先生には力は残されていない・・・よもや実力行使に出てくるとは思わなかったが・・・ゴブ蔵・・・何か情報は掴めたか?」

 


「申し訳ありません皇帝陛下・・・おそらく我が師による妨害工作・・・何の情報も掴めておりません」

 


「ゴブ布をいかにして抑えるか・・・そして彼をいち早く討ち取るしかありませんね。彼がいては我らの考えた策も通りが悪い・・・真紅の薔薇隊もいると思った方がよいかもしれません。どのくらいの兵力があるのかすらまったく想像がつきませんね・・・」

 


「・・・案外先生も無策かもしれませんよ?この猛将揃いの皇帝軍を打ち崩すのは至難の技です。そういう時はどうなるか皆さん知ってますね?

 


ゴブ羽軍得意の即興・・・つまり無策。その場で臨機応変に対応する。そもそも相手の兵力がわからないのです・・・対応しようがありません。最重要ターゲットはハイロリ。反乱軍の頭脳を奪わなければゴブ布を討ち取ることは叶わないでしょう」

 


「ならば・・・ゴブ布を抑える役目は将兵が担当とする。先生はゴブ蔵・・・お前が討てっ!!」

 


「御意」

 


皇帝軍の軍議が進む。狙いはハイロリの頭脳を打ち砕くこと。あとはじわじわと策や物量でゴブ布を疲弊させ、皇帝軍総出で討ち取る。皇帝軍の軍議は決戦の日時まで毎日続けられた。

 


一方反乱軍はあるものを製造していた。そして星中の村や街へと設置している。これは決戦の様子を投影する装置。たとえ敗れたとしても民達の心に届けば開星の目的は達成することができる。

 


民達をすべてを観戦者にしたてあげようというのだ。仮に勝っても皇帝軍が有耶無耶にしてしまえば結局開星はなされない。すべての民達は決戦の生き証人。

 


各々が期日までの時間を過ごす。そしていよいよ決戦当日となった。五丈原にひとり歩いていくハイロリ。対する皇帝軍は既に布陣が完了している。ハイロリの姿を確認しゴブ羽がひとり前に出てきた。

 


「時間を伝えてなかったのに既にいるとは殊勝なことだな・・・妖精の星の王よ」

 


「・・・開星はしない。必ずや阻止してみせる。まさかひとりというわけではないよな?我が軍は弱くはないぞ?」

 


「・・・さぁどうかな?」

 


皇帝軍は総数10億。見たこともない顔もある。おそらく新参者だな。ゴブ良、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ瑜さらには愛天地人の隊長達までいる。ゴブ妻とゴブ蔵の姿は見えない。

 


ゴブ妻はわからないが、ゴブ蔵は間違いなく潜んでいる・・・オレあたりを狙っているのか?まぁ反乱軍の恐ろしさを味わさせてやるよお前ら・・・。

 


「じゃあさっさと開戦しようぜ?皇帝よっ!!」

 


「ゴハハハッ!適当なところがあんたらしいよ。その首貰い受けさせてもらうっ!!」

 


映像や音声などはすべて民達の目に止まっていた。固唾を飲んでこの戦の行方を見守っている。五丈原を舞台に星の未来をかけたハイロリとゴブ布の闘いが始まった。

闇と光 第165話 立ち上がる叛逆者

妖精の星妖王国。新生王国軍による政治方針が示される。鎖星は解除しなかったものの、ハイロリの教えを継承した素晴らしき方針であった。元より民達に人気のあったゴブ羽軍。あっという間に民達に慕われる王となる。重役の任命式も行われた。そこにゴブロリの名前はない。

 


「ねぇ?慶太・・・これからどうするの?」

 


「行かなければならないとこがある。オレは約束を守れなかった。それを謝らなければならない。そして美貴にはまだ紹介していなかったな・・・今から会いに行こう」

 


ハイロリは美貴を抱き締め、闇に包まれ転移していく。

 


「すまんっ!!オレの力不足だっ!!約束を達成することができなかった・・・お前の好きなようにしてくれ・・・」

 


ハイロリは土下座をして謝っている。美貴はその様子を呆然と見ていた。

 


「いきなりどうしたハイロリ。ゴブ羽の公布は我らも聞いた・・・いつまでも謝るな。済んだことを悔いても何も変わらない。何があったか話してみろ」

 


ハイロリが会いに来たのは隠居生活をしているゴブ布。ゴブ布は真紅の薔薇500人をすべて妻として娶った。ゴブ布の表情は優しいものへと変わっている。

 


ハイロリはゴブ布にありのままを話す。そして原因は己の力不足。そして友との約束を果たせなかったことを謝り続けている。

 


「ハイロリよ。お前は1度ダメだったら諦めるのか?遥か昔より守られてきた鉄の掟。そう簡単に壊せるわけなかろう。我が闘っていたゴブロリというやつはそんなヤワなやつではなかったであろう?」

 


「・・・今のオレ達は命唱が使えない。オレ達は弱い・・・弱者は強者に対抗する術はないんだ・・・たとえ美貴と2人でまた行ったとしても今度は本当に投獄されてしまうだろう。助けてくれたゴブ蝉の気持ちを無駄にすることはできない」

 


「・・・2人でならであろう?」

 


「ゴブ布様っ!!こちらをっ!!」

 


ゴブ厳がゴブ布に大剣を差し出す。

 


「我ら真紅の薔薇部隊はゴブ羽軍に対し反乱を起こす・・・公布を聞いた時からそのつもりであった。きっとくるだろうとハイロリ・・・お前を待っていた。

 


我には武がある。しかし知がない。このまま反乱してもゴブ羽の心を変えるのは難しいだろう・・・それこそ犬死するだけかもしれない。

 


だがそれでも我らは行くぞ・・・我が夢の成就のために。我が友よ・・・お前はどうするのだ?我らは寡兵。類い稀なる頭脳を欲している」

 


微笑みながら手を差し出すゴブ布。

 


「っふ・・・そんな熱烈なアプローチを受けちまったらお前に惚れてしまいそうだなゴブ布・・・ここに星中を掻き回した頭脳なら落ちてるぞ?

 


開星のためオレは友とともに命をかけることを誓う。

 


さぁ一緒に星の未来を変えようぜっ!!相棒っ!!」

 


ハイロリもまた微笑みながらその手を掴む。再びハイロリとゴブ布が手を組む。僅か503騎の反乱。敵はかつての仲間達・・・歴戦の強者が揃っている。

 


「ハイロリよ。何か策はあるか?」

 


「・・・堂々と宣戦布告しよう。それもできるだけ目立つようにだ。まずは喧嘩の舞台にゴブ羽にも上がってもらわないといけない。

 


仮にも皇帝軍・・・民達の前での宣戦布告ならば受けざるを得ないはず・・・ましてこのオレとゴブ布によるものだ。注目度は高くなるだろう。ゴブ良、ゴブ瑜の策による宣戦布告の隠蔽もそれで防ぐ。

 


普通にすれば暗殺部隊が編成され、襲いかかってくるはずだ。ゴブ羽は皇帝に即位したばかり・・・いきなり反乱されてしまっては民達に不安が募ってしまうからな。だからこそ民達を証人とするために真正面から喧嘩を売る。

 


それにこそこそやったって心を変えれる気がしない・・・なんだかんだゴブ羽は脳筋属性。言葉じゃない・・・拳を通して伝えるしかあるまい。はっきり言って勝算はないが・・・勝つための戦ではない。開星させるための戦だ。

 


少しでも可能性を上げるためオレも練兵に加わる。できるだけ力を上げておきたい・・・あっという間にやられてしまっては伝える時間すらないからな。

 


そして美貴・・・作って欲しいものがある。それができるまでは訓練と作戦会議だな・・・早ければ早いほどいいが焦ってはいけない」

 


朝は食料調達。昼は練兵。夕方は軍議。夜は地鳴り。そんな生活を1ヶ月ほど続けた。はっきりいってゴブ布にオレは負けていた。地鳴りの強さが遥かにゴブ布の方大きかった・・・ふと冷静に考える。

 


500人もの妻と共鳴してゴブ布の強さはどのぐらいまで成長しているのだろうか?共鳴なしであの強さ・・・ゴブ布がいればもしかするかもしれない。反乱の成否はゴブ布にかかっていると言っても過言ではない。

 


ゴブ厳を筆頭に真紅の薔薇もかなり強くなった。ゴブガード達は助からなかったが、愛天地人の隊長らは生きている・・・さらに黑州兵の1軍は未だ健在である。そこで真紅の薔薇全員に転移技術を叩き込んだ。

 


ゴブ布に至ってはハイロリファントムすら使えるようになっている。こいつはやはり天才だ。実際に触れ合ってわかったことだが、間違いなく才能はゴブ羽以上だ。

 


真紅の薔薇部隊は深紅の薔薇部隊となった。体に少し黒っぽい色が加わったのだ。そんなオレの漆黒の闘気も少し茶色の色が混じるようになった・・・ゴブ布とオレの友情のおかげなのかもしれない。

 


「慶太っ!!できたわよっ!!」

 


美貴が走りながらこっちに向かってきている。ついにできたようだな・・・そろそろいくとしよう。この闘いで普通に死ぬかもしれない・・・チャンスは1度きり・・・命唱を使うことすらできないオレは少しでもゴブ布の力を発揮できるようにサポートに回ろうと思う。

 


ハイロリ、ゴブ布の2人は今海上にいる。美貴が作ったものは船である。黄海を進み、首都の港に巨大な船で乗り付け宣戦布告するのだ。2人できたのはわざわざこちらの戦力を確認させる必要がないからである。

 


首都までゴブ布と2人でくるのは少し感慨深いものがあるなぁ・・・この星にきてはじめてゴブ布を見たのはアイシステムでの城の中。随分と仲良くなってしまったな。

 


「これで港までいくのか?2人きりの旅というのもなかなかよいものだなハイロリ」

 


「妻達のいない漢2人旅もできるし面白いだろ?

 


それじゃあ今日の夕飯当番をかけた勝負をしようぜゴブ布っ!!ドラコン対決でどうだっ!?」

 


「ゴハハハッ!だから我慢してろといったのか・・・もう我が膀胱はパンパンであるぞ」

 


「より遠くまで飛んだ方が勝ちだからな?いくっぜ!」

 


ハイロリとゴブ布のしている勝負。それは小便ドラコン対決である。2人は刀を解き放ち、優しく手を添え角度を調整する。もの凄い勢いで放出される黄金の雫。

 


「かぁ・・・また負けちまったか。連戦連敗じゃねぇかよ・・・んじゃ今日は鳥の丸焼きにでもしようかねぇ・・・」

 


ハイロリはゴブ布とのくだらない勝負に連敗し続けている。基本的にハイロリが料理当番となっていた。作る料理は丸焼きか生。これぞ漢の料理である。そんな料理をゴブ布は美味いと言って笑顔で食べる。

 


「ゴブ布っ!!急接近する船を確認したっ!!恐らく皇帝軍の巡視船・・・敵だっ!!」

 


「我に任せよっ!!唸れっ!!八星剣っ!!

 


ゴブ布が愛剣八星剣を振るう。その斬撃は海をも斬り裂き、海上の船は真っ二つとなる。船は海の藻屑と消えた。幾度と無くハイロリの命を奪ってきた大剣・・・威力も格段に上昇している。

 


「さっすがぁっ!頼りになるぜっ!!ゴブ布っ!!そろそろ首都が近いはずだっ!!かっ飛ばして港に行こうぜっ!!」

 


「ゴハハハッ!あの程度造作もないっ!!もっと褒めてもよいのだぞ?ハイロリよっ!!」

 


2人は進む。ハイロリが諦めかけた開星・・・かつての仇敵ゴブ布とともに再び立ち向かう。同じ志を持つ友2人が鉄の掟を打ち崩すため・・・妖精の星最後の闘いへ赴こうとしていた。

闇と光 第164話 新たなる皇帝

体から血を流しているゴブ羽・ゴブ良。ゴブ遼の猛攻。それを止めるのは容易いことではなかった。今のゴブ遼はフルパワーのハイロリやリュカウスのマナの最大量すら軽々と上回っている。

 


「龍水閃っ!!」

 


2つの槍の突撃がゴブ遼を襲う。しかしゴブ遼はそれを軽く薙ぎ払った。

 


「2人とも何楽しんでんだ?このオレも混ぜてくれよっ!!」

 


ゴブ信も対ゴブ遼戦に加わる。ゴブ羽3兄弟の揃い踏みだ。3人の連携により先ほどまでと打って変わり互角に渡り合う。

 


妖と魏の兵達の数が次第に減っていく。主戦場は残り2ヶ所。ゴブ操とゴブ遼のいる戦場である。

 


「なぜお主は倒れぬのだっ!?マナ量の差はこれほどまでにある・・・何故貴様は生きているっ!?」

 


「オレは堪え忍ぶことに慣れている。オレの師は化け物だ。格上との闘いは嫌という程慣れてんだよっ!!」

 


この星の闘いを通してゴブロリのマナ量はさらに大きくなっていた。闘気状態の力量も上がっているため、味方と連携しながらなんとか持ち堪えている。しかしゴブガードや隊長達も傷だらけで限界は近い。空もうっすらと明るみ、長い夜も終わりを告げようとしている。

 


その頃ゴブ遼へさらなる攻撃が襲いかかっていた。燃え盛る炎・・・ゴブ策である。4対1・・・ゴブ遼は次第に劣勢に追い込まれていく。

 


ゴブ策の高速の連撃。ゴブ遼も負けじと高速で打ち合う。そこへ体の動きを阻害するかのように真空波が飛来する。たまらずゴブ遼は空中へと逃れる。それを待っていたかのようにゴブ信の渾身の一撃がゴブ遼を襲う。

 


黑水波。下邳城で放たれたものよりも激しくうなっている。深緑の水龍がきらきらと朝日に照らされながらゴブ遼を上空へと浮上させていく。

 


「「「決めろっ!!我らが王よっ!!」」」

 


ゴブ遼は上空に気配を感じる。朝日の光に重なって何かが迫ってきている。

 


「くらえぃっ!!これが王の一撃ぞっ!!ゴブリンクラッシャァァァァッ!!」

 


ゴブ羽の斧槍がゴブ遼の体に突き刺さる。水龍と王の一撃の衝撃をその身で受けるゴブ遼。王の一撃は水龍をも斬り裂きゴブ遼の体を星の大地へと叩きつける。

 


星下最強の武ゴブ遼。火のゴブ策・・・風のゴブ良・・・水のゴブ信・・・地のゴブ羽。4人の連携により散ることとなる。闘いが終わった後の4人の体はぼろぼろであった。

 


「ゴブロリっ!!貴様で最後であるっ!!死ねぃっ!!」

 


ゴブガード、愛天地人の隊長達は既に地に伏している。ぼろぼろになりながらもゴブロリはたった1人・・・紙一重で攻撃を避け続けていた。

 


かつて清十郎の弟子となった頃のように淡々と攻撃を予測し避けている。読みが外れたならばゴブロリの命はないだろう。

 


ゴブロリの足がもつれる。ゴブ操の攻撃がゴブロリの体へと突き刺さる。体が闇へと変わる・・・その虚をつき背後から1人のゴブリンがゴブ操の体を貫いていた。

 


「はぁ・・・はぁ・・・よくやった・・・助かったぜ・・・ゴブ蔵っ!!」

 


スタイリッシュなその姿・・・アサシンゴブリンゴブ蔵。力が足りなくても勇敢に将に挑む漢・・・彼はまさに星の英雄となるまで成長した。

 


ゴブ蔵も対ゴブ操戦に参加していたのだ。必ず隙を作るから逃すな。師からのたった一言の言葉・・・味方が倒れようとも師の言葉を信じ、ゴブ蔵は気配を殺し機を伺っていたのだ。

 


「ゴブ蔵・・・最後の教えだ。敵将を討ち取った時は忍といえども目立ってもいいんだぜ?」

 


「ゴブ羽軍が忍っ!!ゴブ蔵っ!!皇帝ゴブ操討ち取ったりぃぃぃぃぃっ!!!!」

 


ゴブ蔵の勝ち名乗りが戦場に轟く。その声はゴブ遼を倒した彼らの元にも届いていた。

 


「兄上っ!」

「兄者っ!」

「羽ーくんっ!」

 


「ゴブ羽軍が王っ!!ゴブ羽っ!!敵将ゴブ遼討ち取ったりぃぃぃぃっ!!!

 


我こそが妖精の星の皇帝であるっ!!この戦っ・・・妖軍の勝利だぁぁぁぁぁっ!!」

 


先ほどよりも大きな勝鬨が戦場にこだまする。この戦の結果はその日のうちに星中を駆け巡る。

 


戦の炎に包まれていた妖精の星・・・この日妖軍の手により平定されることとなる。ゴブ羽が王への階段を登りきる。妖精の星に新たな王・・・皇帝ゴブ羽が誕生した。

 


ぼろぼろとなった妖軍。残った兵力はわずか2800。旗揚げ時と変わらぬ兵力まで戻ってしまった。この日ばかりは盛大に宴を開く。残った歴戦の兵達は勝利をそして仲間達の死という旅立ちを祝う。

 


ゴブロリの元へあるメッセージが届く。それはかつて第2の街で見たものと同じであった。

 


妖精の国の制圧おめでとう。君の活躍により再びこの星の時は動き出した。第2エリアクリアと言いたいところだけど・・・クリア後には新たな物語が付き物だろう?さぁ始めよう・・・

 


エクストラシナリオ妖精の星の未来

 


君の選択がこの星の未来を決定することになる。慎重に選びたまえ。

 


変態神としては残念な結果だったよ。クリア方法はもっとあったのになぁ・・・まぁ正攻法といったところだったね。共に闘った仲間達。彼らが味方となるか敵となるかは君次第だからね♡

 


あっ・・・それとチャンスは1度きりだ。君が死んだらこのシナリオは終わりだから気をつけてね。

 


遊戯神デキウス

 


終わりじゃねぇのかよ・・・っていうか正攻法だと・・・?他に方法があったのかよ。元ゲーマーとしては聞き捨てならないセリフだな。後で問い詰めてやろう。

 


それはそうと・・・星の未来?オレの選択がそれを決定する?どういう意味だ・・・さらっと時を動かすとか言ってるし、やっぱりデキウス・・・かなりの力を秘めてやがるな。

 


どうやるのか想像すらつかん。時を止めることができたら女の子の時を止めて好き放題できるじゃねぇか・・・やはり変態神に相応しい神業を習得している・・・眷属続けてたらいつか教えてくれないかな・・・。

 


ゴブ羽の皇帝即位式が終わる。ゴブリン星の住人達へのお披露目である即位パレードもつつがなく終了した。明日ゴブリン星全土への政治方針を演説することになっている。現在はそのための会議を妖軍で行なっているところだ。そこでゴブロリは聞き捨てならないことを耳にすることとなる。

 


「引き続き鎖星は継続ですね。他種族が悪いものばかりではありませんが交流を再開するのはリスクが高過ぎます」

 


「ゴブ良の意見に賛同する。皆の者異議はないな?」

 


異議ありっ!!なぜ交流を再開しないっ!?この星には開星を望むゴブリンだって少なからず存在しているっ!!なぜ新たな世界を見ようとしないのだっ!?」

 


「先生・・・あなたには感謝している。感謝してもしきれないほどだ。あなたが妖精族でないこともみんな知っている。先生のようなものもいる・・・しかしすべてが先生のような他種族ではない。

 


特に他星の我らが同胞を殺め続けるあの種族だけは絶対に許してはならないんだ・・・戦争を仕掛けることはあるかもしれないが交流はあり得ない。これは妖精族の問題だ・・・先生といえども譲ることはできない」

 


「ならば・・・オレの本当の姿を教えてやろう。オレの名はハイロリ。お前らの忌み嫌う人族だっ!!オレが橋渡しとなってやるっ!!だからっ・・・」

 


ゴブリンスーツを脱ぎ捨てるハイロリ。しかしハイロリの発言はゴブ羽により遮られることになる。

 


「人族だとっ!?オレ達は人族の手を借りていたというのか・・・この者らを牢へと繋げっ!!」

 


「「「「「お待ちくださいっ!!ゴブ羽様っ!!」」」」」

 


同席していたゴブ妻達がハイロリと美貴の投獄を庇おうとする。

 


「そなたらは何よりも愛している・・・しかしこればかりは致し方がないこと・・・わかってくれるだろう?」

 


「ゴブ羽様っ!!これをご覧くださいっ!!今この権利を行使させていただきますっ!!」

 


「「・・・」」

 


ハイロリとゴブ羽は黙ってそれを見つめている。ゴブ蝉が透明な袋に入ったあるものを取り出す。それはハイロリ、ゴブ羽ともに見知っているものであった。ゴブ蝉にとっての思い出・・・そして大事なもの。

 


ゴブロリシール。かつてハイロリが淑女通信の課題の達成の印としてあげていたものであった。彼女は100もの課題をすべてを成し遂げた。ゴブロリシールは全部で100枚。ゴブロリシールを使用することによりご褒美を得ることができる。ゴブ羽は婚姻後、ゴブ蝉からこのシールの存在を聞いていた。

 


消費枚数ごとに様々な魅力的な特典を用意した。しかしそれでもゴブ蝉はこれを使用することがなかった。旗揚げ当時・・・特典を得ようとしないゴブ蝉を見てハイロリとゴブ羽はあることを決めていたのだ。

 


「なぁ?ゴブ羽よ。ゴブ蝉が一向にゴブロリシールの特典を使いたがらない・・・そこでだ・・・100枚すべて消費することでひとつだけゴブ羽軍総出で可能な限りの願いを叶えるというのはどうだ?」

 


「ゴハハハッ!そりゃあいいな先生。ゴブ蝉こそがゴブ羽軍の真の女帝だな」

 


「ふっ・・・王の妻だ。元より女帝になる予定だしそれでいいだろうよ」

 


「でしたらどうしても叶えたいことができるまで使用するのはよしておきますね。私としては何にも望むことはないと思うのですけれどね」

 


3人は笑顔で笑い合っていた。かつて交わした言葉。ハイロリとゴブ羽の中に記憶が蘇る。これはゴブ羽軍の古株達みんなが知っている事実。

 


「開星を宣言したいところですが・・・私はゴブ羽様を愛しております。貴方様の決定を覆すことなど私にはできかねます・・・お力になれずに申し訳ありません・・・ですがハイロリ様と美貴様を解放してください。このお方達のおかげで今の私達があるのですから・・・ゴブ羽様お願い申し上げます」

 


「・・・帝の勅令が発動された。両名は解放するものとする。

 


先生・・・達者でな・・・今までありがとう」

 


ハイロリは何も言わずに背を向けこの場から去っていった。美貴はその後を慌ててついて行っている。ゴブ妻達・・・ゴブ良、ゴブ信の目からは涙が流れていた。そしてゴブ羽の目からも一筋の雫が溢れ落ちていた。

 


ゴブ蝉の一声により助けられた2人。ともに闘った仲間。かつての思い出が蘇ってくる。しかし彼らの道はここで分かたれることとなった。

 


ハイロリと美貴の席が空席のまま会議は進んでゆく。

闇と光 第163話 許昌城の闘い

「ゴブ操様っ!!妖軍全軍が許昌城に向かって進軍中に御座います」

 


「ここで迎え撃つしかあるまい・・・ゴブ遼っ!!我が軍の命運はお主に託したっ!!」

 


「御意っ!!必ずやゴブ羽軍を打ち崩して見せましょうぞっ!!」

 


許昌城での魏軍の籠城戦が始まる。

 


東門からはゴブ信軍

 


南門からはゴブ策軍

 


西門からはゴブロリ軍

 


北門からゴブ羽軍

 


それぞれが門を打ち破ろうと襲いかかってくる。しかしさすがの魏軍。徹底的な守備で突破を許さない。さらに神出鬼没のゴブ遼。あらゆる場所へ猛将ゴブ遼が現れる。

 


門からではなく城壁から飛来するゴブ遼。最強の武が妖軍の前に立ちはだかる。そして頃合を見て迷わず退却。かつてゴブロリ達が用いたように遼来来という言葉で兵達は翻弄される。ゴブ遼により妖軍には多大な被害が出ていた。

 


魏軍の兵力は5億。妖軍の兵力は1億。徐々に攻勢が弱まっていく。ある時を境に妖軍は攻めてこなくなった。四方でひたすら陣を敷いて睨みをきかせている。

 


まったく動きのない妖軍。夜には四方からの地鳴りが共鳴し、許昌城へ地震のような揺れが襲う。魏軍にとってこれは恐怖でしかなかった。数の上では優勢。しかし打って出れば妖軍の猛将達によりすぐさま討ち取られてしまう。ゴブ遼の奇襲を仕掛けようにも距離が離れすぎている。

 


妖軍は持久戦に持ち込もうとしていた。いかに許昌城といえども兵糧は有限。兵糧が尽きるまでじっくり待てばよい。対して妖軍は優れた農業技術、そして移動式農園ハイロリ園による輸送で外からいくらでも兵糧を引っ張ってくることができる。持久戦での優位がどちらにあるかは明らかであった。

 


「なかなか老練な策を用いてくる・・・攻め続けられた方がまだ楽であったな。ゴブ良、ゴブ瑜・・・そしてゴブロリ・・・3人の頭脳にひとりでどこまで対抗できるか・・・先に動きたくはないが・・・背に腹は変えれない。こちらから動くとするか・・・」

 


膠着状態の続く中、ゴブ操がついに動く。深夜地鳴りが鳴り響く頃、工作兵が密かに許昌城を出立する。工作兵はゴブ羽軍の水の貯蔵庫へ毒を流し込んでいた。勝つためなら手段は選ばない。

 


工作兵が毒の混入に成功したとの報せを受け、ゴブ操は安堵する。夜が明ければ形勢は一気に魏軍へと傾くはずである。しかしゴブ操はこの時気付いていなかった。ゴブロリが戦の当初から既に動いているということに・・・妖軍が持久戦を選択したのにはもうひとつ理由があったのだ。

 


ゴブロリは神出鬼没のゴブ遼を見た瞬間にすぐに行動を起こす。それは許昌城攻略戦が始まった初日であった。ゴブロリは許昌城の水源となる川の上流からずっと毒を混入し続けてきている。遅効性蓄積型のマナ毒である。無味無臭・・・マナの量も感じ取れないほど微量の濃度で確実に敵の体に毒を溜め込ませていた。

 


許昌城攻略戦開始から1ヶ月。奇しくもゴブ操が毒を混入させた翌日であった。ついに毒が牙を剥く。朝目覚めるとゴブ操の体の動きが悪くなる。急死する兵士達が次々に現れた。マナ量の弱いものから順に死んでいく。

 


この1ヶ月間、川の下流さらには海沿い・・・その近くの村々では謎の変死が相次いでいる。ゴブロリの流した毒の影響だ。壊滅した村の数は計り知れない。死者の数も数え切れないものであった。

 


ゴブロリはすべての命は平等であると思っている・・・平等であるが故にゴブロリは命を消耗品であるかのように扱う。人を殺せば人は騒ぎ立てる。しかし虫を殺しても人は騒がない。ゴブロリにとって虫けらと人の命の価値は変わらない。故に興味のないものなら無感情のまま命を奪うことができるのだ。

 


目的のためならば容易く命を奪える漢ゴブロリ。命があるものはいつか朽ち果てる。それが早いか遅いか・・・殺されるも自然に死ぬのも・・・その程度の違いでしかない。弱肉強食の世界・・・自然の摂理の中ではそれは当然のことであった。

 


両軍の兵達もまた次々と毒死する。なんでもありの命の奪い合い。これが争うということ・・・即ち戦争である。ルールありの戦争など遊びでしかない。強いものが勝つ。弱奪強奪。弱きものは強きものによってすべて奪われる。

 


両軍による毒殺。魏軍は残り1億。妖軍は残り2000万まで兵力を減らすこととなる。両軍の陣営には数多くの死体が転がっている。しかし闘いは終わらない。この星の星下をかけどちらかが絶滅するまで続く。

 


ここにきて妖軍に変化が起こる。夜に起こっていた地鳴りが昼も続くようになった。さらに大量の兵達が四方に広がっている。これはゴブ羽によって放たれたゴブ馬俑によるものであった。

 


四方は夥しい数の敵兵に囲まれている。ゴブ操は妖軍の増援がきたものと誤認した。ゴブロリチェンジャーを使いマナもそれぞれ変化させていたのだから無理もない。

 


「もはやこれまでか・・・我が天命の終わりが近い。されどこそ我らの闘いは語り継がれる・・・命は尽きようともその灯火は永遠に残るのだ・・・星下最強の海軍の底力・・・思い知るがよい・・・王としてこの星に君臨するというならば我らの死を越えてゆけ・・・ゴブ羽よ。

 


全軍っ!!これより魏軍最期の戦を始めるっ!!誰が倒れようとも歩みを止めるなっ!!妖軍に一矢報いよっ!!我らの闘いは無駄ではないっ!!星の人々が忘れようとも・・・星は決して忘れないっ!!我らの戦乱の世を生きた証・・・星という大地へと刻みこめっ!!我らが軌跡は未来永劫この星へと残るであろうっ!!

 


出陣じゃっ!!」

 


ゴブ操はこの戦の負けを悟っていた。されども自害などしない。最後の1人となるまで闘い抜く。それが星下最強と謳われた海軍の意地なのである。魏軍の体は激しくばちばちしていた。一層強いスパーキング状態となる。

 


深夜・・・静かに北門が開門される。猛る炎を抑え、静かに息を潜め、夜になるのを待っていた。夜戦最強の妖軍に対して真っ向からぶつかるためである。

 


ゴブ遼を先頭に魏軍の兵1億が疾走する。陣形は鋒矢型魚鱗の陣。背後や横からの攻撃はまったく気にしない。いわば守備力皆無、攻撃力倍増の突撃陣形。ただ前方の敵を攻めることだけに特化している。狙うはゴブ羽ただ1人。

 


異変を察知する妖軍。既に目と鼻の先まで魏軍は迫ってきていた。しかし夜戦状態である妖軍。彼らもまた激しいスパーキングが体を迸っている。視認と同時に激突する両軍。

 


ゴブ信・ゴブロリ・ゴブ策軍もゴブ羽の元へと殺到する。ゴブ遼の勢いが止まらない。ゴブ羽へと襲いかかるゴブ遼。そこへ真空波が飛来する。

 


「夜に仕掛けてくるたぁ命知らずなやつらだなっ!!いきなり王手をかけさせるわけはないだろうっ!!我が名はゴブ良っ!!夜戦の覇王っ!!いざ参るっ!!」

 


「王の首・・・とれるもんならとってみろっ!!このゴブ羽は逃げも隠れもしないっ!!ゴブ遼・・・今日が貴様の命日だっ!!」

 


ゴブ羽・ゴブ良とゴブ遼の戦闘が始まる。スパーキング状態となった2人を相手にゴブ遼は押していた。ゴブ布を超えた最強の武が猛威を奮う。さらに兵達から抜け出しゴブ羽を目掛けて魏軍が殺到してくる。そんな彼らを激しき蒼炎が襲う。

 


「羽ーくんとこには行かせねぇぞ?通りたくばこのオレを倒してからいけっ!!」

 


「策だけではなくこの私も倒してからにしてもらいましょうかっ!!」

 


いち早く空から救援に駆けつけるゴブ策・ゴブ瑜。突貫する魏軍に対し、立ちはだかる2人。それでも魏軍の勢いは未だ止まらない。突然黑い水のマナの閃光が戦場を切り裂く。

 


「我こそは億夫不当の豪傑ゴブ信っ!!命が要らぬならかかってこいっ!!」

 


ゴブ信の登場である。ゴブ信が加わったことにより魏軍の突撃の勢いは完全に止められてしまった。その頃ゴブロリは大将首を狙いにいっていた。付き従うはゴブガードそして愛天地人の隊長達。

 


「ゴブ操よ。貴様の覇道も今日で終わりだ。逃しはせぬぞ?」

 


「ゴハハハッ!元より逃げるつもりなどない。今宵の戦場に立つものには生きるか死ぬかの2つしか存在しない。では参るぞ?

 


我が名はゴブ操っ!!妖精の星の皇帝であるっ!!」

 


10対1の闘い。しかしゴブ操ひとりの手によってゴブロリ達は劣勢に追いやられている。命唱を使えないことがゴブロリの首をじわじわと絞めつけていた。

闇と光 第162話 潼関の闘い

ここはどこだ・・・我は死んだのか・・・暖かい・・・心地よい・・・これが死というものなのか?存外悪くないものだな。

 


ゴブ布が目を開ける。そこには口づけをするゴブロリの姿があった。ゴブ布は慌てて起き上がる。ゴブ布は生きていたのだ。

 


「な、何をしているっ!?ハイロリっ!!

 


・・・で、でもまぁお前なら許してやらないこともないがな・・・」

 


えっ・・・なんでデレたのゴブ布・・・人工呼吸してただけなんだけど・・・お前のデレってどこかに需要あるの?

 


「「「「「ゴブ布様ぁぁぁっ!!」」」」」

 


ゴブ布に駆け寄る真紅の薔薇の面々。彼女達はみんな涙を流している。

 


「ありがとうございますっ!!なんとお礼を言ったらよいかわかりませんっ!!このご恩は一生忘れませんハイロリ様っ!!」

 


ゴブ厳はじめ、隊員達はみなオレに感謝の気持ちを伝えてくる。オレはあの後、水中へ転移した。激流で死にかけたのは言うまでもない。あの水からはゴブ信のマナを感じた。後であいつはしばき倒す。同じ景色を望むゴブ布。そんなやつをオレは見捨てられなかった。

 


真紅の薔薇。彼女達はゴブ卓軍によって玩具にされていた。泣き喚く姿をゴブ卓軍は笑みを浮かべながら乱暴に襲っていたのだという・・・そんな彼女達を救い出したのはゴブ布。

 


ゴブ布は彼女達に優しく接していた。何も見返りを求めない無償の愛。かつての自分の姿を見ていたのだろうか。手を出すわけでもなく娘のように彼女達を守ってきたゴブ布。練兵したのは彼女達が強くなりたいと言ってきたからだ。

 


ゴブ布は彼女達が自分でその身を守れるようにと練兵した。指導者は星下無双。恐ろしいほどに強くなった。彼女達が練兵を求めた理由。それはゴブ布の横に並んで立ちたいからなのであった。

 


星下無双のゴブ布。その優しき姿に彼女達は全員惚れている。女としてゴブ布を支えたい・・・その一心で挫けることなく練兵を乗り越え、成長してきた。すべてはゴブ布のため。

 


そんな中ゴブ卓に目をつけられる。その強さに利用価値を見出したのだ。ゴブ布は彼女達を守るために自身の部隊を結成する。それが真紅の薔薇ができた理由であった。

 


「ゴブ布。ゴブ操はオレ達ゴブ羽軍が必ず叩きのめす。この星の平定・・・そしてその先の世界・・・それはオレに任せておけ。お前は少し隠居してろ。

 


・・・ったく何が愛を知らないだ。500人もいるじゃねぇか。羨ましいくらいの愛がある。とりあえず立ち止まって感じてみろよ・・・待望の愛とやらをな。それに星下無双の大将軍なら全員愛せんだろうよ?ただ優しく愛してやれよ。まぁ幸せに暮らせ」

 


「・・・ハイロリは行ってしまうのか。す、少しだけ寂しくなるなっ!

 


重ね重ね感謝する。彼女達は必ず幸せにしてみせようぞっ!!この星下無双の豪傑に不可能などないわっ!!ゴハハハッ!

 


・・・ハイロリよ。お前らの作る世界・・・楽しみに待たせてもらおう・・・達者でな。た、たまには会いにきてもよいのだぞ!?」

 


背中を向けながら手を振るゴブロリ。闇が姿を包み込み消えていった。星下無双の大将軍ゴブ布・・・真紅の薔薇・・・彼らの愛は育まれてゆくことであろう。

 


一方ゴブ良を救出したゴブ羽軍はゴブ操の追撃の中、退却を繰り返していた。次第にゴブ羽達は追い詰められてゆく。現在は洛陽と長安の間にある孤島潼関にて徹底抗戦の構えである。

 


「兄者・・・先生・・・まだ戻らないな」

 


「ゴブ信のせいでやられちまったんじゃないか?あの水攻めは酷いぞ」

 


「それを言うなら兄者が地面へこませたのも悪いじゃんっ!?」

 


「・・・2人ともやめてください。いつまでも先生に頼るわけにはいきません。あの方が戻るといったら必ず戻る。しかし私達もひとり立ちをしなければなりません。我々だけでゴブ操を討ち取るのです」

 


「ロリ先がいなくてもなんとかするしかねぇだろうよっ!!ここは妖精の星・・・オレら妖精族がなんとかしねぇでどうすんだっ!?」

 


「そうですね。策の言う通りです。ゴブロリ殿は我らと同じ見た目はしているがゴブリン族ではない。あのお方は他種族です。何も得はないはずなのに我らに力を貸してくれている・・・しかし頼り切ってしまっては妖精の名折れ・・・妖精のけじめは妖精がつけなくてはなりません。そろそろ反撃に移りましょう」

 


ゴブ羽達は気づいていた。ゴブロリ改めハイロリが妖精族ではないことに。ゴブリンの秘法スパーキング。ゴブリン族にのみ許された強化術。感情や思いが爆発することでその状態になることができる。

 


しかし仲間達を大事に思っているゴブロリは一度もこの状態になることはなかった。鉄の掟・・・他種族との交流は禁じられている。しかしゴブロリは身を投げ打ってこの星のために力を貸してくれた。

 


薄々気づいてはいた。掟を破ってでも彼らはゴブロリを仲間として認めている。この星ではゴブリン族以外は命唱回数が制限されている。それはかつてこの星を守るため創造した神に願い、発現した理。

 


ゴブリン同士でバトルフィールドが出ないのも神の力によるものである。これはデキウスがハイロリを招き入れるために、無理矢理世界を改変しねじ込んだもの。この星は時がある程度進むと逆行し常に争いを繰り返しきた。しかしハイロリの到来で妖精の星の時の流れは再び動き出そうとしている。すべてはデキウスの思惑の中・・・。

 


ゴブロリはすでに命唱を使い切っている。仲間達は知っている・・・もうゴブロリに力は残されていないことを。師の掲げた・・・仲間の掲げた星平定。妖精の星は最終局面へ突入ししようとしていた。妖軍5億と魏軍30億の星下獲りをかけた戦が始まる。

 


孤島潼関に攻め入るため魏軍は船団を編成し海を渡ろうとしている。妖軍はそこを狙った。

 


ゴブ信の水のマナを使い海を凍らせた。氷海と化した海で魏軍は身動きがとれなくなる。妖軍はゴブ操を海上で奇襲。しかし鉄壁のゴブ褚が立ちはだかる。

 


ゴブ策とゴブ瑜のコンビネーションで苦戦を強いられながらもゴブ褚の堅い守りをついに打ち崩す。ゴブ褚はこの闘いで討死。ゴブ操はゴブ褚の奮戦の中かろうじて退却する。

 


ゴブ羽とゴブ良は魏軍の頭脳を潰すことにした。優れた頭脳の恐ろしさは師から学び取っている。この闘いで魏軍の10賢人はすべて討ち取られた。

 


ゴブ操が陸地へ逃げようとした時、ゴブ信が立ちはだかった。そこへゴブ遼が突撃。再び激闘を繰り広げる2人。その隙をつきゴブ操が包囲を抜け出す。

 


ゴブ遼が下邳城のお返しと言わんばかりに氷海を打ち砕き追撃を阻止。この闘いで魏軍は大打撃を受ける。魏軍は20億以上の兵をここで失ってしまう。

 


元海軍である驕り。ゴブ操らは海戦であれば圧倒的に有利であると思っていた。ゴブ操最大の失態。妖軍の海を凍らせるという奇策の前に機動性はすべて失われ、さらに兵が恐慌状態となり混乱に陥る。

 


この闘いを経て魏軍の残り兵力は8億となる。対する妖軍は残り3億。圧倒的な兵力差はここまで縮まった。ゴブ操は自身の本拠地である許昌城へ退却した。

 


許昌城への攻城戦のための軍議をしている妖軍。そこへ1人の漢がついに合流する。

 


「ふっ・・・いない間に弟子達は随分立派に成長したものだな。最後の戦・・・オレも混ぜろや」

 


一同一斉に声のする方へと振り返る。忘れもしないその声・・・自分達を成長させてくれた師・・・ゴブロリの登場だ。役者は揃った。ついに妖軍と魏軍の最終決戦が始まる。

闇と光 第161話 沈む下邳城

「ゴブ布っ!!オレじゃ誰が部隊の一員かわからねぇっ!!敵は食い止めるから早く見つけてこいっ!!」

 


「後ろは任せたぞっ!!ハイロリっ!!」

 


あの後、ゴブロリとゴブ布はマナセンサーをわざと発動させた。そして下邳城の守備兵達が2人のもとに殺到してくる。その隙をつき第5階層に隠れていたゴブ良とゴブ蔵はどんどん上層へと上がっていく。

 


「しっかし・・・なかなか減らねぇな」

 


ゴブロリは命唱が使えない。倒せども倒せども・・・襲い来る守備兵。敵の流れを食い止めるので精一杯だった。しかし突然前方の敵が吹き飛んでいく。ゴブロリは並び立つゴブリンに目をやった。

 


「お初にお目にかかります。ハイロリ様。ゴブ布様よりお話を伺いました。救援感謝致します。

 


あたしの名前はゴブ厳(げん)。真紅の薔薇の隊長をしております。ゴブ布様の命により助太刀に参りました」

 


ゴブ布精鋭部隊・・・真紅の薔薇。隊長の正体はゴブ女であった。次々に戦線に駆けつけてくる真紅の薔薇の隊員達。すべて女性であった。

 


ゴブ布の野郎・・・こんなハーレムをいつのまに・・・いやハーレムじゃない?匂いが染み付いていない。もしや手を出していないのか・・・ゴブ布・・・お前が望めば彼女達はきっと全員妻になってくれるだろうに・・・もったいないな・・・。

 


何が愛を知らないだ。お前が気づいていないだけじゃないか。彼女達からはゴブ布に対しての感謝の気持ち・・・それ以上の思いを感じられる。はんっ・・・1番モテるゴブリンはお前だったのかよゴブ布め。

 


迫り来る守備兵を押し返していくゴブロリと真紅の薔薇。そしてどんどん味方の数が増える。

 


ふっ・・・ゴブ布が練兵しただけあってさすがに強いな。転移を覚えさせたら黑州兵を超える可能性すらある・・・恐ろしい部隊だな。

 


「おらおらぁっ!!さっさとくらいやがれゴブ褚っ!!」

 


「ゴハハハッ!!その程度の攻撃で何をする気だ?蝿でも飛んでるのかと思ったぞっ!!」

 


攻めるゴブ策・・・守るゴブ褚・・・守りを切り崩すことができないもののゴブ策はゴブ褚を完全に抑え込んでいた。

 


「なかなかやりおる・・・だが甘いっ!!今だっ!ゴブ羽を取り囲めっ!!」

 


「やらせないわよっ!!みんなっ!!」

 


奮戦するゴブ羽。ゴブ操軍は陣形を少しずつ変え、ゴブ羽を完全に取り囲んだかに思われた。しかしゴブ美の号令とともにゴブ妻達が待ったをかける。彼女達の手によりゴブ操の試みは失敗に終わった。

 


「あれ?オレ・・・いる意味あんの?」

 


「「「「「ゴブ羽様っ!かっこいいですっ!!」」」」」

 


「ゴハハハッ!!頑張るぜぃっ!!くらえいっ!!ゴブリンクラッシャーッ!!」

 


もはや餌役にしかなっていないゴブ羽。妻達の声援によりゴブ羽ははりきる。そしてゴブリンクラッシャー・・・彼の一撃は戦場となっている大地すべてを陥没させるほどの威力であった。脳筋は卒業した・・・しかしやはりゴブ羽はチョロかった。

 


「ゴブ信っ!!まだまだ死合おうぞっ!!」

 


「いいかげんやられろよっ!!ゴブ遼っ!!」

 


ゴブ信とゴブ遼が周囲を巻き込みながらド派手にやりあっている。状況は互角。一進一退の攻防が続く。

 


「ゴハハハッ!我が武に匹敵するものはゴブ布だけだと思っていたっ!!ひとりにして億に匹敵する兵・・・ゴブ信。噂に違わぬ実力だっ!!」

 


「っは!!オレはひとりじゃねぇ・・・オレにはゴブ超がついている。黑槍と翠槍・・・2人の力だっ!!その首もらうぞ・・・ゴブ遼っ!!」

 


ゴブ信は亡きゴブ超の槍を受け継いでいた。今のゴブ信は二槍流。さらに師の技ゴブロリハンド・・・それをヒントにゴブ信は自身の体から蒼き腕を2本だしている。4本の腕を使うことで2本の槍を使いこなしていた。

 


ゴブ信の新たな技・・・ファントムアーム。効果は腕を2本生やすだけ。名前も師の技からとった。しかしゴブ超の形見を使うことでより強力な技へと昇華している。ゴブ信が新たな力を振るう中・・・1人のゴブリンが現れた。

 


「ゴブ信っ!!撤退しますよっ!!」

 


「良兄っ!!救出成功したのかっ!!こうしちゃいられねぇ・・・ゴブ遼っ!!わりぃな・・・退かせてもらうぜっ!!」

 


「はいそうですかと言うとでも思ったかっ!!ゴブ良もろとも死ねぇぇぇぇぃっ!!」

 


「四手二槍流・・・黑翠波(こくすいは)っ!!」

 


2本の槍の刺突攻撃・・・槍から黒き水のマナと緑の風のマナが放出される。2つのマナは螺旋状に絡み合う。その姿はまさしく龍。深緑の水龍がゴブ遼に襲いかかった。

 


ゴブ遼は押し込まれながらもかろうじてそれを受ける。しかしどんどん水龍の勢いに押されていく。

 


「まだまだぁぁぁぁっ!!」

 


ゴブ遼の掛け声とともに水龍が上空へと弾き飛ばされ消えていった。下邳城の地に水の矢のような激しい雨が降り注ぐ。ゴブ良とゴブ信の姿は既にない。スパーキング状態となったゴブ遼が息を切らしながら1人立っていた。

 


「良兄っーー!!無事で良かったぜっ!!しばらくは雨だから敵は追ってこれないと思うぜ」

 


「ゴブ信・・・てめぇ何やってんだっ!?先生がまだあの中にいるっていうのにっ!!

 


はぁ・・・兄上の一撃で周囲は沈下・・・そしてこの雨・・・味方を殺す気なのですか?」

 


「えっ!?先生いんのっ!?まじっ!?やっべぇ・・・あとで怒られる・・・呉との闘いの後もすごい怒られたし・・・」

 


「先生は必ず戻るといった・・・とりあえず兄上やゴブ策と合流して撤退しますよっ!!」

 


ゴブ信の本気の一撃によりゴブ遼からの退却に成功した。しかしゴブ羽の放った一撃・・・それが組み合わさって意図せず凶悪なコンボが発動してしまった。

 


現在下邳城には恐ろしいほどの水が流れ込んでいる。そしてゴブロリとゴブ布は未だに下邳城内にいた。

 


「はっ!?ゴブ布やべぇぞっ!!水攻めだっ!!このままじゃ仲良くお陀仏だっ!!仲間は全員揃ったのか!?」

 


「あと1人足りない・・・」

 


「ちっ・・・あっちだっ!!いい女の匂いがするっ!!」

 


「彼女達を連れて先に逃げてくれっ!!我が助けにいくっ!!」

 


「あたしも行きますっ!!隊長として仲間は見捨てられないですっ!!」

 


ゴブ布とゴブ厳はゴブロリに隊員達を託し、1人の仲間の元へ駆け出す。どんどん水位が上がっていく。

 


「ちっ・・・勝手なやつらめ・・・転移するから早くこっちにこいっ!!」

 


いつも勝手なことをしているゴブロリが発してよい言葉ではない。隊員を引き連れゴブロリは地上へと転移する。そしてすぐ様下邳城内へと戻るゴブロリ。

 


ゴブ布とゴブ厳は隊員を救出。迫り来る水位の中、上の階層の床を壊しながら脱出を試みていた。

 


「きゃあっ!!」

 


助け出された隊員が飛んだ先の足場が崩れる。ゴブ厳がその身を投げ出し隊員を上へと弾き飛ばした。

 


「ゴブ布様っ!!あとはお願いしますっ!!

 


・・・なにをっ!?」

 


下の階層へと落ちていくゴブ厳。そこへゴブ布が急降下。そしてゴブ厳を力の限り上へ投げ飛ばす。その先にいたのは・・・。

 


「ゴブ厳は頼んだぞっ!!ハイロリっ!!」

 


ゴブ厳を受け止めたゴブロリ。そして彼女達を転移で地上へ逃がすゴブロリ。ゴブ布は投げ飛ばした反動で最下層の水の底にいた。水の中では激流が渦巻いている。そしてこれはただの水ではない。ゴブ信の放った水である。ゴブ布はまったく身動きをとることができなかった。

 


星下無双と呼ばれた我・・・最後に誰かを救うことができてよかった・・・さらばだ・・・我が天命もここまでか・・・まぁ悪くないゴブ生であったな。

 


ゴブ布の意識は無くなっていく。水に沈み行く下邳城。水牢と化したこの牢獄。この地は後にゴブ星遺産として認定されることとなる。湖の底に沈む下邳城。城内は侵入者を拒むかのように万年激流が渦巻いていた。その奥底には赤鬼が棲んでいると星の民に恐れられている。この場所は鬼神湖と名付けられたのであった。

闇と光 第160話 明かされる過去

ゴブロリは暗い道をスタイリッシュに進んでいる。赤外線センサーのようなマナがそこら中に張り巡らされているためだ。

 


道の先にあったのは厳重な扉。しかし鍵開けの技術も限りなく向上しているゴブロリ。これもまた無音で開けようとするゴブロリと音を出させてゴブロリの存在に気付き、誘惑したい嫁達の愛に溢れる闘いのおかげなのである。

 


扉を開けた先には1人のゴブリンが四肢を壁に繋がれた状態で待っていた。そう見覚えのあるその姿・・・。

 


「・・・こっちではなかったか。久し振りだなゴブ布」

 


「見えなくともわかるぞ・・・その声忘れもしない。我らを何度も苦しめた漢・・・ゴブロリ・・・我を嘲笑いにでもきたのか?」

 


そこに幽閉されていたのはゴブ布であった。赤壁で魏軍に捕縛されてからずっとここにいたようだ。ゴブ良を探しにきたら思わぬ再会を迎える。

 


「・・・ゴブ良が1人囮になりオレらを逃した。ここに捕らえられている情報を入手したからゴブ羽軍総出で助けにきたんだよ」

 


「・・・なるほどな。しかしこの地獄でお前に会うとはな・・・ゴハハハッ!!残念だったな。囚われているのがこのオレで」

 


「思ったより元気そうじゃないか。知っているかは知らん・・・ゴブ卓は死んだ。そして軍も滅んでしまった。今ではゴブ操が新たな魏を建国をし皇帝を称している」

 


「そうか・・・父上は亡くなってしまったか・・・せっかくこの地獄で会ったのだ・・・少し昔話でも聞いていけ・・・」

 


妖精の星は他種族を忌み嫌う閉鎖的な星である。そうなったのにも原因があった。ゴブリン達はこの広い宇宙の様々な星で暮らしている。

 


その星々でゴブリン達は嫌われ者になっている。臭いだの気持ち悪いだの言われてしまう始末だ。それもそのはずである。その地にはこの星のような整備の整った住居がない。ゴブリンだって風呂に入るし、おしゃれもする。

 


野宿状態なのだから仕方がないことなのだ。他種族を襲うのはそんな住居を求めて・・・メスを襲うのはそそるいい匂いがするからなのである。異なる文明の世界ではうまく住処を作ることができなかったのだ。

 


そうした過去の行いからゴブリンは悪しき者として扱われてきた。その星の先住人達から討伐依頼が出されてしまうほど害悪とみなされている。どんどん数が減っていくため、本能によりどんどん繁殖しなければならない。

 


繁殖しては殺される。永遠とその繰り返しなのであった。他星にいるほとんどのゴブリンは己の故郷すら知らない。もはや母星を知っているゴブリンは生きていないからだ。新しく産まれたゴブリン。そこからさらに産まれる・・・その子らは他種族は敵だと産まれた時からそう思い込んでいる。

 


長い歴史の中にはゴブリンの中では異端とも言える平和主義者もいた。しかし他種族に弁明しようにも言葉は通じない。他の星々のゴブリンは・・・ゴブリンであるから・・・たったそれだけの理由で虐げられてきた。中でも1番同胞の命を奪ったのは奇しくも人族なのである。ゴブリンは人族を最も敵視していた。

 


遥か昔・・・そういった情報がこのゴブリンの母星である妖精の星まで届いてくる。当時のゴブリンエンペラーは激昂した。そして他種族との交流をすべて禁じたのである。侵入者は死罪。それ故にハイロリはこの星に入る度に狙われていた。

 


これが鎖星をすることになったきっかけ・・・そしてそれは妖精の星の長い歴史の中、決して破られることもなく守られてきた鉄の掟なのであった。

 


しかしゴブ布はそれに異論を唱える。ゴブ布は幼き頃より蔑まれて生きてきた。周りのゴブリンの色が緑なのに自分だけ赤いからだ。ゴブ卓・・・実の父親にすら罵られてきた。ゴブ布は愛を知らない。

 


いじめや嫌がらせを受けながら成長してきたゴブ布。すべては見返すため・・・そして自身が王となりこの掟を壊すため・・・ひたすら武のみを鍛えてきた。

 


星下最強と言われるまで成長した。強くなるにつれて父の見る目は変わった。自身の武を己の欲のため利用してくる。それ以外は幼少時代からまったく同じ。しかしそれでもゴブ布は自身の野望のために地位をあげるため努力したのだ。

 


数多くのゴブ女も抱いてきた。しかし彼女達は自身の地位や武を求めて近づいてくる者ばかりだった。ゴブ布の心が満たされることはなかった。ゴブ布は本当の愛を知らない。

 


同じ同族でもこんな状況である。かつて同族が他種族から受けた仕打ちのようだ。しかしゴブ布は自身の生涯を誇ることはあれども悔いることはない。今までの自分があったからこそこの答えに辿り着くことができた。

 


もっと広い世界が見たい。種族なんて関係ない・・・ゴブ布からしてみれば同族ですら他種族に見えてしまうのだ。他種族が仲良く手を取り合う平和な星を作ることがゴブ布の夢なのだという・・・虎視眈々と機会を伺い、謀反を起こそうとした。しかし腐っても名将である父・・・なかなか実行することはできなかったのである。

 


「分け隔てなく・・・この宇宙に生きる者同士平等に笑い合い暮らせる国にしたかった・・・しかし我には王の器がないことはわかっていた・・・武はあっても知が足りない。今ではこの有様だ・・・もはや夢など消えてしまったな・・・生まれ変わることができるのならば・・・願わくばそんな国に生を受けたいものだな。

 


・・・長くなってしまったな。どうかしているな・・・敵であるお前にこんな話をしてしまうとは・・・さぁ行け。ゴブ良を助けるのであろう?先日この階層が騒がしかった。たぶんこの階層にいるはずである」

 


金属音が部屋の中に突然鳴り響く。

 


「・・・何故我を助ける?」

 


「オレと同じものを見ているやつが囚われていたからな・・・」

 


ゴブロリはゴブリンスーツを脱ぎ出す。

 


「オレの名はハイロリ。未来の人類の王となるものだ。オレの故郷では同じ命である星を荒らす害虫が多くてな・・・たとえすべての同族の命を奪おうともオレは理想の世界を創り上げる。

 


この星には訳あってきた・・・最初はただ制圧するつもりだったんだけどな・・・民達の苦しむ姿が見ていられなかった・・・だからゴブ羽を王としこの星を変えようとしている」

 


「ゴハハハッ!!よもや人族だったとはなっ!!もっとも敵視している人族がこの星を救おうとは笑いが止まらぬっ!!

 


やはり種族など関係ないのだっ!!我は間違ってなどいなかったっ!!感謝するぞ・・・ハイロリ。我は再び自身の夢を見ることができる。

 


貴様の名は本当に一生忘れられない名になりそうだな」

 


「だろ?最初にそう言ったじゃねぇか。

 


さてと・・・そろそろ脱出せねばならないな」

 


「先に行け。我はやることがある。同じく虐げられてきた同胞達を・・・我が部隊を救出せねばならない」

 


「旅は道連れって言葉がある。ついでだ・・・手を貸そう。そいつらはどの階層だ?」

 


「・・・恩にきる。階層はわからない。片っ端から探すしかないだろうな・・・」

 


「ぷはははっ!なら単純でいいじゃねぇか・・・どうせ脱出方法は考えていなかった。派手に行こうぜゴブ布っ!!」

 


「ゴハハハッ!!ハイロリよ。お前とは敵ではなく味方として出会いたかったものだな。星下無双と呼ばれたこの武・・・見せてやろうぞっ!!」

 


「くくくっ・・・お前ノリいいな。そんじゃまっ・・・ここは夢の共闘と行きましょうかね」

 


ゴブロリとゴブ布。最初からは想像もできなかったことが起こる。幾度となく殺し合った2人がひとつの目的のために手を組む。通路を戻ると2人のゴブリンが待っていた。

 


「先生っ!!私のために申し訳ありません・・・っ!ゴブ布っ!!なぜ貴様がそこにいるっ!?」

 


「ゴブ良。元気そうで何よりだ。ただ今は時間がない・・・説明は省く。ゴブ布は味方だ。外ではゴブ羽達が魏軍と闘っている。ゴブ蔵とともに直ちに脱出しろ。オレとゴブ布が派手に暴れる。その隙をつけ」

 


「・・・必ず戻ってきてくださいね?私の次は先生とか笑えませんから」

 


「星下無双の漢がついてるんたぜ?心配するな。ゴブ蔵っ!!ゴブ良は頼んだ。それと合流次第退却しろっ!!オレは必ず戻るっ!」

 


「御意」

 


脱出に向かうゴブ良とゴブ蔵。そしてゴブ布とゴブロリは救出へと向かう。ゴブ布と似た境遇を持つ集団・・・真紅の精鋭部隊を助け出すために。