闇と光 第24話 女の子の部屋
オレとアデルソンはあれからずっと底辺の争いをしていた。だが突然その時がきた。オレ達の小さな戦争は始まる前から終わる運命にあったんだ・・・。
「そんなこと言ってるからお前はバカなん・・・」
「バカっていう方がアホなん・・・」
2人は言葉を途中で放つことをやめた。言い争いをしている場合ではないということに気づいたのだ。オレとアデルソンは目を合わせた。なぜかその時だけはこいつとシンクロできた気がするんだ。一呼吸置き、オレ達は同じ方向をゆっくり見ることにした・・・。
みんなが待ち望んでいる。我らが大英雄リヒテル様がそこに立っていた。無言の圧力。これが本当の無言の圧力。
「・・・終わりましたよ?お二方?」
「お疲れ様でした!!リヒテルさん」
遅いぜ。アデルソンよ。社会人レベルではオレの方が上のようだな。だって目が笑ってねぇよこの人・・・。
「ご、ご苦労。で、アリスの納得いくものになったのか?」
「はい。とっても可愛くしてくれました。ありがとうございます」
「ならばよかった。ハイロリはこれからどうするのだ?」
「工房にいくよ。とりあえず依頼だけしときたいし」
「そうか。連絡をいれておく。顔は見たくないがいつでもこい。来るなら裏口からにしろ
」
「ああ、世話になったな。暇だった時はしょうがないから遊びにきてやるよ」
「最後まで減らず口を・・・。達者でな。アリスを頼むぞ」
「ああ、自由の身にするよ。では行こうかアリスちゃん」
「はい。ご主人様」
ん・・・?なんかおかしなことを言ってらっしゃいませんでした?気にしたら負けだ。いやこれは夢だ。とりあえず出よう。
2人が出て行った後、アデルソンとリヒテルが話していた。
「リヒテルよ。あれでよかったのか?」
「ああ、構わないさ。アデルソン。異常な能力は持っちゃいるが悪いやつではないしな」
「あいつらが残した大切な者だからな・・・、ハイロリに頼まずとも助けるつもりであったが。しかしハイロリのやつはアリスをそのまま解放するつもりなんだろうな」
「だろうな。スミレの花言葉の意味すらわかっちゃいないなあれは」
「ラルカスにも気に入られたようだが、この分だとあのじゃじゃ馬からも目を付けられそうだな」
「ふ・・・。まったくだ。騒がしくなりそうだな」
しばらくその部屋からは、2人の話し声と笑い声が聞こえていた。
「ご主人様。このまま工房に行きますか?」
日本語じゃなくて聞き取れない部分がありますね。
「いや先にアリスちゃんの家によろうか?」
「はい。かしこまりました。ご主人様。私のことはアリスとお呼びください」
おかしいなぁ。最近外国語を途中に挟む習慣でもあるのだろうか。
「あ、ああ・・・。わかったよ。アリス」
「ではご案内致しますね」
そろそろ現実を見るとしよう。このままアリスを家に送ってお別れするつもりだった。そのつもりでがっつり匂いを堪能してたのに。脳内記憶・・・コンプリート!!
奴隷になってないはずなんですけど、ご主人様ってなんですか?ご主人になった覚えはないんだけど・・・。そうかっ!あれだ。奴隷のフリをしてるんだ。人前ではアデルソンの建前があるからな。できた子だな。アリス。
「ご主人様。こちらです。着きましたよ」
いやあ笑顔が可愛い。クールビューティの笑顔。また一段といいものだよね。カメラ作ろ。それがいい。カメラ絶対つくろ。盗撮とかじゃないんだからね?脳内に記憶できるからいらないし。オレはやっていない。犯人は私じゃアリマセン。
「ではアリス。ここでお別れだね。君は自由の身だよ」
笑顔には笑顔で返しましょう。女の子には優しくですよ。
「ご主人様・・・。私をお捨てになるんですか?」
涙を浮かべながらアリスは言った。周りの視線が気になる。
「ちょっと待てアリス・・・。とりあえず家にいれてくれるかい?」
慌ててオレはそう言った。周りの住人達はオレ達2人に注目している。このままではまずいとオレの本能が告げていた。
アリスの家に入る。その部屋は女の子らしい可愛い部屋だった。よく片付いている。そしてアリス本体の匂いもよく染み込んでいて素晴らしい香りを放っている。オレの目は洗濯物に向けられていた。もちろんそれは下着にロックオンされている。アリスは慌てた様子でそれを片付ける。アリスよ。なんてもったいないことを。アリスが戻ってきたところでオレは話を始めた。
「アリス。さっきのことなんだけど。捨てるもなにも元から奴隷じゃないでしょ?アデルソンの建前上、仕方なくそうゆう形になっているだけだよ。だからアリス・・・君は自由の身なんだよ。オレに縛られず自分のしたいように自由に生きていいんだよ?」
オレは優しい笑顔でゆっくりと言った。
「それはわかっております。ですが私は命を救っていただいたご主人様に生涯忠誠を尽くすと決めました。この胸の紫のスミレはその想いを込めて入れました」
突然彼女が見せてきたそのスミレは、彼女の肌によく映えていて独特の色っぽさを醸し出していた。下着も見えている。少し膨らんだ丘からは目を離すことができなかった。さらに衣服によって篭り凝縮された彼女そのものの香りがオレの脳を直撃していた。
「そもそも私はご主人様に負けました。古来より敗者は勝者になにか差し出さなければなりません。しかし私にはこの体しかご主人様に差し出せる物はございません。
なによりも私は仕事に人生のすべてを懸けて参りました。今の私にはなにもございません。ご主人様に忠誠を誓い、尽くすことを私の人生のすべてにさせてください。私をご主人様のお側に置いてください」
彼女の言葉に込められている決意は想像以上に重かった。彼女のすべてを壊したのはオレ自身であった。壊した相手に対し、ここまで忠誠を尽くせる彼女は尊敬に値する。仮に嘘であったとしても、彼女になら首を明け渡してよいとも思えた。彼女は殺し合い、深く愛し合った女である。オレの心の中には彼女との濃密なつながりがしっかりと刻まれている。はたして彼女はどうなのであろうか。それは彼女にしかわからない。
そんな彼女にここまで言われたのならば、オレには断れない。美貴のことは確かにある。だがなんとかなる。きっとなんとかなる。なるようにしかならないのだが・・・。オレは思考放棄ではなく考えることをやめた。アリスを。彼女を大切にしようと決意した瞬間だった。美貴に追求されたらそのまま話せばよい。美貴に向ける笑顔と同様の笑顔でオレはアリスに語りかけた。
「わかったよ。アリス。大切にするからオレに仕えてくれ」
アリスは満面の笑顔でこう言った。
「はい。ご主人様。一生お側にお仕えします」
ハイロリは従者を手に入れた。