闇と光 第44話 涼宮美貴2

戻ってきちゃったわね。まだドキドキが止まらない。慶太のせいね。あの温もりが恋しくなる。出会ってまだ時間が経ってないのに好きになっちゃったな・・・。彼は時間じゃない。心がどれだけ繋がれるかだって言ってたけどその通りになったわね。早く片付けてまた会いに行きたいな。あれ?あっちでは数日だけど、こっちだと毎日じゃない。毎日会えるんだと私は喜びに満ち溢れる。

 


私は彼に会いたいので仕事を片付けることにした。ふといつもの自分の体と感覚が違った。体がとても軽く感じた。彼と共鳴状態にあったため、私も身体強化を無意識のうちに使えているようだ。消費したマナは呼吸するかのように吸収している。睡眠不足だった私だが、それも改善しているように感じた。向こうで寝れば、こっちで睡眠したのと同じ効果になるのかしら・・・?

 


「ああ、涼宮さん。戻ったのね。あら涼宮さん・・・ちょっと見ない間に女の顔になってるわね。お気に入りの子となにかあったのかしらね」

 


仕事部屋に戻る途中に1人の女性に話しかけられた。楽しそうにニコニコしながら話すこの人は東雲司(しののめつかさ)。私の上司だ。

 


「え・・・。な、なにもないですよ」

 


私は顔を赤らめながら慌てて言った。

 


「隠さなくていいの。部下のことだからちゃんとわかるのよ。高橋さんも特別枠決めたみたいだし、初日に特別枠が決まるとは思わなかったわ」

 


へぇ〜。あの女も決めたのか。と噂をすればなんとやらである。

 


「司さぁん。あらビッチ先輩じゃないですか。特別枠決めたって聞きましたよ。まぁ私の彼には勝てませんけどね」

 


話しかけてきたのは高橋香織(たかはしかおり)。私の後輩だ。第1棟管理局長。私と半分ずつ参加者の管理を受け持っている。黒髪ロングで見た目は清純派。そして巨乳なのだ。

 


「だから私はビッチなんかじゃないっていつも言ってるよね?なにも競争してるわけじゃないからね」

 


「きゃあ。司さぁん。先輩がいじめますぅ。胸がちっちゃいからってまた私を妬んでいじめるんですよぉ。私の彼はもうすぐ身体強化できそうですよ。司さぁん」

 


いつも突っかかってくる。見た目がギャルっぽいだけでビッチと呼ぶ。すぐ私の胸をちっちゃいというのでこの子のことは嫌いだ。

 


「仕事があるから失礼しますね」

 


「司さぁん。大変ですぅ。ビッチ先輩がヒステリックになってますぅ」

 


私は怒りを抑えながら仕事部屋に向かった。ビッチどころかまだ誰ともしたことがないっていうのに・・・なんなのあの女。慶太だったらいいかなと思う。でも私の腕と足には傷がある。きっと引いちゃって嫌いになっちゃうよね・・・。

 


私は昔いじめられていた。次第に学校にも行かなくなりひとりぼっちだった。行き場のない感情を自分の体にぶつけることしかできなかった。ギャルっぽい見た目になったのは憧れからだ。自分もあんな風に明るくなりたかった。あと単純に見た目が可愛く思えたからだ。

 


外を出歩くようになってから、言いよってくる男達もいた。しかし私の腕や足の傷、ピアスを見ると離れていく。体目的だけのやつもいた。そういうのはすべてお断りしてきた。無理矢理しようとするやつもいた。モデルガンを見せただけですぐ逃げていく根性なしばかりだった。まぁ本物だと見せる演技はするけどね。

 


慶太のことは好き。変わった人だと思う。いつか気持ちは伝えたい。短い時間だけど、それぐらい好きにさせられてしまった。そう思いながら仕事を片付けていく。なにも問題なさそうだ。そう思った時だった。

 


ビーッ!ビーッ!

 


なにが起きたの?イエローシグナル。参加者の脳になにかあった時に起こる警報だ。どの参加者?画面を開いてみると私に衝撃が走った。悪七慶太。彼だった。

 


慌てて彼のモニターを開く。肉体には異常なし。ダイブカプセル内の彼の体を観察していく。あっ・・・お、大きい・・・。ってこんなことしてる場合じゃ。脳に一気に負荷がかかったのが原因のようだ。慌てて彼のカプセルに脳の細胞活性化の薬品を投与する。ちなみにこの薬。原理はよくわからない。他文明産の薬と知らされている。司さんが言うには臨床データもばっちり取ってあるらしい。

 


これであとは時間が経てば大丈夫ね。仕事も終わったし、彼が心配で仕方がないので私も再びダイブする。

 


彼のマイルームは私が戻った時と随分変わっていた。この短期間でなにをどうしたらこうなるのよ・・・。広い部屋を進んでいく。あ、お姫様ベッドだ。可愛い。ん?誰かがいる・・・。なによその格好は。慶太にくっついてるのが1人。慶太に乗っているのが1人。これはあとで彼に説明してもらわないといけないわね。

 


「・・・なにしてるの?」

 


「あなた・・・誰?」

 


「もしかして・・・ご主人様の正妻の美貴様ですか?」

 


ご主人様?正妻?慶太が私のことをそう言ったの?嬉しい気持ちを必死に抑えながら聞いた。横にいるのがアヤネ。上に乗っているのがアリス。マナを使い過ぎて枯渇状態になり昏睡しているという。なぜそんなことしているのかと聞いた。マナを回復させるには共鳴させるのが効果的だと。さらに体内であるほど効果が高い。さらに2人と慶太の関係も聞いた。目を離しただけでなぜこうなる。慶太を1人にしてはいけない。そう思った。とりあえず状況は理解した。

 


美貴様もお願いします。ご主人様を助けてください」

 


「私からも頼む。ハイロリ様を助けて」

 


えっ・・・。私もいくの?言われるがまま私も同じ格好になる。寝ているとは言え恥ずかしい。慶太を上から抱き締める。慶太から涙がこぼれていた。3人はその反応に喜んだ。

 


私は2人に聞いた。好きな男の子が自分の他に好きな女の子がいたら嫌じゃないのかと。優れた男性ならそれが普通だと2人は言っていた。慶太なら何人いても同じくらい愛してくれるとも言っていた。私ももっと愛されたい・・・。3人で慶太を抱きしめながら色々話した。

 


いつのまにか2人と仲良くなっていた。同じ男性を愛する気持ちは皆同じである。この子達とならしょうがないかなって思ってしまった。非常識なことなのだけど、愛されるなら複数いる女のうちの1人で私もいいと思った。遊びじゃなくて本気で愛してくれるなら。慶太ならしてくれるとなぜか信じていた。

 


いつのまにか3人は呼び捨てで呼び合うようになっていた。主に私がアリスに頼んだんだけどね。すると慶太が言葉を放った。

 


「ハイロリさん」

 


今ハイロリさんって言ったわね。ここにいない女のことを言うのかよ。

 


「誰ですか?」

 


「誰?」

 


「実はね・・・」

 


私は2人に説明した。ハイロリさん。それがこの世界に来る前に慶太が好きになった女性だと。2人と話し合った結果、確実にもう1人女が増えるという結論に達した。慶太のことだからきっとそうなる。3人とも同じ意見だった。しかし私はまだ付き合ってもないのだけれども。正妻と言われて舞い上がっていたのかもしれない。慶太が目覚めたら告白しなきゃと決意した。

 


「しかしいない女の名前呼ばれるのってヤキモチ妬いてしまいますね」

 


「そうだね。美貴わからせてあげよう」

 


「どうやって?」

 


2人に説明された。私の顔は急速に赤くなった。

 


「私・・・。はじめてだしやり方がわからない・・・」

 


「大丈夫だ。私達2人とも初めてはハイロリ様だ」

 


「そうですよ。アヤネわかってますね?」

 


「はい!アリス先生」

 


そう言うと私に触れ始める2人。なんでも痛くないようにするためらしい。私も決意した。慶太に最初で最期の人になってもらおうと。

 


慶太のマナにより深く触れることになる。アリス先生に言われた通りにする。慶太が好き。好きという気持ちが止まらない。

 


「美貴、アリス、アヤネ愛してる。死ぬまで・・・死んでからも未来永劫オレと一緒にいてくれ」

 


「「「はい。喜んで」」」

 


慶太が突然言ってきた。3人とも嬉し過ぎて思わず即答する。よかった。慶太が目を覚ました。私は泣いていた。アリスもアヤネも同じように泣いていた。

 


この後私は告白されさらに泣くことになる。ありのままの自分を愛してくれる慶太。もう私にはあなたしかいない。心の中で私の何かがそう叫んでいた。

 


この日私にはかけがえのない彼氏。そしてかけがえのない友達ができた。