闇と光 第105話 無力
くっそ・・・なにかできることはないのか・・・修行したって何の役にも立ちやしない・・・今のオレは自分の無力さを痛感させられている。
時は遡る。午前中はライブの打ち合わせ。午後からオレはいつものようにリュカウスと闘っていた。
「くはははっ!ハイロリぃぃ!マナ量が上がってるな!楽しいなぁ!おいっ!」
「さすが!嗅覚がいいなリュカウス!新たな女候補ができてな!そいつのマナの量はオレやお前と同じくらい・・・いや上かもしれないぞ!」
「とんでもない女が身近にいたようだな!だが主の周りにはもっととんでもない女がいっぱいいるがな!」
「ぷはははっ!それまじかよおい!きっと奥さんとやらが1番なんだろう!?そりゃあこそこそしないと無理だわなっ!」
「ふはははっ!よくわかってるようだなっ!主の奥方様は化け物だっ!我らなど一捻りだぞ!」
うん・・・おっさんそりゃご愁傷様だわ。かかあ天下なんだろうな・・・やっぱり女の方が強いよなぁ。男なんてちっぽけなもんだ。
オレはリュカウスと激闘しながら会話をするようになっていた。互いに力量を認め合い、互いに興味が出始めたのだ。ボスエリア内は当初、木々が生い茂る森であった。しかし今は木々ひとつない荒野と化している。闘いながら更地へと変わってしまった。すまない木々達よ。でも弱肉強食の世界なんだ・・・許してくれ。
2人は激しい攻防を繰り返していた。しかし両者の手が止まる。なにかがこのエリアに入ってきたからだ。
「ハイロリ様!大変なのっ!」
木影こと凛が息を切らしながらオレを呼びにきた。普段おっとりしている彼女がここまで慌てているということは緊急事態なのだろう。オレの中で緊張感が高まる。ふとリュカウスを見ると手で行けとオレに言っている。
「わりぃなリュカウス!またくるぜ」
凛から事情を聞いた。・・・ほんとに火急の知らせじゃないか!よく伝えてくれた!快速超特急で行くぞ凛っ!
オレは凛ごと闇に包み転移した・・・のはいい。今オレ達は愛の巣にいる。
「ところでどこに行けばいいんだ?」
「あっ・・・どうしようっ!?私も聞いていないです・・・」
「・・・」
「「どうしようっ!!」」
はい。凛と仲良く慌てております。オレはどうすべきかわかったので素早く凛を抱き抱えながら転移塔の上まで転移した。
アイシステム起動っ!!
場所がわからないなら探せばいい。ここでもない・・・東門エリア?・・・違う。マナを感知しよう・・・こっちか!西門エリアだっ!見つけたぞ!
素早く転移する。オレは急いで駆け出した。
「おぉわりと早くきたねハイロリ。まだ大丈夫だよ。ハイロリがやるのがこの世界では普通だけど・・・できる?あたしがやろうか?」
フーカが心配そうにしている。えっ・・・やるって・・・オレがするの?嘘でしょ?何そのパターン・・・。
「まぁいい!とりあえず早くいくぞフーカ!」
オレは勢いよく扉を開けた。
「アリス!大丈夫か!?」
「ご主人・・・様・・・」
アリスが苦しそうにしている。光の速さでアリスの元へ行き、優しく頭の下に手を入れる。もう片方の手でアリスの手を握る。そして汗ばんだ額に口づけをした。
「マナで無痛にできるんだけどアリスがどうしてもって聞かなくてねぇ・・・まぁハイロリもアリスがそう言うならって賛成するんだろうけどね。でハイロリがとるのかい?」
「ご主人様に・・・やって欲しいです・・・」
アリスの頼みとあらばやるしかない。やったこともないし自信なんてこれっぽちもない。おっさん・・・漢には引けない時があるんだよな・・・引けない時がまたきてしまったようだぜ。
ハイロリハンドを展開しアリスの頭とアリスの両手に配置した。アリスの足を開く。いつも見慣れた光景と少し違っていた。いつも以上に広がっていたのだ。
「お・・・もうちょっとかな。アリス頑張りなよっ!」
「フーカ!どうすんのこれっ!?」
「あはははっ!慌ててるハイロリなんて新鮮だね。あぁおかしい・・・あははっ」
おぅ笑ってる場合じゃねぇぞフーカ!アリスがあんなに苦しんでるじゃないか!どうすりゃいいんだ・・・早く教えてくれ・・・。
「フーカはよっ!!はよ教えてっ!!」
「ほんと可愛い子だねハイロリ。まだだよ。もう少ししてからだよ。そう慌てなくていいよ。あたしがそばについてるからさ」
いや慌てるわっ!こっちサイドなんてやったことねぇわ!そんなん知らねぇよ!
「じゃそれまでアリスのそばにいるからいい時に呼んで!」
オレは慌てて先ほどのポジションに戻り、アリスの頭を優しく包み込む。痛みによりどんどん汗ばんでいくアリス。彼女の苦しむ姿を見て泣きそうになりながらもどんどんアリスが愛おしくなってきてしまう。途轍もなく長い時間が経ったように感じた。以前も感じたが実際はたいして経っていないというオチである・・・。でもこの時ってクソ長く感じるんだよ。うんうん。
「ハイロリ!そろそろだっ!アリスも気合を入れなっ!」
フーカの声を聞きまたもやオレはポジション移動することになる。実況がいたらこの移動を褒め称えるに違いない。再びオレはアリスをご開帳する。
・・・先程より広がっている。奥までよく見える。
「アリス呼吸法はわかってるね?マナとはいえ旦那の手を握りながら産めるんだ。良かったねアリス。普通はそんなことしてもらうなんてできないんだからね」
「はい・・・ご主人様・・・愛してます」
アリスは痛みに耐えながら笑顔でオレに言ってきた。ここでやらねば漢ではない。よし・・・やってやるぞ。オレならやれるっ!!それでは・・・。
「だからフーカどうすんのっ!?」
以降オレはオロオロしつつひたすらフーカに問い詰めながら、指示通りにやった。・・・だってやり方わかんないもん。
「アリス!頭がだいぶ見えてきた!もう少しだ!」
「・・・はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・」
アリスの目は閉じていた。美しかった顔は苦痛に歪んでいる。髪は乱れ、肌は汗ばんでいる。しかし乱れたアリスはオレにだけは違ったアリスに見えていた。より一層セクシーにそして美しくなっていたのだ。今までで1番美しいアリスがオレの目には映っていた。
「アリス!もう少しだから気合をいれなっ!ハイロリもしっかりするんだよっ!」
フーカにより指示が飛ぶ。必ずとってやるから頑張れアリス!
「・・・はっ・・・はっ・・・はぁぁぁんんんんんっ!!!・・・」
「・・・おぎゃぁ!おぎゃぁ!おぎゃぁ!」
オレはへその緒を自身のマナで切り取った。そしてマナで新たな命を優しく包み込む。そのままオレはアリスの見える位置に移動させる。
アリスは涙を流していた。アリスが泣いているのを初めて見た。天女がそこにいた。そんな彼女にオレの心が今まで以上に奪われていくのがわかった。ふと目が合うと自然に2人とも笑顔になっていた。
ハイロリハンドをさらに増やす。赤ちゃんを空中で抱き抱えながらアリスの処置に入る。そんなオレを見てフーカは笑顔だ。
「・・・おいおい。全部旦那がやる出産なんて初めて見たよ。あははっ!幸せもんだねアリス。あたしもいつかハイロリとこんな出産したいなぁ・・・」
「お姉ちゃん?」
「・・・おぎゃぁ!おぎゃぁ!」
元気な女の子が産まれてきてくれたようです。
うーむ・・・やっぱり無力だよな。オロオロするしかできない。手とか握ってあげることはできるけど・・・そりゃ男は邪魔だって言われるわな・・・。流れ的にきっと嫁達の出産はすべてオレがとることになるだろう。フーカ師匠にあとでちゃんと聞いておこう・・・。