闇と光 第110話 明かされる歴史

オレはアデルソンにより事情聴取されている。正直に答えてやったさ。最初から騒いでもらうつもりだったと・・・。悪爺は呆れていたようだったがそれよりもホッとしていた。リヒテル叔父様率いる暗部と争わなかったことに。こいつ絶対ハゲるな・・・うん。

 


事情聴取も終わり部屋に戻ると、一斉に歌の感想を求められた。ごめん・・・あまり聞いていない。聞いてはいたがオレにとっては歌に聞こえないんだ。単なる声にしか聞こえない。唯という楽器から発せられる音。その声だけがオレには歌に聞こえる。

 


彼女の感情そして自分の感情が自分の中にこれでもかと襲いかかる。それこそが歌と呼ぶに相応しい。今まで耳に聞こえてきた数多くの歌は歌じゃなかった。だから歌に興味を持てなかったんだ。

 


さて現在感想を求められているわけだが素直に話そう。ここでごまかす関係なんてオレは求めていない。というか彼女達に嘘をつくことはできない。言いたいことは言わせてもらおう。

 


「ごめん。最初しか聞いていなかった。感想を言うと正直声にしか聞こえなかった。輝いてはいたが歌とは思えなかった。唯一歌と思えるのは唯の歌声だけだな」

 


そう言うと9人は一斉に落ち込む。他の彼女達は焦った様子でフォローしている。アリスとアヤネの焦っている姿は新鮮だ。可愛いぞ。

 


「でもその歌を待っているファンがいる。喜んでくれる者がいる。それだけで誇れることだし、喜ぶべきことだと思う。・・・しかしなぜトップアイドルを目指している?歌いたいという強い意志が正直感じられなかった。有名にでもなりたいのか?」

 


彼女達は目を見合わせている。しばらく沈黙が続く。オレになら・・・と紫苑が話し始める。

 


まず彼女達は偶然集められたわけではない。オーディションは受けたがあれは最初から合格者が決まっていたそうだ。全員ある目的のために集まった。彼女達は顔見知りなのだという・・・なにその真っ黒オーディション・・・やらせもいいところだろう。

 


紫苑はまず陰陽師を先祖に持つ家柄なのだという。なにその新情報・・・安倍晴明とか?なのかなと思ったらばっちりそれだった。晴明により命じられ本家から離れ、親から子へ語り継がれてきた事実があると言った。決して歴史の表舞台にはでてこなかった話が明かされていく。

 


メンバーは全員先祖が聞けばわかるような家の出なのだという。なんか話が大きくなってきたな。3名ほどわかりやすぎる子がいるけど・・・とりあえず聞くことにしよう。

 


ある時、晴明は天啓を受け取った。この星の人類に滅びの未来が待っている。それを止める者の魂をその時がくるまで守り抜け。その者の魂が歪んでしまえば逆に滅ぼす側へと回ってしまうだろう。

 


晴明は必死に探したが、結局見つけることができなかった。紫苑の先祖にのみその事実を伝え、この世を去っていった。それから長い間探してきたが、その者が見つかることはなかった。

 


しかしある時見つかることになる。時は正に戦国時代。天啓が再び舞い降りる。人類の未来を担う救世主の魂に命の危機が迫っていると。紫苑の先祖である当主はすぐさまその場所へ行き1人の男を助ける。その者は合戦に参加しており、矢を受け倒れていた。

 


懸命な看病によりその者は一命を取り留める。しかし当主はなぜ助けたと問われる。オレが生きたい世界はここじゃない。つまらぬ生を終えるチャンスをお前に消された。そこで当主は事情を話したそうだ。けれども自覚もないし、根拠がないと一蹴される。

 


行く宛もない男だったので当主は彼を秘匿し面倒を見て守り抜こうとした。2人による生活が始まった。当主はその男との問答が楽しかった。常識に捉われない答えが次々と返ってくる。非道とも言えるようだが理に適っている答えだった。

 


当主の名は竹中半兵衛。知っている?と聞かれたがそのぐらいは一応知っている。秀吉の軍師となった男か。だがその知識はすぐに覆されることになる。

 


半兵衛は軍師などではない。ただの占星術師であった。知は優れていたが軍略の才はそこまで優れていなかった。半兵衛の軍略はすべてひとりの男の受け売りだと言うのだ。彼の言う通りにしたら城の乗っ取りにも成功してしまった。

 


半兵衛は彼を城に迎えようとしたが、彼は断る。この日の本如きの小さな争いではなにも変わらない。海の向こう・・・すべての国々を統一し導かなければ平和などやってこない。

 


半兵衛は彼の言葉を数多く聞いてきた。見えている世界、考えている次元が違うと感じていた。そんな彼を説き伏せることなどできないと思い、半兵衛は時の流れのままに彼を見守ることにした。

 


ある時、その男はひとりの女を見つけてくる。その女の容姿は当時の観点から行くと醜女であった。彼はつまらぬ世界ならばこの者と静かに愛し合いながら暮らしたいと言った。彼は女に対し平等な関係を望んでいた。当時としては珍しい仲の良い対等な夫婦の姿がそこにはあったのだ。彼が望むならと半兵衛は望みを叶えることにした。

 


その頃半兵衛の元へある男が訪ねてくることになる。木下藤吉郎。後の秀吉である。半兵衛は藤吉郎の誘いを何度も断った。しかし藤吉郎はどうしても半兵衛が欲しかった。どのような条件なら受けてくれるのだと問う。弾正忠様と話をさせて欲しいと半兵衛は言った。戦の炎がやがてここにも及びこのままでは彼を守ることができないと思っての行動であった。

 


ここから天舞音と朱音も話しに加わってくる。豊臣と織田だもんな。先祖のことだから話したいのだろうか。

 


半兵衛、藤吉郎、信長3名による密談が始まる。そこで半兵衛はすべての事実を話す。信長は家臣にはとても優しく慕われていた。決して無下にされることはないだろうと読んだ上で相談した。話を聞き終わるなり、信長はその者の特徴は!?と慌てた様子で聞いてくる。半兵衛は彼の印象を伝える。するとすぐさま会いに行くと言った。

 


藤吉郎は護衛をつけようとしたが信長に一喝される。その者は大人数を酷く嫌うと言うのだ。信長は言った。その男のおかげで我が国の今がある。戦に勝てたのは昔の彼の知恵のおかげなのだという。信長とあの男は以前に出会っていたのだ。しかしその男はある時忽然と姿を消した。

 


3名は男の元へ急ぐ。半兵衛の声を聞き入室の許可が出る。家の中に入ると男は座っていた。男の胸には妻が身を預けている。

 


「1人ではないのか・・・そっちは知らんが・・・生臭坊主か?久しぶりだな」

 


「久しいな。妖よ」

 


彼は信長を覚えていた。吉法師と言う幼名からきたあだ名なのだそうだ。彼と信長が親しげに話している。半兵衛は妻に対し席を外して欲しいと言ったが信長に止められる。彼は必要な時以外は自由がなくなるのを嫌うと言っていた。この場合は必要な時ではないのだという。妖というあだ名は彼その者を表しているような気がした。人の持つ考えではない・・・まるで妖とも言えるような考えだ。

 


「妖とその妻の平穏な暮らしを保証する。半兵衛を通し、我が軍に加わらぬか?」

 


「・・・ぷはははっ。よくわかっている。よしと言えば半兵衛も従うという読みなのだろう。そしてオレが乗るということも知っている・・・法師よ。主は何を望む?」

 


「人々が笑い暮らせる平和な世を望む」

 


「・・・この国のって意味でいいのか?」

 


「身の程はわきまえている。この国の平和だ」

 


「なら簡単だ。天下をとればよい」

 


ここから織田軍による天下統一への闘いが始まった。