闇と光 第111話 天下取りに必要な物

天下統一。言葉にするのは簡単だが実行することは難しい。できたら苦労はしないと声が上がる。

 


「法師よ。平和のためなら己の命すらすべて投げ出せるのか?」

 


「このちっぽけな命・・・捨てる覚悟などとうにできておる!」

 


「信長様っ!なりませぬっ!」

 


藤吉郎が異論を唱える。しかし信長に止められる。それならば自分も命を差し出すという。妖はそんな藤吉郎を見て半兵衛に対し藤吉郎の情報を求める。そして一言放つ。

 


「その言葉偽りの無いものとみた。法師の次はお前だな。見所がある。そして出が農民。出自もばっちりだ。半兵衛とりあえずこいつについていけ」

 


そして妖は天下統一は簡単だと言う。全部力で従わせれば良い。しかしそれでは長くは続かない。駒がたくさんいる。法師一人の命では長き平和には足りない。各大名の情報をよこせと妖が言う。

 


瞬く間に情報を把握していく妖。毛利、徳川、上杉。後に島津、伊達。この辺の駒が必要であると言う。そして藤吉郎ともう1駒、重要な駒が必要である。法師同様にいや法師以上の汚名を被る者が必要なのだと話す。

 


妖は次に織田軍の将の情報を求めた。またもや妖は一瞬にして把握する。そして家康とある男を呼び出した。幸いにも信長包囲網への緊急対策会議が翌日に行われるため将兵が集められていた。召集にはそれほど時間はかからなかった。

 


ここから凛と葵も話に加わってくる。家康と誰だろう。話の流れからするに重臣。まぁ天下泰平させるならあの武将以外はないだろうな。主君の殺しの汚名を受けた者。これでファイナルアンサー。

 


読み通り明智光秀であった。凛は明智家が先祖。なるほどな。出来レースか。しかしそれでは武田家あたりが一番邪魔だな。オレなら禍根を残さぬように完全に滅ぼすがそうしなかったのはなぜなんだ?現に家康が六文銭の赤備えにヒヤッとさせられているしな。まぁ自身は黒になるというオレ好みの策を使ってはいたが・・・。信長は思ったよりも非情になれない人物らしいな。優しすぎるのか。うーむ・・・ぬるすぎるな。

 


現れたのは家康、光秀の2名。天下人が4人もいる贅沢会談だな。物事には表と裏がある。裏では違うことが起きている。まさにその言葉通りだな。光秀も忠義の男であったようだ。やっぱりこの世界は捏造だらけの世界か・・・。

 


妖のシナリオはこうだった。信長は残虐の限りを尽くし、恐怖と力で支配を進めていく。しかしそれでは必ず反乱分子が出る。故に途中で家臣光秀に謀反を演出し首を獲ってもらう。しかし謀反人では諸国に受け入られることはない。そこで藤吉郎にすぐさま首を獲ってもらう。光秀を藤吉郎の名声を上げることに利用する。

 


もちろん実行するには光秀と藤吉郎を織田軍の2枚看板にしなければならない。上杉あたりの手を借りて他の将兵を牽制する必要がある。柴田勝家などを完膚なきまでに叩きのめしてもらわないといけない。

 


藤吉郎には調略メインでこの先進んでもらい、信長の鞭に対し藤吉郎の飴を演出してもらう。そうすることでより諸侯が従いやすくなるはず。しかしそれでも長くは続かない。そこで3人目の出番だ。信長の同盟国である徳川の名が上がる。飴と鞭を上手に使いこなす必要のある重要な役目である。

 


半兵衛には頃合いを見て死んだふりをしてもらい徳川に与してもらう。予想の上では毛利と戦をしている時になるだろうという。上杉と毛利の調略は妖が自らやると言った。ここから芹香と愛流も話に加わってきた。

 


芹香は上杉と伊達の血筋を先祖に持ち、愛流は毛利を先祖に持つそうだ。上杉には伊達が徳川に与するように動いてもらう必要がある。調略した時に策は知らせておくから心配するなと妖は言う。もちろん繋がっていることが知られないように適度に戦をする必要はある。家臣にまで知られてしまうといけないので一部の者にしか事実は話してはいけない。

 


おそらく藤吉郎の死後、木下軍と徳川軍による天下分け目の戦が起こる。そこで徳川には圧勝してもらう必要性がある。毛利を敵軍に参加させ裏切らせる。そして出来うるならば島津軍も取り込みたいが簡単には行かないだろう。まぁ最悪戦わないように仕向けることができればよい。ただし島津は決して滅ぼしてはいけない。後の世できっと重要な役割を持つ。良さそうな家は調略しておくと妖は言った。

 


こうして妖のシナリオ通りに歴史は動いていく。その結果、徳川幕府によりひと時の平和を手に入れることができた。半兵衛は天海と名を改め、初期の幕府に多大なる貢献をした。鎖国は半兵衛による妖を守るための策であったのだという。

 


妖の子孫は徳川により保護されることとなる。9つの守護家が生まれ、さらに影より守られていくことになる。

 


束の間の平和も終わりを告げることとなる。幕末と呼ばれる時代に話は飛ぶ。さらにここから茉莉花と水愛も話に加わってきた。9人全員揃ったようだ。しかし2人の先祖が読めない。思考しながら話を聞くことにしよう。

 


妖が己の考えを伝え味方につけた2家があった。徳川の世が終わりを告げそうな場合は動けという妖の意志がそこにあった。

 


茉莉花の先祖は西郷、そして水愛の先祖は坂本。有名どころか・・・しかしその名前が出てくるとは。続かぬことを予期して手を回していたのが面白い。やるじゃん妖。

 


妖は一時の平和を見ることなく去っていったという・・・妖の最後の言葉が各家に伝えられていた。

 


「1人の女と愛し合えて予期せぬ幸せであった。今回の生は次への布石の生。次は望んだ世界に生まれられるといいな。お前らの思い描く平和を実現してみろ。その平和を後でオレの思い描く平和に塗り替えてやるからな」

 


妖は笑みを浮かべながら息を引き取った。

 


妖の最後は妻の頭と背中に手を回し、唇同士が触れ合っていたそうだ。愛に包まれながら妖はこの世を離れることとなる。