闇と光 第112話 妖の血の行方

長い年月が経つ中、妖の子孫の所在が掴めなくなってくる。どうやら妖は再びこの世に生まれてしまったようなのだ。妖は周りに溶け込むのが非常にうまい。たぶん自分達の存在に気づかれてしまったようだ。

 


半兵衛の残した、とある言葉が家に残っている。

 


笹(妖)を隠すには竹(大衆)の中。

 


妖抜きの将兵達との密談でそう話したのだという。そして文字通り大衆に紛れてしまった。今でいう青森県で暮らしていたのを最後に所在がわからなくなってしまったのだ。出来る限り目の届かぬところに行かせたのが間違いであったと9家は後悔する。行方を知らぬまま時は流れ、西郷と坂本の活躍により時代は移り変わってゆく。

 


鎖国が解除され他国の魔の手が伸びてくる。坂本はその勢力により邪魔だと認識され、暗殺されることになる。これは後に調べてわかったことなのだそうだ。9家も目立たぬように妖の血を探していたが一向に見つかる気配はない。

 


しかし思わぬところで妖の手掛かりを得ることになる。戊辰戦争である。ある藩に妖の痕跡があるというのだ。オレに茉莉花が聞いてくる。

 


「幕末最強と言われた藩を知っていますか?」

 


「すまん。日本史にはさほど興味がわかなかった。と言いつつもオレは世界史も学んでいない。奇跡的に地理のみなんだな。まぁ過去の偉人に正直学ぶべきことはないと思っている。悪い見本としてなら学ぶべきことはあるかもしれんがな」

 


話を逸らしてしまったが、茉莉花が話を続ける。荘内藩。おふ・・・随分聞き慣れた名前が出てきてしまったようだ。新政府軍相手に連戦連勝。そして負けることなく最後まで抗い降伏したのだという。しかしそれがどうしたのだというのだろうか。

 


荘内藩が降伏した時、西郷自身が現地入りした。その時西郷に激震が走る。独自の教育体系の内容・・・さらに街並みで妖の痕跡を見つけてしまったのだ。血が生きていたという喜びが溢れてくる。姿を見てしまっては涙が止まらなくなってしまう。それ故に西郷は荘内藩士の前に出ることはなかった。そこにいるとは限らなかったのだが生きていることがわかった。先祖達の悲願は潰えていない。ただそれだけでよかったのだ。

 


西郷は荘内藩に対して寛大な処置を与えることになる。すべては妖の子孫のために。そしてその後、西郷は自身の血筋を一人、紫苑の先祖に預ける。妖の痕跡があったことを知らせるため、そして妖を再び守れるようにするために。坂本の血筋もまた同じように匿われていた。

 


後に西南戦争が起きることになる。西郷はこの戦いで敗れる。自身のあからさまな処置を自分に目を向かせ完全に隠蔽するため、そして他国より妖を守るための戦いであった。なにより妖の意志を国へ魅せつけるために。

 


「・・・で結局妖とやらの所在はわからないのか?」

 


わからないと言っていた。自分達がトップアイドルとなり日本中誰も知らない人がいなくなれば妖の子孫の目に入るかもしれない。名字もより目を惹いてもらえるようにした。もう一度自分達の手で近くから妖を守りたい。だから唯を蹴落としてまで一番を目指したのだという。

 


なるほど。探し人がいるわけか。しょうがない。彼氏として全力で手を貸してやろう。

 


「オレも可愛い彼女達のためだ。力を貸してやろう。手掛かりとなるものはないのか?」

 


「ハイロリ様ありがとうございます。手掛かりは荘内藩。そして笹を守護する9家を表した竹中半兵衛の家紋。妖様は引き継いでいるはずなので9枚笹であることくらいですかね」

 


「どんな家紋なんだ?」

 


紫苑が紙に書いてくる。うん。見たことある・・・家で。

 


「・・・うちの家紋と同じだな」

 


「・・・!ご主人様のお住まいはどちらですか!?」

 


「・・・山形県庄内地方だよ」

 


盛大な勘違いをされそうだが、恐る恐る答える。

 


「失礼ですがご主人様はなにか大きなことをやりたいとかありますか?ただのやりたいことでも構いません」

 


あるにはある。まぁいい機会だ。こんなに早くくるとは思わなかったが・・・全員に話すとするか。賛同してくれないのならそれでも構わない。オレと唯の2人だけでもやる。それは決定事項だ。

 


オレは彼女達にすべて話すことにした。やりたいこと。考え。思い。彼女達は皆真剣に聞いてくれている。

 


「・・・ってところかな。言っとくけど皆反対してもオレはやるからな。やっと掴んだチャンスなんだ。たとえ最愛の者と敵対してでもやるぞ」

 


話終えると一斉に姦9はオレに対し跪く。

 


「「「「「お待ちしておりました!妖様!」」」」」

 


涙を流している。そりゃそうだような・・・ずっと探してて感動のご対面だもんな。だけどオレ違うって。この勘違いどうしたらいいんだよ。おいおい・・・妖の考えとやらがオレと同じだって言うのか・・・。しかしそれなら妖とは気が合いそうだなぁ。

 


「・・・いや待て。オレは妖などではない。どこにでもいるただのちっぽけな普通の・・・いや変わっていることは認める。どこにでもいるただのちっぽけな変わり者だ。探すのを手伝うから泣くのを止めてくれ。オレまで悲しくなってしまう。彼女の痛みはオレの痛みなのだから」

 


9人が一斉に抱きついてくる。あ〜〜もう、いい匂いすぎて可愛いよ。

 


「慶太諦めなさい。あなたが妖だとみんなの中で確定してるわよ。それに最愛の者と敵対だなんて失礼しちゃうわね。私はどこまでもついて行く。あなたが信じるものなら私も信じる」

 


「そうですよご主人様。みんなご主人様に付いて行きますよ。星のためなんて素敵じゃないですか」

 


「ハイロリ様の邪魔をする者は私が全部斬る。だから安心してね」

 


「僕はダーリンと約束したしね。一緒に成し遂げようね」

 


「「「「「妖様ついていきますっ!」」」」」

 


「・・・家族すら・・・地球の人類すべてを敵に回すかもしれないぞ?それでもいいのか?」

 


彼女達は黙ってこちらを見ながら頷いた。ひとりひとりの目を見ると、それぞれの決意は固いようだ。

 


「・・・みんな賛同してくれて凄く嬉しいよ。ずっとついてきてくれ。それとこの可愛い9人組は敬語を止めること。オレを妖と勘違いするのは自由だがオレは君達を手放すつもりはない。だから本当の妖とやら出てきた時奪われるようなことがあれば敵対するとだけ言っておく」

 


気が合うけども・・・それとこれとは話は別だ。妖・・・オレの大切なものを奪うなら容赦はしない。しっかしオレとよく似た変わり者もいるもんだな。嫁達の賛同をもらったことだし頑張るとするか・・・。誰も死なせない・・・どんな敵がこようとも必ず守り抜いて見せる・・・。

 


そろそろリュカウスを突破しようかな。そのためにはあの技の特訓が必要だな・・・。なんとかできるようになっておきたい。