闇と光 第144話 目覚める夜戦の覇王

至福の時間を邪魔されたゴブ羽軍は抜刀された刀がいきり立っている。まるで自身の心を表しているかのように荒ぶっている。

 


次々に薙ぎ倒される敵軍の兵。ゴブ羽軍の兵達はみなスパーキング状態に突入している。兵ひとりひとりが万の兵に匹敵する強さを見せていた。

 


「兄者っ!!無事かっ!?」

 


「無事だよ。ゴブ華もゴブ異も無事なようでよかった。でも・・・このようにゴブ信もっと強めにしないと彼女達は満足できないぞ?ふんぬぉっ!!」

 


「「「「「ゴブ羽様ぁぁ・・・」」」」」

 


ゴブ羽は8人のゴブ妻を抱きかかえていた。さすがゴブ楚の覇王である。スペックは高い。軽く8人を体に抱きつかせながら歩いている。勿論センターポジションを勝ち取っているのはスパーキング状態のゴブ鄒。そこへ2人よりも大きい地鳴りが近づいてくる。

 


「兄上。ゴブ信をあまりいじめてやらないでください」

 


「おお・・・ゴブ良。そんなに強くしてゴブ英にゴブ姫は大丈夫なのか?」

 


「「もっとくださいゴブ良様ぁーーっ!!」」

 


「いつもより弱めなので大丈夫ですよ。それにやはりあのお方には勝てませんねぇ」

 


ゴブ良の視線の先にはゴブロリの姿がある。激しい地鳴りを起こしながら向かってきていた。

 


「さすがに何ともないようだな。ゴブ妻達も幸せそうでよかった。たまには月夜の下で愛し合うのも風情があるな。うんうん」

 


ひとり頷くゴブロリ。動きが止まるとゴブ美が激しい地鳴りを発生させる。

 


「「「「「さすがゴブ美先生っ!!」」」」」

 


ゴブ羽達がオレを先生と呼ぶように、ゴブ妻達はゴブ美を先生と慕っていた。アリスの生徒だったゴブ美のことを思い出すと感慨深いものがあるな・・・。

 


「それはそうと先生・・・愛を邪魔するもの達には2度と邪魔する気が起きないくらい懲らしめる必要がありますねぇ」

 


3人の中でゴブ良はゴブロリと過ごしている時間が1番長い。脳筋2人では政策のせの字すら話せないからである。そのためゴブ良はゴブロリの教えをより深く継承していた。

 


再び地鳴りが近づいてくる。

 


「敵はどうやら魏呉蜀の刺客のようですぜ?」

 


ゴブ蔵とゴブ香である。一途ゴブリンになったゴブ香はミスゴブバースで優勝できるかもしれないほど見違えていた。

 


「懲らしめるでは生温い・・・私の教えを覚えているか?味方には?」

 


「「「甘く、敵は滅殺ですっ!!!」

 


「さすが自慢の弟子達だ。その通りだ。我らが愛の時間を邪魔するやつらは敵以外の何者でもないっ!!各国1人を残して全員死刑だ」

 


「おぉっ!!さすがゴブロリ先生っ!!あえて残して恐ろしさを伝え、今後我らの夜を邪魔をさせないようにするためですねっ?しかしそのためには先に1人ずつ捕らえなければなりませんね。そして愛を邪魔するとどうなるか見せてあげるとしましょう」

 


「なるほど・・・ゴブ良よ。さすがである。敵を前にしては我らは怒りに支配されてきっと皆殺しにしてしまうだろうからな。いい案だっ!!」

 


なんとも物騒な軍である・・・。

 


「その必要はないぜっ!なぁ瑜よ」

 


「ええ。その通りですね。策」

 


そこには呉軍のゴブ策とゴブ瑜が腕を組んでいる姿があった。後ろに引きずっているのは3人のゴブリン。ゴブ瑜・・・脳筋じゃない男の子が新鮮でオレは嬉しいよ。

 


「策っち!なんでこんなところにいるんだ?瑜ーちゃんも久しぶりだなぁっ!」

 


「権の野郎が刺客を放ったって聞いてな・・・羽ーくんのことが心配になったんだ」

 


「お久しぶりです。羽ーくん。しかしここはいい国ですね。兵達は皆立派に抜刀している。甘美な匂いも漂っている。策も私も思わず見惚れてしまいましたよ」

 


「みんな癒しの時間を邪魔されて怒っているからなぁ。そっちも相変わらず仲が良さそうで良かったよ。はっはっはっ!」

 


え?ゴブ羽・・・お前2人の関係知ってたの?まじで?オレ知らなかったんだけど・・・しかも何その呼び方・・・どんだけ仲良くなってんだよ。

 


聞けばゴブ羽は2人が恋人であることに最初から気づいており、それとなく2人の時間を作ってあげていたそうなのだ。脳筋覇王ゴブ羽にそんなことができたなんて・・・すべてはオレの指導のおかげだな。うんうん。王に必要な愛天地人を理解してきたようで師として嬉しいよ。

 


そこに現れる12人のゴブリン。地鳴りの中に突っ込んでくるとは・・・命知らずなのかな?

 


「てめぇ・・・ゴブ寧なにしてやがんだっ!?ゴブ当・・・ゴブ普・・・ゴブ蓋・・・おめぇらもかっ!?ゴブ茂(も)はどうした?あいつがお前らを止めていただろうっ!?あぁん!?」

 


「あぁ・・・そんなゴブリンもいましたね。でも殺してきましたよ?」

 


「ゴブ権様に仇なす逆賊がっ!!」

 


「ゴブ堅様の息子であろうと容赦はせんっ!!」

 


「だそうだ?ゴフフフッ・・・お前の時代は終わったんだよゴブ策っ!!これからはゴブ権様の時代だ・・・このゴブ寧様がついでにてめぇの命もとってやんよっ!!ゴブ策っ!!覚悟しろやっ!!」

 


「・・・この野郎ぉぉぉぉっ!!」

 


「策っ!!いけませんっ!!」

 


ゴブ瑜が腕を引っ張りながらゴブ策を止めている。ゴブ羽が手を突き出し2人を静止させた。

 


「羽ーくん邪魔するなっ!!これはオレんとこの喧嘩だっ!!」

 


「いや・・・離れていないとまずい・・・弟の攻撃の被害に合うといけない・・・邪魔されたことを確かに我らも怒っている。だが1番この時間を楽しみに生きてきているゴブ良がキレてる・・・ここはひとまず下がった方がいい・・・」

 


「「えっ・・・!?」」

 


2人が後ろを振り返る。そうして2人は何も言わずにゴブ羽とともにこっちに下がってきた。おっ!ゴブ良がスパーキングしてるっ!愛の時間を邪魔されるのイラつくもんなぁ。愛でることができる時間は限られてる。時間は有限・・・こんな奴らに時間を割くなんてもったいないもんな。

 


「ゴブ良よ・・・見せてやるがよいっ!!我らの愛の時間がどれだけ貴重なことなのかっ!!邪魔をする罪がどんなに重いことかわからせてやれぃっ!!」

 


「はいっ!!先生っ!!

 


・・・てめーら?覚悟はいいよな?英と姫を可愛がってたんだ・・・愛でる時間が減ってしまったじゃねぇかっ!?この落とし前どうつけてくれんだっ!?死んでも足りねぇぞおいっ!!」

 


「・・・何を言っている・・・我が名はゴブ韋っ!!その首貰い受け・・・」

 


ゴブ韋の体が無防備に倒れていく。刺客達は何か起きたのか理解できていない様子だ。遅れて強風が吹き荒れる。

 


「話す時間すらもったいねぇ。お前ら・・・もう既に死んでるぞ?」

 


ゴブ良が刺客達に背を向けると、11人の名だたるゴブリン達が倒れていく。またもや刺客達に向かって強い風が吹いている。刺客達の眉間と心臓には綺麗に穴が空いていた。これは初見殺しのゴブ良の必殺技。

 


風のマナ使いであるゴブ良は射線上の周囲を風で覆っている。その風で空気を急速に吸引。射線上には真空状態が出来上がる。

 


今度は射線上に吸引した空気に風のマナをのせてすべて一気に放出。すると射線上を風の弾丸が通り抜ける。

 


真空を伝っていく風の弾丸。真空波。

 


これがゴブ良の得意技である。普通に風のマナの塊を弾丸としてぶつけるよりも遥かに速さも威力も高い。

 


マナの操作速度も見違えたなぁ。そして被害が出ないように射線の角度も計算し尽くされている。弟子の成長を見るのはいいものだ。ゴブ美がその技を見て反応しているな。銃使いとして学ぶところもあるだろう。相方が止まってる時は代わりにオレが頑張らないとな。

 


「あぁ・・・そうだ。殺されたくなかったら伝えておけっ!夜のゴブ羽軍に戦を仕掛けるならばそれ相応の覚悟をしておけ。見てみろ?もう生き残りはお前達だけだ。死体の山を作ってやるからいくらでもかかってこい。このゴブ良が相手してやる。さっさと消えろやボケナスどもっ!!」

 


ゴブ良が風のマナを使い、各国の方向へと特大ホームランを3発叩き込む。

 


「そうだっ!策っちに瑜ーちゃん。場所貸してあげるから一緒に地鳴り起こしちゃうっ?ここならいくら大声を出しても大丈夫だよ。みんなそれぞれ愛し合ってるからさ」

 


「それはホントかっ!?」

「まことですかっ!?」

 


「よぅーしっ・・・敵は去ったっ!!みな励めいっ!!」

 


ゴブ羽が咆哮を上げる。するとゴブ策、ゴブ瑜とゴブ羽軍一同は行軍速度の数百倍の速さで自身のゲルへと戻っていった。

 


「ゴブ美っ!!やっぱり2人きりでするのが1番だな。少し恥ずかしがってるのもいいけど乱れてるゴブ美が1番可愛いっ!ゴブ美愛してるっ!!」

 


「ゴブロリもっとぉぉぉぉっ!!あぁん・・・好きぃぃぃっ!!」

 


ゴブ羽軍陣営には地鳴りの震源地が新たに1つ増えていた。

 


「策よっ!!ここがいいのかっ!?」

 


「瑜ぅぅぅぅっ!!もっとくれぇぃっ!!」

 


「「えっ!?そっちなのっ!?」」

 


ゴブロリとゴブ美は仲良く突っ込んでいた。魏呉蜀のゴブ羽暗殺は失敗に終わる。そして三国の間で夜のゴブ羽軍だけは絶対に手を出してはいけないという暗黙の了解が誕生する。強さが数十倍に膨れ上がるためだ。

 


そしてその中心にいるのがゴブ良。夜戦の覇王ゴブ良の名もまた星下に轟くこととなる。