闇と光 第155話 変態祈祷師
ゴブ羽に追撃の手が迫る。先に抜け出してきたゴブ淵がどんどん距離を縮めてくる。ゴブ淵の弓の射程範囲に入ってしまったようだ。矢が次々に射られてくる。
ゴブ美が銃で応戦。多乗命唱でのフルパワーでようやく相殺することができている。既に多界命唱の制限時間は過ぎていた。
ゴブ淵との距離が500メートルまで詰まる。その時ゴブ淵が突然落馬した。
「兄上っ!!早くこちらへっ!!」
ゴブ良である。遠距離真空波を放っていたのだ。さらにゴブ蔵率いる黑兎馬部隊、黑州兵もゴブ羽を覆い隠すように前に進軍している。
「・・・機を逸したか」
「ゴブ遼よ。ここは退くしかあるまい・・・もう日が沈む。夜戦の覇王相手では分が悪い。寡兵で勝てる相手ではないな」
ゴブ良の増援を確認し、退却していく魏軍。この日の闘いで両軍ともに将を失っていた。しかし層の厚さでいえばゴブ羽軍の損害の方が大きい。
ゴブ羽は涙を流していた。己のせいで仲間を失ってしまったことに・・・ゴブ羽の8人の妻達がゴブ羽を叱責し、そして慰める。傷ついた心を癒せるのは妻達しかいないのである。
ゴブ羽という強力な援軍を得たものの、戦力の低下が大きい。ゴブ良の指示をよく聞き、連携した動きで何とか盛り返すゴブ羽軍。しかし着実に兵力は削られていった。
ゴブ羽合流から1週間・・・兵力は両者ともに減っていた。ゴブ羽軍20億。魏軍40億。魏軍は将を失ったことにより将を温存してきたのである。その結果一般兵の削り合いに戦況は変わっていた。そんな中ゴブ蔵が騎乗したまま本陣に到着する。
「ご報告でやんすっ!!ゴブ卓自ら兵を率いて出陣。その数40億。ゴブ布も従軍してるでござる。さらにゴブ布自ら練兵したとされていた真紅の精鋭部隊500騎も従軍している模様。実力は未知数ですが警戒が必要でありんすっ!!まもなく敵軍に合流完了」
「半分まで減らしたかと思えば元通りですか・・・こちらの兵は20億。最初より状況が悪いですね。しかもさらに敵軍が強化されたとなると・・・退却戦を仕掛けるしかないですかね・・・」
「ゴブ良がそう言うならばオレは構わん。蜀との戦のように拠点を放棄しながら撤退するか?」
ゴブ羽は自身を生き長らえさせるために犠牲となった仲間達の哀しみを乗り越え成長していた。もはや脳筋と呼ばれるゴブ羽ではない。王への階段を登っていくゴブ羽。ゴブ羽軍はこの状況を跳ね返すことはできるのだろうか?
「緊急につき失礼致しますっ!!」
「その翼は・・・?ゴブ策軍の伝令か?とりあえず申せっ!!」
「ゴブ策軍11億。4時間後にこちらに到着致します。さらにゴブロリ殿より伝言。ご飯11億人分準備しといて。でありますっ!!」
「はいはい・・・じゃあ私も手伝ってくるわ。・・・ったく伝言でご飯準備しろってどういう状況なのよっ!!わざわざ伝えるほどのことかしら・・・まぁ・・・久しぶりのゴブロリだしぃ・・・気合いれちゃうけどね」
「「「「「先生っ!!私達も手伝いますっ!!」」」」」
ゴブ美とゴブ妻達は調理場に急行する。料理部隊とともに彼女達の戦場は厨房へと変わってゆく。
「おっ!先生が無事合流して呉とゴブ備を叩き潰したようだな。これでゴブ羽軍揃い踏みか。しかし合わせても31億・・・兵力差は倍以上か・・・ゴブ良・・・なにか手はあるか?」
「・・・」
「ゴブ良?」
ゴブ良はゴブロリの伝言について考えていた。まもなく日は暮れようとしている。普通なら夜営をするはずである。ましてゴブ羽軍は夜営を重んじる・・・それをしないということは休息をとらずに向かってきている?
しかし食事は行軍しながらでもとれるはずである。本来であればゴブ羽軍は調理したものを食べる・・・急いでいたとしても・・・加工品で代用しているはずだ。それをわざわざ準備しろとはいったい・・・。
何故急いでいる?私の力不足は認めよう。救援するために急いでいる・・・それもある。だがそれならばご飯の準備などはついてからでもよいはずだ・・・。
・・・!いや・・・まさか・・・しかし先生ならあり得る。それならば私の取るべき行動はただ1つ・・・策を練ることだっ!!
「兄上っ!!全軍に通達。今夜は早めに夜営に入ります。敵はどうせ攻めてきません。ただ早めの夜営だからといって愛せる時間は短くなるかもしれない。そして今宵の夜営を最後に禁愛令を出してください。解除時期は追って通達しますっ!!」
「えっ!?オレもゴブ良も相手いないじゃん!?どうすんだよっ!?」
「真面目に休息してください・・・おそらく先生は深夜から明朝の間に魏軍に戦を仕掛けるはずです」
「・・・わかった。ならば言う通りに休ませてもらう」
この日ゴブ羽軍に禁愛令が発令される。ゴブ羽軍の古株達は異常事態であることに気づく。なぜなら1度も発令されたことがなかったからだ。しかしそんなことよりもしばらく味わえない妻や彼女達と愛し合うことの方が重要であった。鬼気迫る空気がゴブ羽軍の中に流れる。
「ゴブ良様。愛天地人の精鋭部隊も到着した模様です。旧蜀軍残党狩り完了との由。彼らはどうしますか?」
「すぐに食事をとり休息させなさいっ!!休めるうちに休まなければこの先休めないかもしれませんよ」
「ゴブ良様っ!!ゴブ策軍が着陣しましたっ!!」
「すぐに行きますっ!!」
ゴブ良は慌ててゴブ策軍の元へと急いだ。ゴブ策軍が何かを建設し始めている。
「これはいったい・・・」
「おう良兄っ!!生きてまた会えたなっ!!」
熱い抱擁を交わすゴブ良、ゴブ信。
「ゴブ良っ!!ゴブ羽を呼んでこい・・・軍議だっ!!
あっ・・・ゴブ信は主役だから休んでていいぞ。それと建設班以外の飛行部隊にも休息をとらせろっ!!」
「えっ!?悪いなぁ・・・でもなんて言ったって主役だからなぁ。ずっとお預けだったから燃え上がるぜぇぇぇぇっ!!華と異をたっぷり可愛がってくる」
ゴブ信は行軍の数倍の速さで消えていった。
「先生っ!!よくぞご無事でっ!!策っちに瑜ーちゃんも・・・ゴブ史慈殿も・・・もう1人たりとも仲間は失いたくない・・・」
ん?ゴブ羽のやつ・・・雰囲気が変わったか?漢としての風格が上がった気がする。・・・ゴブ超の姿がない。獣魔達もいないか・・・ゴブ美のマナは感じるな。まぁ最悪の事態にならずによかったと思うしかないな。
「先生。現状で魏軍は密集陣形。打ち崩すとしたら火計しかありませんが・・・この赤壁・・・つねに風向きは北西からの逆風です。私の頭では打開策は見出せませんでした・・・申し訳ありません」
ゴブ良の目から大粒の涙が流れている。自身に力がないせいで仲間を死なせてしまった。そして戦況も初期より悪いものにしてしまった。ゴブ良は後悔と自責の念に押し潰されそうになっている。
「いや・・・よく持ち堪えたっ!!仲間が死んだのはゴブ羽のせいである。どうせ調子に乗って突っ込んだのがいけないんだろ?敵の戦力を見誤った王の失態だ・・・まっ!本人が1番よくわかってるようだがなっ!
ゴブ羽っ!言いたいことはあるかっ!?」
「オレのせいでゴブ超達は命を落とした・・・オレにできることは一刻も早くこの星を平定することだっ!!彼らの無念はこのオレがすべて背負って生きて行くっ!!」
「ゴクククッ・・・なら言うことはないなっ!!死んだ者への悲しみを抱くのは愛が足りていない。死という安寧の地へ旅立った仲間を祝福し・・・その者達の思いをすべて背負い成し遂げる・・・それが死者への愛だ。
そしてゴブ良っ!!オレも同意見だっ!!火攻めしかないと思う。兵力が多過ぎて密集し過ぎているからな。よって火計を行う」
「しかし・・・火を放てば我が陣に向かって侵攻してきますよ?」
「ゴフッフッフー!そのためのあれだっ!!」
ゴブロリの指差した先には巨大な祈祷台が出来上がっていた。
「・・・?何をなさるので?」
「天に向かってお祈りするんだよ。東南の風を起こしてくださいってな。
ゴブガードっ!!ゴブ蔵っ!!オレの祈祷を魏軍に盛大に広めろっ!!敵首脳陣の耳にちゃんと入るようにな?
それからゴブ羽、ゴブ良、ゴブ策はただちにマナを研いでおけっ!!そして内に貯めておけ・・・扱き使うから覚悟しろよ」
「御意っ!!・・・風向きを変えるのには無茶がある・・・先生には何か別の狙いがあるのか?ぶつぶつ・・・」
「任せろロリ先っ!!フルパワーを見せてやるぜっ!!」
「おうっ!!ところで先生・・・天に向かって祈ったとして風向き変わるのか?」
「ゴハハハッ!それは天のみぞ知るってことだな。ところでゴブ羽よ。本気で扱き使うからできなかったらお仕置きな?」
「げっ・・・真面目に集中してくるわ・・・」
ゴブロリは以前ゴブ角になりすました時に着ていた怪しげな導師服を身に纏う。そして祈祷台へと上がっていく。その手には大幣が・・・それもなぜか両手に持っている。大幣とは神主や巫女が使う木に紙のついたあれである。ゴブ美用に大量に持ち込んでいた夜の衣替えの小道具がここにきて役に立ったのか・・・?
「はぁぁぁっ・・・東さんと南さんこんばんは。そっちから風をビューンってきてください!南無阿弥風さんこっちにおいでよぉぉぉっ!!」
ゴブロリは意味のわからない言葉を発していた。そして祈祷台を縦横無尽に駆け回りながら、大幣二刀流でマラカスのようにシャカシャカと振り回している。
側から見れば走り回る変質者にしか見えなかった。その光景を見たゴブ羽軍の将達は絶句したという・・・そして全員が顔を見合わせる。
「「「「「なにやってんのっ!?あの人っ!?」」」」」
しかし悲痛なる叫びも変質者には届かない。
「風さんっ!!ていっ!!こっちからそいっ!!」
この光景をゴブ美も見ていた。
「久しぶりに会えるっていうのに遊んでるし・・・ホントふざけるの好きよね。テーマは変態祈祷師かな?いやゴブロリがやってるから変態貴公子ね。ふふっ・・・遊び終わったら食べると思うから愛情たっぷりのゴブロリ用のご飯いっぱい用意しておかなくちゃっね」
変態の嫁であるゴブ美・・・旦那への耐性もまた変態レベルなのであった。