闇と光 第156話 蒼き赤壁の地

変態貴公子は相変わらず華麗にシャカシャカと舞っている。その様子を魏軍の斥候兵が見ていた。

 


「伝令っ!!ゴブ羽軍の影の総大将ゴブロリご乱心っ!!風向きを変えるため意味のわからぬ言葉を発し祈祷しておりますっ!!」

 


「ゴハハハッ!!頭でも逝かれてしまったのか?悪逆非道の申し子・・・神算鬼謀の名宰相ゴブロリといえどもこの状況は覆せぬと見た。我が軍の威光に屈してよもや祈祷とな・・・笑いが止まらぬのぉゴブ操よ」

 


「ゴクククッ・・・このような奇行に走るとは・・・買ってはいたのだがな・・・ゴブロリも地に落ちましたな。赤壁の風は常に北西の風・・・祈祷したところでどうにもならぬよ。

 


風向きを変えるということは火計を狙っていますな。火計が成功したら我が軍は大打撃・・・しかしそれは万に一つもない。では夜襲もなさそうなので失礼しますゴブ卓様」

 


1人になったゴブ操は赤壁の空を眺めていた。空には蒼き月が見える。

 


「・・・風向きを変えるのは不可能だよ。しかし可能性は0ではない。だから期待してるよゴブロリ・・・我と同じ匂いのする者よ・・・おそらく別の狙いがあるのであろう。かの月のごとき蒼き炎で軍勢を潰してみせよ」

 


魏軍の中でゴブロリの評価は高かった。ゴブ羽軍の中で最重要危険ゴブリンとされている。すべてはゴブ操の発言によるものであった。ゴブ操は見ていた・・・ゴブ紹を盟主へと推挙の声を上げたのがゴブロリであることを・・・。

 


さらに様々な快進撃もすべてがゴブロリによるものである。これがゴブ操の推察なのだ。ゴブロリは影に徹していると思い込んでいるがその実、情報遮断がガバガバだった・・・わかるものには知られている。そして蜀ついで呉の滅亡も魏軍の耳に入っていた。合流してくるであろうゴブロリの動きを最も魏軍は警戒していたのである。ゴブ卓が出陣したのもこのためであったのだ。

 


そのゴブロリは未だに祈祷を続けていた。地鳴りの鳴り響く中、1人のゴブリンがゴブ羽のゲルを訪れる。中には数名のゴブリンがいた。

 


「ゴブ羽よ。ゴブ馬俑で10億の兵を出しておいてくれ。敵に悟られたくない」

 


「・・・相変わらず無茶を言うな先生。任せてくれ。でもそこまでのクォリティーは出せないぞ?」

 


「どうせ敵陣からは見えない。数さえあれば問題ない。ゴブ策・・・ゴブ良・・・手筈通りに」

 


「「御意っ!!」」

 


「ゴブ瑜・・・この戦の指揮はお前がとるしかない。任せたぞ?」

 


「お任せくださいっ!!ゴブ卓軍に必ずや大打撃をっ!!」

 


「ゴブ史慈・・・まともに動ける将はお前しかいない。その武勇期待しているぞ?」

 


「その責・・・任されましたぞっ!!」

 


「ゴブ信・・・それでは行こうか。敵陣のど真ん中へっ!!」

 


「ま、ま、まかせろっ!!」

 


「緊張しなくていい・・・普通にしてれば勝手に成功する」

 


「普通でいいのっ!?なんだぁ・・・気を張って損したぜ」

 


祈祷台にいるゴブロリはゴブロリゲンガー。旧蜀軍兵はゲルで寝ている。旧呉軍兵は遥か上空へと舞い上がる。黑州兵は地鳴りを鳴らすためゲルで愛し合っている。エリート黑州兵はゴブ瑜の指揮下へと入る。

 


深夜2時。ゴブ羽軍がその時・・・動き出した。

 


一艘の小舟が赤壁の海に浮かんでいる。白旗を掲げ2人のゴブリンが乗っていた。1人は拘束されている。もう1人は舟を魏軍の舟へと舵を取り1人で舟を漕いでいる。

 


「伝令っ!!夜分に失礼致しますっ!!ゴブ羽軍の陣より白旗を掲げた小舟が一艘近づいております。偵察兵の報告によりますと乗っているゴブリンは2名。

 


拘束されているのはゴブロリ。そして舟を漕いでいるのは歴戦の猛将ゴブ信であります。なおゴブ羽軍の兵士に動きはまったくありません。相変わらず地鳴りを鳴らしております」

 


「・・・全将兵を集めよっ!!至急軍議を開くっ!!」

 


ゴブ卓の号令により慌ただしく軍議が開かれる。最重要危険ゴブリンがこっちに向かってきている・・・それも拘束された状態で。軍議が進む中、ゴブ操とその配下10賢人。彼らの意見が採用されることになる。

 


いかにゴブロリ、ゴブ信といえどもたかが2人。全将兵の攻撃の前では何もできない。本陣へ招いて話を聞く。ゴブロリの奇行に耐えきれずにゴブ信が本当に投降してきた可能性すらある。

 


ゴブ信が軍門に降るというならば魏軍は喜んで受け入れるであろう。それだけゴブ信の武勇は優れている。それに本陣へと招いてしまえばゴブ信といえども逃さず討ち取れる。故に2人を招き入れる結論に達した。

 


着岸した小舟より2人が現れた。ゴブ信によってゴブロリが引きずられながら本陣へと向かっている。

 


「てめぇこの腐れ脳筋っ!!何しやがんだっ!?祈祷しているところをいきなり拉致しやがって何のつもりだっ!?」

 


「・・・」

 


騒ぐゴブロリ。そして無言のゴブ信。魏軍の兵に案内されゴブ卓の前に連れて来られる2人。

 


「ゴクククッ!!よくぞ参った・・・ゴブ信そして・・・ゴブロリよっ!!」

 


「あんっ!?別に来たつもりはねぇよっ!!このむっつりゴブ信が勝手に連れてきたんだっつーのっ!もうちょっとで風向き変わるとこだったのに何してくれてんだこの脳筋っ!!」

 


「・・・」

 


え・・・何こいつ・・・がちで緊張して話せてねぇ・・・まぁしょうがないから何とかしてやるよ。

 


「ゴハハハッ!!久し振りであるな・・・ゴブロリよ。ゴブ卓様との戦以来であるか?祈祷などという奇行に大方・・・愛想を尽かされたのではないのか?よもや祈祷などで本当に風向きを変えれるなどとは思っているまいっ!?」

 


「おうおうっ!!そこにいるのは民達の裏切り者のゴブ操さんじゃありませんか・・・我が祈祷に不可能はないっ!!私には星がついておるっ!!

 


・・・でもう1人の裏切り者は何で黙ってんだっ!?・・・はん?オレの祈祷の意味がわからなかった?敗戦濃厚だったし寝返った方が未来がある?それにオレへの日頃の怨みだぁ?

 


人に通訳させておいて何言ってんだこのむっつり野郎っ!!」

 


ゴブ信の体を体当たりで吹き飛ばすゴブロリ。起き上がったゴブ信がゴブロリの体を投げ飛ばす。

 


「いい加減にしてくれっ!!先生にはもう付き合ってられないっ!!こっちにいた方が兄者と本気の喧嘩もできるし楽しいだろうがよっ!!先生はそのための手土産だよっ!!」

 


やれやれ・・・ようやく話し出したか。体動かさないとダメなのかね・・・脳筋というやつらは・・・。

 


「ってぇなコラっ!!先生に暴力振るうと退学になっちまうんだぞっ!?まぁ殴られる無能な教師が悪いんだけどな。

 


ゴブ操っ!!答えを教えてやろうっ!!起こすものなんだよっ!!

 


さぁ答え教えてやったから黙って見てろよっ!!どうせオレは殺されるっ!!だが・・・その出来の悪い弟子だけは許せねぇ・・・この有能なる先生ことゴブロリが・・・仲間を裏切るという恥ずべき行為を正してくれるわっ!!

 


てめぇも道連れだゴブ信っ!!かかってこいやっ!!」

 


「・・・ゴブ卓様っ!!我が師の首を魏軍最初の武功としてお届けしましょうぞっ!!」

 


「・・・起こすものとはいったいどのようにして・・・」

 


「ゴブ操よ。そのような戯言に耳を貸すではない。お前の評価は間違っておったのぉ・・・所詮ゴブロリはその程度のゴブリンよ。

 


ゴブ信っ!!その武勇・・・存分に見せてみよっ!!ゴブロリの首をとれぃっ!!」

 


ゴブロリに向かって黑槍を突き出すゴブ信。ゴブロリは体中の骨をポキポキと鳴らしている。ゴブロリの手の中に闇が生じ、双鞭刀が転移してきた。2人が見つめ合う。

 


「命唱。我はゴブ信。億夫不当の豪傑なり」

 


「命唱。我はゴブロリ。妖精の星の使徒なり」

 


2人のマナが急速に高まっていく。2人の武器が激突する。その瞬間2人を中心に風が吹き荒れ、バトルフィールドが形成されていく。2人の斬撃の衝撃波が遥か上空へと舞い上がる。2人とも絶理命唱状態になったのだ。合図を受けゴブ羽軍が動き出す。

 


デキウスの力によりゴブリン同士ではバトルフィールドは発生しない。ゴブリン達はバトルフィールドを知らないため、思考の裏をつくことに成功する。

 


「策っ!!今ですっ!!」

 


「おぅっ!!やってやんぜぇっ!!」

 


ゴブ策から赤壁の地を呑み込んでしまうほどの巨大な蒼炎が放出される。

 


「今が好機っ!!ゴブ羽軍全軍出陣せよっ!!敵の退路を断つのですっ!!」

 


さらにゴブ良より強烈な風が放出される。ゴブ策の炎が追い風を受け加速した。巨大な蒼炎がバトルフィールドへ向かって物凄い勢いで吸い込まれていく。敵の船を次々に焼き払う。魏軍の陣営に阿鼻叫喚の悲鳴がこだましていた。

 


電光石火の連携。瞬く間に魏軍の陣営は炎に包まれていく。前方の海に浮かぶ魏軍の船艇すべてに火が回る。

 


「・・・っ!ゴブ卓様っ!!ご退却をっ!!

 


5大将っ!!殿は任せたぞっ!!

 


3将軍はゴブ卓様の退路を確保するのだっ!!」

 


迫り来る炎を見てゴブ操が直ちに指示を飛ばす。その指示を受けゴブ卓がハンドシグナルのみで軍勢を指揮する。後方へと退却していくゴブ卓。しかしその進行方向より突如として飛来するものがあった。

 


それは旧蜀軍兵の姿。しかし彼らは寝ている。ゲルで就寝中のところをゴブ馬俑と入れ替えたのだ。ゴブロリが捌界状態となり予めゴブ卓軍の遥か後方へと転移させていた。その数10億。それを悟られないためにゴブ羽は大量のマナを使い10億もの兵を出現させている。

 


旧蜀軍兵がゴブ卓軍に着弾すると同時に爆発が巻き起こる。ゴブロリが以前仕込んでおいた体内のマナを暴発させ、さらにそこから蒼炎を生成。絶理命唱の制限時間は1分。その間にすべてのゴブリンを転移させなければならない。さながらゴブリン爆弾のゲリラ豪雨。瞬く間に炎により退路が断たれてゆく。

 


「恐怖によって付き従ったものは・・・より大きな恐怖を経験すればまた簡単に裏切る。故に・・・ゴブ羽軍には必要ない。使えるうちにその命・・・星平定のために有効活用してやるよ・・・ゴヒャハハハッ!!

 


ゴブ信っ!!将軍の1人くらいぶっ潰してこいよっ!!てめぇセリフ忘れたんだから首とるまで戻ってくるの禁止なっ!!」

 


「ゔっ・・・それは忘れてくれよ先生。けど・・・そっちの方が簡単だぜっ!!やってやんよぉっ!!」

 


この日・・・赤壁の地が蒼く染まった。そして猛将ゴブ信の追撃がゴブ卓軍に迫る。さらにゴブロリはこの日・・・すべての命唱を使い切ってしまった。果たしてこの先命唱なしで乗り切ることができるのであろうか。