闇と光 第164話 新たなる皇帝
体から血を流しているゴブ羽・ゴブ良。ゴブ遼の猛攻。それを止めるのは容易いことではなかった。今のゴブ遼はフルパワーのハイロリやリュカウスのマナの最大量すら軽々と上回っている。
「龍水閃っ!!」
2つの槍の突撃がゴブ遼を襲う。しかしゴブ遼はそれを軽く薙ぎ払った。
「2人とも何楽しんでんだ?このオレも混ぜてくれよっ!!」
ゴブ信も対ゴブ遼戦に加わる。ゴブ羽3兄弟の揃い踏みだ。3人の連携により先ほどまでと打って変わり互角に渡り合う。
妖と魏の兵達の数が次第に減っていく。主戦場は残り2ヶ所。ゴブ操とゴブ遼のいる戦場である。
「なぜお主は倒れぬのだっ!?マナ量の差はこれほどまでにある・・・何故貴様は生きているっ!?」
「オレは堪え忍ぶことに慣れている。オレの師は化け物だ。格上との闘いは嫌という程慣れてんだよっ!!」
この星の闘いを通してゴブロリのマナ量はさらに大きくなっていた。闘気状態の力量も上がっているため、味方と連携しながらなんとか持ち堪えている。しかしゴブガードや隊長達も傷だらけで限界は近い。空もうっすらと明るみ、長い夜も終わりを告げようとしている。
その頃ゴブ遼へさらなる攻撃が襲いかかっていた。燃え盛る炎・・・ゴブ策である。4対1・・・ゴブ遼は次第に劣勢に追い込まれていく。
ゴブ策の高速の連撃。ゴブ遼も負けじと高速で打ち合う。そこへ体の動きを阻害するかのように真空波が飛来する。たまらずゴブ遼は空中へと逃れる。それを待っていたかのようにゴブ信の渾身の一撃がゴブ遼を襲う。
黑水波。下邳城で放たれたものよりも激しくうなっている。深緑の水龍がきらきらと朝日に照らされながらゴブ遼を上空へと浮上させていく。
「「「決めろっ!!我らが王よっ!!」」」
ゴブ遼は上空に気配を感じる。朝日の光に重なって何かが迫ってきている。
「くらえぃっ!!これが王の一撃ぞっ!!ゴブリンクラッシャァァァァッ!!」
ゴブ羽の斧槍がゴブ遼の体に突き刺さる。水龍と王の一撃の衝撃をその身で受けるゴブ遼。王の一撃は水龍をも斬り裂きゴブ遼の体を星の大地へと叩きつける。
星下最強の武ゴブ遼。火のゴブ策・・・風のゴブ良・・・水のゴブ信・・・地のゴブ羽。4人の連携により散ることとなる。闘いが終わった後の4人の体はぼろぼろであった。
「ゴブロリっ!!貴様で最後であるっ!!死ねぃっ!!」
ゴブガード、愛天地人の隊長達は既に地に伏している。ぼろぼろになりながらもゴブロリはたった1人・・・紙一重で攻撃を避け続けていた。
かつて清十郎の弟子となった頃のように淡々と攻撃を予測し避けている。読みが外れたならばゴブロリの命はないだろう。
ゴブロリの足がもつれる。ゴブ操の攻撃がゴブロリの体へと突き刺さる。体が闇へと変わる・・・その虚をつき背後から1人のゴブリンがゴブ操の体を貫いていた。
「はぁ・・・はぁ・・・よくやった・・・助かったぜ・・・ゴブ蔵っ!!」
スタイリッシュなその姿・・・アサシンゴブリンゴブ蔵。力が足りなくても勇敢に将に挑む漢・・・彼はまさに星の英雄となるまで成長した。
ゴブ蔵も対ゴブ操戦に参加していたのだ。必ず隙を作るから逃すな。師からのたった一言の言葉・・・味方が倒れようとも師の言葉を信じ、ゴブ蔵は気配を殺し機を伺っていたのだ。
「ゴブ蔵・・・最後の教えだ。敵将を討ち取った時は忍といえども目立ってもいいんだぜ?」
「ゴブ羽軍が忍っ!!ゴブ蔵っ!!皇帝ゴブ操討ち取ったりぃぃぃぃぃっ!!!!」
ゴブ蔵の勝ち名乗りが戦場に轟く。その声はゴブ遼を倒した彼らの元にも届いていた。
「兄上っ!」
「兄者っ!」
「羽ーくんっ!」
「ゴブ羽軍が王っ!!ゴブ羽っ!!敵将ゴブ遼討ち取ったりぃぃぃぃっ!!!
我こそが妖精の星の皇帝であるっ!!この戦っ・・・妖軍の勝利だぁぁぁぁぁっ!!」
先ほどよりも大きな勝鬨が戦場にこだまする。この戦の結果はその日のうちに星中を駆け巡る。
戦の炎に包まれていた妖精の星・・・この日妖軍の手により平定されることとなる。ゴブ羽が王への階段を登りきる。妖精の星に新たな王・・・皇帝ゴブ羽が誕生した。
ぼろぼろとなった妖軍。残った兵力はわずか2800。旗揚げ時と変わらぬ兵力まで戻ってしまった。この日ばかりは盛大に宴を開く。残った歴戦の兵達は勝利をそして仲間達の死という旅立ちを祝う。
ゴブロリの元へあるメッセージが届く。それはかつて第2の街で見たものと同じであった。
妖精の国の制圧おめでとう。君の活躍により再びこの星の時は動き出した。第2エリアクリアと言いたいところだけど・・・クリア後には新たな物語が付き物だろう?さぁ始めよう・・・
エクストラシナリオ妖精の星の未来
君の選択がこの星の未来を決定することになる。慎重に選びたまえ。
変態神としては残念な結果だったよ。クリア方法はもっとあったのになぁ・・・まぁ正攻法といったところだったね。共に闘った仲間達。彼らが味方となるか敵となるかは君次第だからね♡
あっ・・・それとチャンスは1度きりだ。君が死んだらこのシナリオは終わりだから気をつけてね。
遊戯神デキウス
終わりじゃねぇのかよ・・・っていうか正攻法だと・・・?他に方法があったのかよ。元ゲーマーとしては聞き捨てならないセリフだな。後で問い詰めてやろう。
それはそうと・・・星の未来?オレの選択がそれを決定する?どういう意味だ・・・さらっと時を動かすとか言ってるし、やっぱりデキウス・・・かなりの力を秘めてやがるな。
どうやるのか想像すらつかん。時を止めることができたら女の子の時を止めて好き放題できるじゃねぇか・・・やはり変態神に相応しい神業を習得している・・・眷属続けてたらいつか教えてくれないかな・・・。
ゴブ羽の皇帝即位式が終わる。ゴブリン星の住人達へのお披露目である即位パレードもつつがなく終了した。明日ゴブリン星全土への政治方針を演説することになっている。現在はそのための会議を妖軍で行なっているところだ。そこでゴブロリは聞き捨てならないことを耳にすることとなる。
「引き続き鎖星は継続ですね。他種族が悪いものばかりではありませんが交流を再開するのはリスクが高過ぎます」
「ゴブ良の意見に賛同する。皆の者異議はないな?」
「異議ありっ!!なぜ交流を再開しないっ!?この星には開星を望むゴブリンだって少なからず存在しているっ!!なぜ新たな世界を見ようとしないのだっ!?」
「先生・・・あなたには感謝している。感謝してもしきれないほどだ。あなたが妖精族でないこともみんな知っている。先生のようなものもいる・・・しかしすべてが先生のような他種族ではない。
特に他星の我らが同胞を殺め続けるあの種族だけは絶対に許してはならないんだ・・・戦争を仕掛けることはあるかもしれないが交流はあり得ない。これは妖精族の問題だ・・・先生といえども譲ることはできない」
「ならば・・・オレの本当の姿を教えてやろう。オレの名はハイロリ。お前らの忌み嫌う人族だっ!!オレが橋渡しとなってやるっ!!だからっ・・・」
ゴブリンスーツを脱ぎ捨てるハイロリ。しかしハイロリの発言はゴブ羽により遮られることになる。
「人族だとっ!?オレ達は人族の手を借りていたというのか・・・この者らを牢へと繋げっ!!」
「「「「「お待ちくださいっ!!ゴブ羽様っ!!」」」」」
同席していたゴブ妻達がハイロリと美貴の投獄を庇おうとする。
「そなたらは何よりも愛している・・・しかしこればかりは致し方がないこと・・・わかってくれるだろう?」
「ゴブ羽様っ!!これをご覧くださいっ!!今この権利を行使させていただきますっ!!」
「「・・・」」
ハイロリとゴブ羽は黙ってそれを見つめている。ゴブ蝉が透明な袋に入ったあるものを取り出す。それはハイロリ、ゴブ羽ともに見知っているものであった。ゴブ蝉にとっての思い出・・・そして大事なもの。
ゴブロリシール。かつてハイロリが淑女通信の課題の達成の印としてあげていたものであった。彼女は100もの課題をすべてを成し遂げた。ゴブロリシールは全部で100枚。ゴブロリシールを使用することによりご褒美を得ることができる。ゴブ羽は婚姻後、ゴブ蝉からこのシールの存在を聞いていた。
消費枚数ごとに様々な魅力的な特典を用意した。しかしそれでもゴブ蝉はこれを使用することがなかった。旗揚げ当時・・・特典を得ようとしないゴブ蝉を見てハイロリとゴブ羽はあることを決めていたのだ。
「なぁ?ゴブ羽よ。ゴブ蝉が一向にゴブロリシールの特典を使いたがらない・・・そこでだ・・・100枚すべて消費することでひとつだけゴブ羽軍総出で可能な限りの願いを叶えるというのはどうだ?」
「ゴハハハッ!そりゃあいいな先生。ゴブ蝉こそがゴブ羽軍の真の女帝だな」
「ふっ・・・王の妻だ。元より女帝になる予定だしそれでいいだろうよ」
「でしたらどうしても叶えたいことができるまで使用するのはよしておきますね。私としては何にも望むことはないと思うのですけれどね」
3人は笑顔で笑い合っていた。かつて交わした言葉。ハイロリとゴブ羽の中に記憶が蘇る。これはゴブ羽軍の古株達みんなが知っている事実。
「開星を宣言したいところですが・・・私はゴブ羽様を愛しております。貴方様の決定を覆すことなど私にはできかねます・・・お力になれずに申し訳ありません・・・ですがハイロリ様と美貴様を解放してください。このお方達のおかげで今の私達があるのですから・・・ゴブ羽様お願い申し上げます」
「・・・帝の勅令が発動された。両名は解放するものとする。
先生・・・達者でな・・・今までありがとう」
ハイロリは何も言わずに背を向けこの場から去っていった。美貴はその後を慌ててついて行っている。ゴブ妻達・・・ゴブ良、ゴブ信の目からは涙が流れていた。そしてゴブ羽の目からも一筋の雫が溢れ落ちていた。
ゴブ蝉の一声により助けられた2人。ともに闘った仲間。かつての思い出が蘇ってくる。しかし彼らの道はここで分かたれることとなった。
ハイロリと美貴の席が空席のまま会議は進んでゆく。