闇と光 第166話 黑船来航

ゴブ羽は首都を再び洛陽に戻した。焼かれた街や城もかつての栄華を取り戻している。そんな洛陽の港に漆黑の船が来航する。

 


港は厳戒態勢。兵の姿がある。謎の黑船により妖国の巡視船が次々に沈没させられているからだ。民達は何が起こるのかと野次馬となり、港に殺到している。

 


「我は妖国大将軍ゴブ信っ!!そちらの目的はなんだっ!?」

 


「開星シナサーイッ!!」

 


どこからともなく声がする。しかし船上には誰の姿もない。

 


「・・・開星?妖精の星には鉄の掟があるっ!!それはできぬ相談であるっ!!」

 


「ならば・・・このゴブロリが皇帝軍に対し反乱を宣言するっ!!」

 


現れたのはゴブリンスーツを着たゴブロリであった。港に集まっていた民達がざわざわとし出す。民達も不思議でたまらなかったのだ。ゴブ羽三兄弟の師であり、皇帝軍を星平定へと導いた功労者ゴブロリ。彼の名が新皇帝軍の重役に名を連ねていなかったである。

 


民達の間では様々な憶測が飛び交っていた。病死説なども出ていた・・・そんなゴブロリが反乱を宣言し、民達の前に再び姿を現したのだ。民達の視線はゴブロリへと集まっていく。

 


ゴブロリはゴブリンスーツを脱ぎ捨てる。突如現れた人族の姿に民達は静まり返る。

 


「我が名はゴブロリっ!!真の名はハイロリであるっ!!みなの見た通り・・・オレは人族だっ!!しかし対等な立場で今日は要求しにきたっ!!

 


未来の人族の王が所望するっ!!この星を開星せよっ!!大将軍ゴブ信っ!!返答はいかにっ!?」

 


「・・・先生・・・なんで戻ってきたんだよ・・・。

 


要求の答えはノーであるっ!!最も我が同胞の命を奪った人族とは決して相入れることはないっ!!即刻この星より立ち去れぃっ!!立ち去るならば手荒な真似はしないとこの大将軍が誓おうっ!!」

 


「ならば宣戦布告させてもらうっ!!決戦場所は五丈原。日時は1週間後。我らが勝った暁には開星をしてもらうっ!!王にしかと伝えておけっ!!」

 


ゴブロリ改め人族ハイロリによる宣戦布告。民達は様々な事実により衝撃の嵐だった。皇帝の師が人族であり、さらに皇帝軍に戦を仕掛けるというのだ。再び民達はざわめき出す。ゴブ信は静かに目を閉じていた。しばらくした後、目を見開く。

 


「我らが王への叛逆と受け取った・・・1週間後と言わずこの場で散れぃっ!!人族の王よっ!!」

 


ゴブ信にも立場がある。ハイロリには感謝をしていた。たとえ人族であろうとも苦楽を共にした間柄。心の中では仲間だと思っている。だが皇帝に対しての堂々とした叛逆を民達の前では認めるわけにはいかなかった。ゴブ信は師ハイロリを討ち取る決意を固めたのだ。

 


ゴブ信の黑槍と翠槍がハイロリの眼前に迫る。茶色の閃光とともにゴブ信の体が吹き飛ばされる。そこから現れたのは赤いゴブリン。民達も知っているその姿。かつて星下無双と称された漢・・・ゴブ布の登場である。

 


「我が友に触れようならば我が許さぬっ!!我こそはゴブ布っ!!妖精の星最強の漢なりっ!!我は開星を要求するっ!!

 


人族の王ハイロリとともに反乱を起こすことをここに宣言するっ!!」

 


「我が友ゴブ布とともに反乱させてもらうっ!!仮にも皇帝軍・・・逃げも隠れもしないでくれるよなっ!?これは妖精族と人族の代表による共同声明っ!!我らは開星を要求するっ!!

 


妖精の星の民よっ!!ひとりひとりが我らの宣戦布告の証人であるっ!!我らの思い描いた開星という未来の行く末・・・しかと見届けよっ!!」

 


民達が様々な声を上げている。ハイロリとゴブ布の共闘。2人の知名度は抜群・・・民達はどちらが勝つのかという話題で持ちきりだった。何よりもかつて敵同士であった2人が種族を超え、手を取り合っている姿に心が揺れ動かされていたのである。

 


瓦礫の中で1人ゴブ信は俯いていた。ハイロリとゴブ布は堂々と去っていく。億夫不当の豪傑ゴブ信をたった一撃で吹き飛ばしたゴブ布の武勇はその日のうちに星中の民達に広まる。

 


民達の間でも意見は二分されてゆく。鎖星継続派と開星推進派。次第にこの星の未来を左右する決戦に民達の視線は釘付けとなる。

 


「ゴブ布はどうでしたか?ゴブ信?」

 


「・・・あれは化け物だ。以前のゴブ布とは比べ物にならない強さ・・・どうせ先生の仕業だろうよ」

 


「信くんがやられなければよかったのですがね・・・まぁ信くんがそう言うならば厳しい闘いになりそうです」

 


「ましてやあのロリ先が敵・・・一筋縄ではいかねぇよな」

 


「しかし警戒するのはゴブ布のみでよい。先生には力は残されていない・・・よもや実力行使に出てくるとは思わなかったが・・・ゴブ蔵・・・何か情報は掴めたか?」

 


「申し訳ありません皇帝陛下・・・おそらく我が師による妨害工作・・・何の情報も掴めておりません」

 


「ゴブ布をいかにして抑えるか・・・そして彼をいち早く討ち取るしかありませんね。彼がいては我らの考えた策も通りが悪い・・・真紅の薔薇隊もいると思った方がよいかもしれません。どのくらいの兵力があるのかすらまったく想像がつきませんね・・・」

 


「・・・案外先生も無策かもしれませんよ?この猛将揃いの皇帝軍を打ち崩すのは至難の技です。そういう時はどうなるか皆さん知ってますね?

 


ゴブ羽軍得意の即興・・・つまり無策。その場で臨機応変に対応する。そもそも相手の兵力がわからないのです・・・対応しようがありません。最重要ターゲットはハイロリ。反乱軍の頭脳を奪わなければゴブ布を討ち取ることは叶わないでしょう」

 


「ならば・・・ゴブ布を抑える役目は将兵が担当とする。先生はゴブ蔵・・・お前が討てっ!!」

 


「御意」

 


皇帝軍の軍議が進む。狙いはハイロリの頭脳を打ち砕くこと。あとはじわじわと策や物量でゴブ布を疲弊させ、皇帝軍総出で討ち取る。皇帝軍の軍議は決戦の日時まで毎日続けられた。

 


一方反乱軍はあるものを製造していた。そして星中の村や街へと設置している。これは決戦の様子を投影する装置。たとえ敗れたとしても民達の心に届けば開星の目的は達成することができる。

 


民達をすべてを観戦者にしたてあげようというのだ。仮に勝っても皇帝軍が有耶無耶にしてしまえば結局開星はなされない。すべての民達は決戦の生き証人。

 


各々が期日までの時間を過ごす。そしていよいよ決戦当日となった。五丈原にひとり歩いていくハイロリ。対する皇帝軍は既に布陣が完了している。ハイロリの姿を確認しゴブ羽がひとり前に出てきた。

 


「時間を伝えてなかったのに既にいるとは殊勝なことだな・・・妖精の星の王よ」

 


「・・・開星はしない。必ずや阻止してみせる。まさかひとりというわけではないよな?我が軍は弱くはないぞ?」

 


「・・・さぁどうかな?」

 


皇帝軍は総数10億。見たこともない顔もある。おそらく新参者だな。ゴブ良、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ瑜さらには愛天地人の隊長達までいる。ゴブ妻とゴブ蔵の姿は見えない。

 


ゴブ妻はわからないが、ゴブ蔵は間違いなく潜んでいる・・・オレあたりを狙っているのか?まぁ反乱軍の恐ろしさを味わさせてやるよお前ら・・・。

 


「じゃあさっさと開戦しようぜ?皇帝よっ!!」

 


「ゴハハハッ!適当なところがあんたらしいよ。その首貰い受けさせてもらうっ!!」

 


映像や音声などはすべて民達の目に止まっていた。固唾を飲んでこの戦の行方を見守っている。五丈原を舞台に星の未来をかけたハイロリとゴブ布の闘いが始まった。