闇と光 第167話 五丈原の闘い

ゴブ羽が斧槍を構えてハイロリへとすぐ様襲いかかる。しかしハイロリは闇となり姿をくらました。静けさが漂う五丈原

 


「ぷはははっ!そこで攻撃を仕掛けてくるとはさすがの弟子だな」

 


「ゆけ黑州兵っ!!」

 


ハイロリ目掛けて黑州兵が転移してくる。ハイロリも負けじと転移する。漆黒の閃光が戦場を飛び交う。

 


「敵襲っ!!」

 


皇帝軍の背後に茶色の閃光が飛び交っている。その数501。ゴブ布と深紅の薔薇による奇襲であった。前方では数名の黑州兵が地面に倒れている。遅れて銃声がやってきた。その数は倒れている兵の数とまったく同じであった。

 


美貴による狙撃。ゴブ良の真空波同様に風も吹き荒れている。真空波の技術を用い、さらに彼女もまた転移を会得していた。転移式移動型真空弾狙撃。音の鳴った方に彼女はいない。

 


「「「「「先生・・・」」」」」

 


ゴブ妻達はこの闘いに参加していなかった。ゴブ美先生と闘いたくなかったのだ。実は彼女達はゴブロリとゴブ美が人族であるということをだいぶ前から知っていた。

 


夜の戦闘の勉強を教えるため、実際の戦闘の様子を何も隠すことなく美貴はゴブ妻達へ見せていた。フーカが自分達に見せてくれたように美貴もまたゴブ妻達に見せていた。このことをハイロリは知らない。やはり男というものはまぬけである。

 


鋭い斬撃がハイロリの体を襲う。しかし体からは無数の手が生えてくる。その手を瞬く間に斬り裂くゴブリンの姿。ゴブ蔵がハイロリの首をとりにきたのである。

 


後方ではゴブ布目掛けて各将兵が突撃している。しかしゴブ布は将兵達を軽く吹き飛ばす。ゴブ厳達は転移からの攻撃を仕掛けている。ゴブ布とハイロリの共同の練兵。彼女達はハイロリファントムまでとはいかないが、誤差0.数秒で命唱状態まで持っていける。

 


ゴブ羽達ならば僅かな隙をつき対応できたかもしれない。しかし一般兵達はその隙をつくことができず、どんどんやられていく。

 


なるほどな。ゴブ蔵がオレの首をとりにきている・・・残りはゴブ布を抑える役割をしているのか。まずはオレを叩き潰すつもりのようだな。脳を潰せという教えをよく理解している・・・さすがの弟子達。

 


美貴の狙撃もゴブ蔵は避けている。命唱なしではさすがに当たらないか・・・このまま闘い続けていればいつかゴブ蔵の手によりオレは討たれる。しかし今回は策というものは何も持ってきていない。持ってきたもの・・・それはたったひとつの戦術のみである。さぁ披露するとしようっ!!

 


ハイロリソードから巨大なレーザーが放たれる。それは闘気状態のハイロリのフルパワーであった。ゴブ羽に向かっていく漆黒の光線。皇帝は一瞥することもなくそれを薙ぎ払う。

 


その隙をつきゴブ蔵がハイロリの首を狙う。それは絶妙なタイミングであった。命唱なしのハイロリはまったく動くことができない。ハイロリの首へとゴブ蔵の刃が迫る。

 


ズドォォォンッ!!

 


ゴブ蔵の体が星の大地へと沈む。

 


「我が友に触れさせんと言ったであろう?」

 


「ゴブ布っ!!ゴブ蔵は死んでないんだろうなぁっ!?合図は出したけどそこまでやれとは言っていないっ!!」

 


「ゴハハハッ!!我を信じれないのか?」

 


「・・・なら大丈夫だなっ!!敵さんはオレの友を抑えることができないようだ。存分に暴れてもらうぞゴブ布っ!!」

 


「まかせよっ!!我がこの武っ!!再びこの星下に轟かせんっ!!

 


我が名はゴブ布っ!!星下無双の豪傑なりっ!!」

 


いつのまにか深紅の薔薇も2人の背後にいる。500騎がくるくるとハイロリとゴブ布を中心に回り出す。

 


「受けよっ!!皇帝軍っ!!オレが用意してきたものはたったひとつっ!!この戦術のみだっ!!シンプルイズベスト・・・敢えて策を使わないこの単純な戦法っ!!受けきってみせよっ!!

 


車懸かりの陣発動っ!!」

 


皇帝軍が包み込むようにハイロリ達に向かって進軍してくる。激突するかに思われたその刹那それは起こる。502人の姿が消えた。皇帝軍の横腹を茶色の閃光が飛び交っている。ハイロリの戦術車懸かりの陣。それは全員が転移を扱えるからこそできた戦術。

 


かつて上杉謙信の用いた必殺戦術一手切。一般的に車懸かりの陣と呼ばれるその秘術。ハイロリは上杉を先祖に持つ小鳥遊芹香からその真髄は聞いていた。上杉謙信の必殺技が妖精の星に蘇る。

 


1度放てば止めれるものはいない。即ち敵なし・・・芹香がこの名字に変えた理由は目立つだけに非ず、己が先祖の秘術の強さからもとっていた。

 


ハイロリの用いている戦術はその亜種といってもよいだろう。本来は肉を切らせて骨を断つ・・・敵方の将兵の首をとるための戦術。しかしこれはまったく近づけさせずに敵を屠るための戦術である。転移式車懸かりの陣。

 


ひとりが攻撃を放てばそれは一撃ではない・・・数十連撃となる。高速転移を繰り返すことによりマナの残光が回転しているように見えるためこの名前をつけた。

 


さらに深紅の薔薇は遠近両用のオールラウンダー。美貴により遠距離攻撃も鍛えられている。同じく芹香の先祖である伊達政宗の戦術騎馬鉄砲隊の要素も取り入れていた。

 


騎馬で疾走しながら銃弾を放つ戦術。深紅の薔薇の前衛は近接攻撃。マナを貯めた後衛はそこから数十発の弾丸を放つ。放出すればマナを貯めた前衛と後衛がすぐ様入れ替わり高速の連携攻撃を繰り出している。

 


騎馬鉄砲隊は近接攻撃に持ち込まれ敗れてしまった。しかし遠近両用の転移式車懸かりの陣にはその欠点は存在しない。さながら織田信長の用いた三段構えである。ハイロリは守護家から各大名の戦術の真髄を聞き、己のものにしていた。

 


そしてもう一段。それを担当するのは美貴とゴブ布。美貴の精密射撃とハイロリファントムからゴブ布の攻撃が突如として加わる。二の槍を繰り出そうとする敵はすべて美貴に射殺される。そして打ち崩そうと向かってくる皇帝軍の将兵はゴブ布によりすべて吹き飛ばされることとなる。

 


ハイロリの産み出した最強戦術である。ゴブ布・深紅の薔薇とハイロリ・美貴。この闘いまでの時間、寝食をともにしてきたのだ。夜の戦闘時も同じ場所で自身の妻と地鳴りを起こしてきた。彼らの連携力は凄まじい。

 


そしてそれを統率するのがハイロリ。502人すべてに指示を出している。念話による指示。命唱はできなくても多重多列思考は可能・・・出せる限りのハイロリの最大限の強さを出している。

 


しかしこの完璧と思われる戦術にも弱点が2つだけ存在する。深紅の薔薇の転移から命唱までのタイムラグ。そして統率するハイロリの戦闘力が不足していること。もし仮に全員がハイロリファントムを会得し、ハイロリが制限なく命唱を使うことができたなら皇帝軍はなす術なく敗れ去ることになっていたであろう。

 


次々に皇帝軍の兵達がやられていく。黑州兵の隊長達ですら高速転移の闘いについていくことが精一杯である。ここで皇帝軍の頭脳が動く。一般兵をすべて下がらせたのだ。もはや対抗できていない兵達は弾除けにしかなっていない。ただの無駄死にである。そして邪魔なだけであった。

 


ゴブ羽、ゴブ良、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ瑜そして愛天地人の隊長9人のみとなる。彼らが一斉にあらゆる方向からハイロリ達へ襲いかかる。ゴブ良とゴブ瑜は気づいていた。この神がかった攻撃を可能としているのは中心にいるハイロリの存在であることに・・・そして深紅の薔薇のハイロリファントムが完全でないことに・・・。

 


目には目を・・・それは師の教えである。連携には連携で返す。皇帝軍は連携によって転移式車懸かりの陣を打倒しようとしていた。

 


将達の絶理状態を止めることができるのゴブ布ただひとり。それ故に全方向からの同時攻撃は次第に捌けなくなってゆく。タイムラグを狙われ、隊列が段々と乱れて深紅の薔薇の隊員の数も減っている。

 


幸いにも隊員に動けなくなった者達はいるものの死人は未だ出ていない。これは皇帝軍が切り崩すことに重きを置いていたためである。威力は最低限にし連撃とスピードを意識していたのだ。

 


ハイロリ考案の不完全な最強戦術は次第に打ち砕かれようとしていた。