闇と光 第170話 ハイロリの天賦の才

ハイロリの不意をついた一撃はゴブ羽にヒットしたがまったくダメージを与えることができなかった。ゴブ羽が動き出す。

 


「次はこっちからいくぜっ!!集えっ!!ゴブ馬俑っ!!」

 


ゴブ羽が地のマナによる兵を繰り出す。その数3000体。一斉にハイロリへ襲いかかった。ハイロリの体が揺らめく。ハイロリゲンガーで分身を2体作り出した。

 


「量よか質ってか・・・っは!少しは頭を使えるようになったかっ!!」

 


兵達はハイロリの一撃では打ち崩せなかった。地のマナの強みである硬さ。それがハイロリをどんどん苦しめていく。次第に囲まれ身動きがとれなくなるハイロリ達。そこへゴブ羽の一撃が迫る。

 


「ゴブリンクラッシャァァァァッ!!」

 


自身の出した兵ごと粉砕するその威力。硬さは重い一撃へと変わる。3人のハイロリの姿は地上にない。ハイロリファントム・・・空中から攻撃に転じるハイロリ。しかしハイロリは血を吐きながら吹き飛ばされていく。分身も闇となり消えている。

 


ハイロリは全方位攻撃を苦手としていた。ゴブ羽のゴブリンクラッシャー・・・それはただの物理攻撃ではない。大気へ放てば大気へ衝撃が伝わりそれが敵に襲いかかる。

 


防御力の高さ故に慶トラップも意味をなさない。全方位攻撃により転移したそばから攻撃を受けることになる。ハイロリはパワータイプではない。より速くスピードを追求することを好む。ゴブ羽はハイロリがまさに苦手としている戦闘タイプであった。

 


・・・うん。がちでまずいな。攻撃が通らねぇ・・・こいつと相性悪すぎだろオレ・・・ゴブ布やゴブ羽のような重い一撃使えないんだよな・・・なんかコツでもあんのか?

 


でもゴブ羽の一撃を防御して軽減することはできている・・・つまりマナ量的に問題なし・・・後はどうマナを操作するかだな・・・おっさんからはハイスピード戦闘しか教わってねぇし・・・ダメージを最小限に抑えつつ・・・やり方を見て覚えるしかない・・・防御を突破できなきゃとりあえず話にならん。

 


ハイロリは傷を増やしながらもゴブ羽のマナの動きをじっくりと・・・ねっとりと観察していた。それはまるで嫁達を細部まで覗き込んでいるかのようだ。

 


溜めがあるな・・・インパクトの瞬間マナを放出するタイミングがオレより遅い。その結果、マナの勢いが爆発的に増している。重い一撃を放つにはそのまま大量のマナを込めるのではなく、体内で1度とどまらせることが必要なわけだな。

 


溜めを作ることによりマナはより圧縮、濃縮・・・表現の仕方はわからんが凝縮されてより大きなマナとなるわけか・・・水道のホースと一緒だな。だけどこれ普通に難しいな・・・。

 


ハイロリは気づいていなかった。今ハイロリはハイスピード戦闘をする時と同様のマナ操作速度で試行錯誤している。当然操作速度が速いほど難易度は上がる・・・初見のテクニックを数段階のステップを飛び越えいきなり高等テクに挑んでいた。

 


それはゴブ羽やゴブ布以上のマナ操作速度である。清十郎はハイロリにこのテクニックを教えていたつもりであった。ただ教える時は基本擬音のみで教えるため、ハイロリは見て盗むしかなかったのである。

 


ハイロリは清十郎から技術を盗み、物凄いスピードでテクニックを吸収してきた。しかし清十郎のマナ操作スピードは恐ろしく速い。そこでハイロリは速さが足りないと誤認した。師の攻撃に押されるならば押されないようにより速い操作速度を求めて対抗していたのだ。そのためこのテクニックの存在にハイロリは気づけなかったのである。

 


しかし基本である超高速マナ操作は会得しているハイロリ。基本と言ってもこれは清十郎基準・・・誰もがおいそれとこの域に到達できるようなテクニックではない。ハイロリの根底にあるものは思考能力・・・それと同時に感覚派でもあるハイロリ。

 


直感・・・勘で物事の真髄を掴む能力も異質なレベルであったからこそできたことなのである。それ故にハイロリは格下の動きならばいとも簡単に模倣することができるのだ。本人は自身を不器用だと思っている。

 


だがそれは物事に興味を持たないから・・・しかし何らかの目的もしくは興味が向いた時は恐ろしいほどの器用さを発揮する。これが凄まじい速度での成長の要因のひとつであった。天は二物を与えずというがハイロリは抜きん出た汎用性の高い2つの才能を持っている。

 


「うんっ!いいねぇ・・・自分の持つ才能を生かしきっている。まぁ・・・気づいていないみたいだけどね。ふふっ・・・地球という箱庭で真の才能を使ってる人なんてあまりいないのになぁ・・・大抵は夢に向かってとか間違った方向へ向かっていく。

 


それでいざ願いが叶うと夢が叶ったとか・・・周りから天才だともてはやされている姿・・・滑稽過ぎるよね。その点君はいい・・・さすが僕のハイロリ君だね」

 


デキウスが見守る中、何度も攻撃を繰り返すハイロリ。時折ゴブ羽は攻撃を躱していた。ゴブ羽は感じている・・・避けた攻撃をくらえばダメージを受けるということに・・・ゴブ羽も思考していた。

 


・・・たまに重い一撃が放たれている。さっきまでは軽い攻撃しかできなかったはずなのにどうなってるんだ?てっきりスピード型かと思っていたが違うのか?早めにケリをつけないとまずい気がする・・・この漢ならいずれ防御を突破してきそうだ・・・。

 


「そろそろ終わらせてやるよっ!!いくぜっ!!ゴブ馬俑っ!!」

 


ゴブ羽が再び兵を展開する。先ほどと同じような流れ・・・しかし結果は大きく異なることとなる。ゴブリンクラッシャーを放つゴブ羽。ハイロリファントムからゴブ羽に攻撃を入れる3人のハイロリ。溜めに成功した1人の攻撃がゴブ羽の体を真っ二つに斬り裂いた。

 


2つの塊となったゴブ羽。背後からゴブ馬俑の兵が接近していた。ハイロリの肉体へクリーンヒットする兵の一撃。ハイロリは遥か地中まで沈められていた。その穴の底は地上からは確認できないほどに・・・。

 


ゴブ羽はゴブ馬俑の兵士と入れ替わっていたのだ。かつて師が兵士の姿を変化させたようにゴブ羽と兵士の姿を変えていた。ハイロリが斬り裂いたのは兵士・・・ハイロリを沈めた兵士がゴブ羽なのである。

 


ゴブ羽の奥の手。師にすら見せたことのない技であった。伏兵ゴブ兵馬俑。本来ノリと勢いで戦闘するゴブ羽。ハイロリの裏をかくことに成功する。静けさが戦場に漂っていた。地中のハイロリが動く気配はない。

 


・・・もろに入っちまった。でもまだ生きている・・・咄嗟に全身にマナを展開したおかげかな・・・気づいた時には遅かったか・・・早く体を動かせるようにならなくては・・・追撃がきたら終わりだ。

 


ハイロリは静かに自身の体を修復していた。自己回復。それは超越者達の中でも一部の者にしかできない高等技。緻密なマナ操作と細胞レベルでのイメージが必要だからなのである。しかしこれはハイロリの得意分野。分子や原子レベルまでこの漢はイメージすることを普段から心掛けている。

 


ゴブ羽もまたこの隙をつき傷を癒そうとしていた。本当であれば追撃したいのだが、ハイロリ相手に退路の確保できない場所には行きたくない。ゴブ羽は師の闘い方は知っている。騙し討ちなどはもはや日常。あらゆる手を使ってくる。今本当に地中にいるのかすら信じられない。リスクをとるくらいならば、安定をとる・・・皇帝となったゴブ羽は堅実な選択肢を選んだ。

 


このことがハイロリを救う。もし追撃されていたら簡単に討ち取られていたことであろう。普段の行いというのものはとても重要であるようだ。ゴブ羽の選択・・・それはハイロリを仕留める好機を逃すことにつながった。ゴブ羽の修復速度はハイロリに比べて遥かに遅い。どちらが先に終わるかは明白であった。

 


これが妖精の星の未来という道の分岐点となる。