闇と光 第172話 デキウス

「奇しくもハイロリの妻同士の対決。さぁ結果はどうなってしまうのでしょうかっ!?残念ながら私の力では実況することはできません・・・どこかに行ったデキウス様に苦情をどしどしお寄せくださいっ!!」

 


アヤネとアリスの中心から風が吹き荒れる。球体が2人の姿を覆い尽くし光を放つ。バトルフィールドが形成されたのだ。2人とも絶理命唱を会得し、さらに超越者の域まで足を踏み入れているのである。

 


普段コロシアムの超越者同士の闘いはデキウスが実況していた。しかし今日は姿をまったく見せないのである。なぜならハイロリの様子をじっくりと見ていたから・・・たまにこういうことがあるデキウス。しかしいつものことであると住人達は知っている。

 


この星の創造神にして遊戯神デキウス。みんなその力は理解していた。そして放浪癖のある変態であることも・・・これが初めてではないのである。常習犯故に超越者同士以外の実況担当が何事もなく代わりに実況を務めていた。

 


デキウスの力があるならば、バトルフィールド内の戦闘の様子を見せることができるが・・・それ以外の実況者では不可能なのである。しかし同じ超越者ならば大きな実力差がない限りは絶理状態になれば中の様子を見ることはできる。

 


会場内でマナが膨れ上がっていく。様々な場所で自然とバトルフィールドが形成される。しかしコロシアム内でバトルフィールドによる被害が出ることはない。デキウスの力が働いているためだ。それを超越者達も知っている・・・だから躊躇なく力を解放できるのである。

 


そしてハイロリは現在妖精の星を立ち去ろうとしていた。

 


「ロリ先っ!!力が必要な時はいつでも言えよなっ!!瑜とともに助けにいくからよっ!!」

 


「ええ。もちろんですよ。ハイロリ殿またお会いしましょう」

 


「次に会った時には先生よりも強くなってるからな!また遊んでくれよなっ!!」

 


「相変わらずの脳筋ぶり・・・ゴブ信も成長してくれるといいのですけどねぇ・・・ゴブ瑜殿とともにあなたを超えれるように日々精進します」

 


「人族の未来の王ハイロリよ・・・星制圧の力がいるならば今から制圧しに行くかっ!?ゴハハハッ!」

 


「そうしてもらえるのは嬉しいんだけど・・・この星と地球の位置関係まったくわからないしなぁ・・・それにまだ今は修行の身だ。星を制圧したら会いにいくから待っててくれ。

 


じゃあみんな楽しかったぜっ!!皇帝軍っ!!手がいるときはいつでも頼ってこい!!また一緒にいつか暴れようぜっ!!」

 


それぞれと別れを惜しむハイロリ。ゴブ蔵はひたすら無言を貫いていた。目でまたなと言っているのはわかる・・・どうしてこんなにクールな漢になってしまったんだろう。あんなに熱い漢だったのに・・・。

 


ゴブ妻達も見送ってくれている。美貴によろしく伝えて欲しいと頼まれた。新婚旅行は妖精の星でもいいな・・・オレの真の力をあいつらに見せてやろう。全力の地鳴りを星中に届けてやるぜ。

 


オレはスタート地点に出現していた光に入った・・・みんなとさようならをしたのに帰る方法がわからなかったのはここだけの秘密である。別れてすぐ手を貸してくれはさすがにカッコ悪いので1人で星中を駆け回った・・・転移の感覚が抜けると第2の村へ戻っていた。

 


2nd Boss Clear

 


金色の文字が再びオレを祝福してくれていた。

 


「やぁ。クリアおめでとうっ!!僕としては推奨ルートと違って残念だったよ」

 


「・・・一応他のルートを教えてくれ」

 


「無双ルートが正規ルートだよ。とある人に試させた時は簡単に終わっちゃったんだけどなぁ。君がやったルートは歴史改変ルートだね。

 


この星では皇帝の座を争い皇帝が決まる度に僕が時間を巻き戻してきた・・・今回君が来るのに合わせて時間を動かそうと思ってたんだ。君が妖精族と敵対したままだったら地球にいつか彼らが攻め込んできたかもしれない。手を取り合う選択を妖精族は選んだから結局味方になっちゃったけどね。あははっ!

 


他には妖精ハーレムルートとかもあったよ」

 


「・・・そのルートはなんだ?嫌な予感がするけども一応教えてくれ」

 


「妖精の女の子を娶りまくって子供を産んでもらう・・・それを何度も繰り返すとあら不思議っ!!ハイロリ君の子孫の方が人口が多くなり制圧完了しちゃうんだよっ!!君ならできると思っていたのに残念だね」

 


「はぁ・・・そのルートは見つけようがないわ・・・それが推奨ルートなのか?」

 


「ううん。違うよ。推奨ルートは純愛ルートだよ」

 


「美貴とただひたすら愛を語り合ってればよかったのか?」

 


「あははっ!彼女はナビでしょ?そんなことしても制圧はできないよ。ほら1人いたじゃないか・・・」

 


「・・・ゴブ蝉か?」

 


「ふふ・・・外れ。ゴブ布くんだよっ!!君が夫になるもよし、妻になるもよし・・・彼と君が交われば星の制圧なんて楽勝だったのにな。熱烈な愛も交わしてたし」

 


「・・・いやまぁ出会い方が違っていたらもしかしたらそのルートは否定できないかもしれない・・・」

 


「だろぉ?変態神の眷属として両刀の素晴らしさをわかってきたじゃないか」

 


「待て待てっ!オレは女の子専用機なんだ。危うく変態神の思惑通りに誘導されるとこだったぜ・・・」

 


「あははっ!じゃあ第3エリアのクリアも応援してるからねっ!!まったねぇ!」

 


漢同士か・・・でも妻達がいるからな。うん妻達がいて良かった。迷わずに済むわ・・・変態神はさらっと罠を仕掛けてきやがったのか・・・うーむ侮れないな。

 


第2の村には第3の街への続く光が出現していた。ハイロリは行く仲間が待つ次の街へと・・・。

 


しかしハイロリはマイルームに戻ろうとしていた。寄り道もせずすぐ様マイルームへ向かうハイロリ。かれこれ妖精の星での滞在時間は5年を超えていた。しかしこちらの世界では過ぎた時間が固定されるため5時間ほどしか経っていない。

 


それでもハイロリにとっては5年ぶりとなる愛しの嫁達。第3エリアへの道などどうでもよかった。一方コロシアムではバトルフィールドが消え去っていく。血塗れの女が2人・・・1人は地に倒れている。もう1人は肩で息をしながら立っていた。

 


バトルフィールドが消滅しましたっ!!立っているのはアヤネ選手っ!!ソロ部門の新たなチャンピオンがここに誕生しましたっ!!

 


興奮冷めやらない中、申し訳ないのですが・・・仕事をさせていただきます。これまでのチャンピオン達は長い間、棄権してきました・・・アヤネ選手に選んで頂きましょうっ!!

 


優勝したアヤネ選手にはレジェンドチャンピオンへの挑戦権が与えられます。挑戦か棄権かお選びくださいっ!!」

 


ざわめき出す会場。コロシアム開設当初、圧倒的強さで頂点に君臨し続けた者に与えられし称号レジェンドチャンピオン。試合にならないためデキウスから出場を止められた者への挑戦権。

 


これまでの歴代のチャンピオンは絶対に敵わないことを知っている。故にここ数千年は事前に棄権を選択し続けてきた。しかし今日はソロ部門に新たなチャンピオンが誕生している。この問い掛け自体が数千年ぶりの出来事なのであった。

 


「・・・もちろんやるわよ。私はもっと強くなりたいものっ!!」

 


アヤネの挑戦表明を聞き大歓声に包まれる会場。アヤネの傷が治っていく。コロシアムではたとえ住人でも死なないようになっている。対戦終了後には傷は元通りとなるのだ。すべてデキウスの力によるものである。そしてアリスは観客席に戻っていた。3匹の獣魔は怯えながら隣に座ってその様子を見ている。

 


コロシアムには4つの門がある。漆黒の門。純白の門。白銀の門。黄金の門。通常は2つの門しか使用しない。開かずの白銀と黄金の門。チャンピオンを超えた超越者専用の門なのである。そして白銀の門が今宵開かれようとしていた。

 


「それではレジェンドチャンピオンの入場ですっ!!」

 


白銀の門はゆっくりと大きな音を立てながら開いてゆく。