闇と光 第19話 悪七慶太2

大学に通っていたことがある。途中で辞めたけど。大したことはない大学だ。一応国立。消去法で検索していった結果、その大学になった。

 


受験を控えている高校生にひとついいことを教えてやろう。受験勉強いつから始めればよいか?その答えは自分が試験まで間に合うと思うギリギリではじめればよい。もっとも・・・自分に合っている効率のいい理解法、勉強法を持っているのならば。

 


やる気がないのに勉強しても意味がない。それがオレの持論である。夏休みの宿題をギリギリで必死にやっている人達はそれなりにいるだろう。それと変わらない。ギリギリ勉強論を提唱したい。それで期限を多く見積もっても、期限が足りなくても、合否に関わらず自己責任だけどな。

 


実際オレが勉強を始めたのは、センター試験の1ヶ月前。そこからだ。それまでは就職組の決まった者達と飲んだり、食ったり、遊んだりしていた。睡眠学習法がメインであった。適度に睡眠を挟むことで記憶の定着を狙っていた。授業中は違う勉強したり、睡眠したり過ごしていた。質問を与えられた時は、質問聞き返してから即答してやった。それでやつらは文句を言えない。

 


教師に授業は期待していない。そもそも勉強なんて自分でできる。教員免許を持っているだけの存在だ。勉強を教える力よりも生徒を導く力を磨いて欲しいと思う。導く力の方が重要だと思うが、所詮選考基準は学力。指導して欲しい教師を選べるもしくは教員自体を選挙する制度があったらなと思う。該当者なしなら該当者なしでよい。それで教師を気に食わないなど生徒らは文句を言えないはずだ。自分で選んでいるのだから。

 


同じく議員も同様である。ふさわしくないなら該当者なしでよい。理想ではなく、予算面を考慮した上で具体案を出せといいたい。現状、投票の価値すらない。足の引っ張り合いでしかない今の国会はくだらない。与党の政策にも賛成できないし、協力案を出すわけでもなく、望んでない第1党を取ることだけを考えているようにしか見えない野党もだ。1度投票で決まった以上、党関係なく密接に協力するのが当然だと思うのだがな。それができないなら、ちゃんとした指導者による独裁でいいだろう。この訓練をクリアしたら・・・。オレが力をつけたら・・・。国を落とす。首を洗って待っていろ。

 


それはともかく、結果としてセンター試験で二次試験は遊んでも合格できる点数を確保した。大学に通い始めてからは、なぜこのような勉強をしているのだろうと疑問に思うばかりだった。大学とは、明確な目的があるものが行くべきところでオレのようなものがいる場所ではないなと思った。そしてオレは酒と女、ギャンブルに身を染めていった。

 


飲み会は参加できるだけすべて参加していた。そこで女の子を漁り、毎回1人以上はお持ち帰り。サークルの先輩、キャンパス内の同級生や先輩も気になる者はすべていただいた。授業はもはや女の子探しの場になっていた。恋愛経験が少ない人が多かった分、彼女達は簡単に堕ちた。

 


バイト先では年下、年上関わらず好みに合った女性はすべて食らいつくした。彼女がいた際は一切辞めていたけれどもな。誤解を招く前に言っておくが、オレから彼女を振ることはほぼない。別れる時は彼女からだ。ほとんどの女性が自分から振った後で戻りたいと言う。

 


その頃には違う女性に目が向いているのもあるのかもしれない。なにより裏切られた者を再び信じるには傷が深すぎた。傷を埋めるため、違う女性に居場所を求める。それだけ彼女という存在が大きく、彼女に対しての愛情は深かった。去る者は自分にとってのベストパートナーではない。別れた者への愛情は残っていたがそう言い聞かせ、戻らなかった。

 


彼女がいる時はこんなオレだが、浮気は一切しない。彼女しか見えない。それ故に彼女を強く求め、彼女を強く愛す。愛する者さえいればなにもいらないそういうタイプである。友人といるのも悪くはないが、思考が友人達と視点が合わないので基本的には友人を持たない。唯一彼女だけが、オレの心を埋めてくれる存在だった。

 


ギャンブルに関しては、はじめはパチスロ。当時は設定6をツモれば食える時代だったのもあった。そこからさらにハマったのは麻雀だ。噛み合わない時が人生の辛さとシンクロしていて自分に合っていた。最初は仲間内。次に雀荘。個人経営の雀荘。そして建物の一室。後半にいくにつれてレートは上がっていった。イカサマにはサマを返すため、一応そちらも練習していた。勝ちすぎてぼこぼこにされたこともあった。後日、ぼこぼこにやり返したがな。戦闘においては先制攻撃が非常に重要であるということを身をもって知った時だった。勝っていくにつれて、一般人ではない人達と関わりを持つようになった。金額も金額で住む世界の違う金額だった。

 


ある日4桁を超える勝負があった。1人で行くには分不相応な勝負であった。そこで死ぬならそれまでの運命。生死をかけたひりつく勝負ができればそれでよかった。オレにとって、生きていると強く認識できる数少ないうちのひとつがそれだった。対戦相手は場所を提供してくれた組の者。そして別の組の者。もう1人は負ければ体を売るしかないほど、追い込まれている者。

 


それぞれ組の長もしくは幹部クラス?、そして護衛役?なのかは知らないがもう1人連れていた。オレのみが1人だ。

 


勝負は半荘5局。

 


1、2回戦は3着4着。

 


さすがに強かった。けれども黙ってやられていたわけではない。相手の傾向はしっかり分析していた。

 


続く3回戦は片方の組の者を狙い撃ちで1着。

4回戦はさらにもう片方の組の者を狙い撃ちで1着。生きている実感がした。ツモアガるたびに周囲から殺気が募る。自分の命が削られていく感じが堪らなかった。そうした中でオレの神経は研ぎ澄まされていき、次第にオレの麻雀も洗練されていった。

 


5回戦。着実に点棒を稼ぎ、オレは勝ちに向かっていた。最終局。上がれば1着という場面に来ていた。オレが牌を引いた時それは起こった。

 


そのまま捨てろと後ろから声がかかった。首にかかるナイフらしきもの。おそらくこの牌はオレのツモ牌であると同時に下家のロン牌。誰もその行動を咎める者はその場に存在していなかった。1人できているオレの勝ちが気に入らないのだろう。しかし譲るつもりはなかった。オレの生が自分の中で輝いているこの瞬間を汚されたくはなかった。ただそれだけの理由だ。殺されようが知ったことじゃない。だからこそ邪魔をしたそいつだけは許せなかった。

 


ひと息大きな息をつく。次の瞬間オレは右手でそのナイフを刃ごと掴みとった。その時は痛覚をまったく感じることはなかった。さらに椅子を後ろのやつにぶつけ、力が緩んだところでナイフ奪いとり1発思いっきり顔をぶん殴った。自殺行為に等しかったと思う。今でも後悔はしていない。そうしてオレは言った。

 


「ツモ。オレの勝ちだ」

 


その後すぐに起き上がった男にオレは床に叩きつけられた。

 


その時、その男の組長らしき人から声がかかった。

 


「やめろ!!・・・兄ちゃん命は大事にするもんだ」

 


オレはその声の主を見ていた。

 


「まだまだ先がある。こっちの世界に足を踏み入れてはいけないよ」

 


そう言われた。行くあてがない自分はどこに向かっているのか正直わからなかった。その後、オレは後がない者の借金を勝ち分と持ってきていた種銭と合わせ、肩代わりしてやった。さらに残りは2組でわけてくれと言った。

 


肩代わりしてやった者からは泣いて感謝されたが、礼なら止めてくれた人に言ってくれと伝えた。最後にその組長にオレはこの借りはいつか必ず返しますと告げた。そうしてオレはその場を立ち去った。

 


今でも右手の痛みを覚えている。立ち去った後、ただ虚しくその痛みだけが残っていた。それから先ギャンブルをやめた。これ以上の快感を得ることはできないと思ったからだ。女の子も自分から積極的に漁ろうとはしなくなっていた。くる者は拒まず抱いていたが、次第に相手もいなくなっていった。それから女の子を再び欲するようになるのはまた別の話である。