第91話 過ぎていく時間

パレードに出てくるキャラクターは確かになんとなくわかった。クォリティーは相当低かったが・・・たぶん使用許可がとれていないのだろう。私達はパレードよりも予告状に興味があった。みんなそれぞれの推測を話し合う中ひとりだけ違った発言をする子がいた。

 


「ご主人様が変わってないみたいでよかったです。でもちゃんと食べてるんでしょうか・・・三食ラーメン生活とかしてそうですね・・・ふふっ。サラダなんて絶対食べてませんよね。戻ってきたらいっぱい食べさせてあげますね。口移ししたらいっぱい食べてくれそうです」

 


アリスだ。満面の笑みを浮かべながら話している。彼女だけが第一声が慶太を心配する声だった。私達6人はアリスにちょっと負けていると思ってしまった。皆、アリスに嫉妬しているわけではないのだが素直にアリスの彼への想いが大きく感じた。私達ももっと彼のことを愛したい。

 


私達は師匠達にも事情を話しこの場に来てもらっている。特権とはとても便利なものだなと思った。今だけは同じ来訪者じゃなくてよかったと思った。私は私にしかできないことを彼のためにしようと心に決めた。

 


しかし日程が進んでも彼は現れなかった。本当にくるのだろうか・・・。不安の声が流れるがやはりアリスだけは違った。ご主人様ならきっときます。その時が来るまで静かに待ちましょうと言った。やはり彼女だけ一段上にいると感じた。

 


日程が進むにつれてデキウスもまた変わっていった。いつくるのかと焦らされ興奮具合が日に日に強くなっている。こいつは変態だからしょうがない。私達の心にそう刻まれた。遊戯神ならぬ変態神デキウス。彼の正体は本当になんなのだろうか。気になるが今はそんなことを考えている場合ではない。私達16人と4人はいつでも動けるように別のところから観戦している。彼は何をしているのだろう。

 


「なぁおっさん。今日もやばい気がするんだがどうだ?」

 


「お主もか小僧。儂もやばい気がする」

 


「初日からずっとこうだよな?バレてる可能性はないのか?」

 


「いやこの場所は儂とお主以外わからぬはずだ。バレてないはずだ」

 


「んじゃまた明日考えるか。今日もいっちょやろうぜ」

 


「がははは。よしならばゆくぞ」

 


怪盗紳士漢組は鋭すぎる嗅覚故に侵入の機会を見送っていた。2人とも天性の嗅覚が備わっている。もちろんデキウスにはバレている。そしてデキウスも策を弄していることを彼らはまだ知らない。

 


明日。また明日とどんどん機会は伸びていく。デキウスはもう我慢できなくなっていた。焦らしの計は確かに成功していた。もっともデキウスにバレてなければなのだが。

 


時は進んでいく。残りの日数が少なくなってきている。

 


「ふーむ。今日もダメそうだな」

 


「そのようじゃな。まぁ焦っては仕損じるからの。また明日様子を見ようではないか」

 


「そうだな。向こうは順調に焦らされているようだがな。こっちまで焦らされては意味がない」

 


「さて今日は何分持つかのぉ?」

 


「もうすぐ6分くらいになんだろ。今日こそは6分の壁を超えてやるぜ」

 


「がははは。かかってこい小僧!」

 


2人とも日数が少ないにも関わらず焦ってはいなかった。これもまた2人の優れている点なのだろう。ハイロリが痺れを切らすことはない。まだ清十郎の方が遥かに強いがハイロリが喰らいついている理由はそこにある。先を読みながら淡々と一手一手を捌けるハイロリでなければもっと簡単にやられているだろう。

 


清十郎もまたハイロリを無理に崩そうとすることはない。ハイロリは思わぬ手を仕掛けてくることがある。とどめと思った一撃を外してしまうと手痛いカウンターを受けるからだ。これは清十郎の経験から導き出されたものだ。本来殺し合いならば玉砕覚悟で行くのが彼のスタイルである。だがこれは稽古である。弟子の成長を嬉しく思いながら彼は闘っている。

 


圧倒的な経験と圧倒的な思考による闘いを2人は今日も繰り広げている。しかし清十郎は本気ではない。今持っている全力で相手はしている。だがハイロリがそのことを知るのはもう少し後になる。さらに時が過ぎていった。

 


「ふーむ。今日と明日しかないな。昨日と違ってやばい感じは消えたが誘われている気がする」

 


「ほぅ。さすがじゃ小僧。間違いなく誘われておる。お主が決めてよいぞ」

 


「へぇ。てっきり誘われてるなら誘われてやると言うと思ったんだがな。まぁ明日でいんじゃないか?どうせやるんだ。なら最後に行こうぜ」

 


「がははは。そうじゃの。真の漢は遅れてやってくるものじゃからな。んでは今日もやるぞい」

 


「今日は7分を超えたいものだな。いくぜおっさん!」

 


あまりに2人が来ないためデキウスも不安になっていた。清十郎がその気になれば時間はかかるが鍵などいらないのだから。そのため少しだけ雰囲気を変えていた。2人の作戦はバレていた。それでもなお焦らしの計は成功していた。デキウスは素直にハイロリを褒める。もしかしたら軍師としての才能が備わっているやもしれないとハイロリの評価がさらに上がる。彼の知らないところで2人のハイロリに対する評価は着実に上がっていた。

 


「ハイロリのやつはなかなか来ないねぇ。明日が最後だろう?」

 


「ハイロリはああ見えて慎重だからな。確実に弱いところをついてくる。なにか理由があるのであろう。だがわざわざ予告状を送ったのだ。今日こなければ必ず明日くる」

 


「アデルソンもハイロリ君のこと気に入ってるからねぇ」

 


「そんなことないぞ。あんなやつ」

 


「やれやれ・・・どっかで見た光景だな」

 


「そういえばあの時お前素に戻ってたな?」

 


「あん?昔のことは忘れたぜ」

 


「いよいよ明日ですね。ご主人様にやっと会えます。もう離しませんからね」

 


「慶太がこないわけないものね。今日は早めに寝ましょうか」

 


「ダーリン抜きの共鳴も慣れてきちゃったけどやっぱりダーリンがいなくちゃね」

 


「みんな可愛いからこれはこれで好きだけどね。でもハイロリ様がいた方が好き」

 


「カラスさんは明日捕まえる。予習もばっちり」

 


「あん。待ち遠しいわね。みんなから色々教えられちゃったし。私は明日狼になるわ」

 


「キングなら全力でいっても問題ないだろう。・・・その後は全力で攻めてほしい」

 


皆がハイロリを待ち受けていることを彼は知らない。彼は必ずくる。彼女達の中でこの事実を疑うものはもはや存在しなかった。

 


デキウスは自分の読みが外れてしまったのではないかと思ってしまっていた。2人を覗くといつものように2人は闘っているのだ。見ていたことがバレていたのかもしれない。ハイロリであるならば予告状を送るだけで実際に何もしない。そういう選択肢ですらあり得る。

 


おかしい・・・僕が主導権を握っているのは間違いない。しかし来ないという不安が拭いきれない。誘ってはみたものの、やはり警戒されてしまうか・・・雰囲気を戻すべきかそのままで行くべきか・・・ハイロリ君は焦らすのが上手いようだね。そうだここは敢えて・・・。

 


そしていよいよ最終日を迎えることになる。