闇と光 第94話 迫り来る女達

街の上空には夥しい数の鳥達が飛んでいた。吉子の軍団である。

 


「おっさん!景色がループしている気がする」

 


「そうじゃな。なにやら空も騒がしいのぉ」

 


その時漢組に短剣が飛来する。彼らは危なげなく躱していく。

 


「おっさん!二手に別れよう。狙いはおそらくオレだ・・・オレが囮になるっ!その間に脱出方法を見つけてくれっ!物は頼んだぞ」

 


「・・・まぁよかろう」

 


彼らの周囲にカラフルなマナの弾丸が突然飛来する。2人とも拳で弾丸を打ち払っていく。そのまま別のルートをとりハイロリはひとりになった。

 


「全属性持ちのマナ・・・カーチャか。ふむ・・・ご丁寧にジャミングまでかけてあるとは・・・これはチャーリーの仕業かな。居場所は感知できないな。向こうからこちらの場所は筒抜けということか・・・命唱をかければいけそうだが・・・オレはここにいるとはっきりと教えてしまうだけだな。どうにかして会わない方法はないのだろうか・・・」

 


彼は逃げながら考えていた。今ここには愛おしくてたまらない彼女達が集結している。自分を捕まえて別れを告げるためにここにいる。なぜそこまでするのか・・・ひとりにしておいてくれ。愛した女に別れを告げられることほど苦しいことはない。その時ハイロリは閃いた。

 


「今ならいけるな・・・不本意だがやるしかないか・・・背に腹は変えられないというやつか」

 


彼は躊躇うことなく自害した。死に戻りすれば部屋に戻れるからだ。今部屋には誰もいない。つまり今なら戻れる。そんな彼の期待は裏切られることになる。

 


「・・・初期位置に逆戻りかよ。デキウスめ・・・変態といいつつもなんだかんだしっかりしてやがる。ちっ・・・」

 


彼はなにかを見つけ諦めていた。一方その頃ハイロリの位置をマナで監視していた女は焦っていた。

 


「・・・反応がロスト。ごめんなさい。突然ベイビーちゃんの反応が消えたわ。どこかに転移したのかもしれない」

 


彼女の一言により女達は1度立ち止まる。しかしすぐに四方八方に別れ彼を探しにいく。皆の気持ちはひとつ。彼に愛していると伝えたい。彼がいなくなった理由が知りたい。彼のそばにいたい。彼と話がしたい。その思いで体が動き出す。

 


「ハイロリとああして・・・こうして・・・むふふ。あれ?ハイロリいたの?・・・ってハイロリぃぃぃぃ!?」

 


「久しぶりだな。フーカ」

 


「呼び捨てされるのもいいね。ほらこっちにきな。アリス達には教えないから。なにがあったのか話してみな」

 


彼は一瞬悩んだ。しかし彼女の元に行くことを選択する。フーカは自分の彼女ではないからだ。彼女もまたハイロリにとって好みのタイプではある。ハイロリは好みの子には簡単に心を開くのだ。ちなみに彼はそれ故に実は非常に騙されやすい。本人はバカだからと割り切っている。

 


ハイロリとフーカは路地裏に行った。彼女達に見つからないようにするためだ。ハイロリは逃げないよと言って地面に座っていた。それに合わせてフーカはしゃがむ。ハイロリの視線はミニスカの中に固定されてしまっていた。彼女は好きなだけ見ていいと言った。なんなら胸に飛び込んでくるか?と聞くのでハイロリはフーカの胸に素直に飛び込み、顔が見事に埋まっていた。フーカは予想外の出来事に顔を赤くする。

 


「なんで心臓早くなってんだよ。フーカもいい匂いだな。香水もだけどその奥にあるフーカの特有の匂いな?・・・落ち着く」

 


「いきなりそんなことするからだよ。ホントはあたしも混ざりたいんだからね。ほら聞いてやるからあたしに甘えてみな」

 


フーカは彼の頭を撫でながらそう言った。ハイロリは話しだす。

 


「振られた・・・」

 


ハイロリはそう言うと涙を浮かべ、そして止まらなくなっている。あられもなく泣く彼を見て1名萌えている。彼女は冗談のつもりで言った。誤解だと気付いていたのだが可愛い過ぎてつい、からかいたくなったのだ。

 


「じゃああたしと駆け落ちでもするかい?どこにでもついていってあげるよ。あたしが幸せにしてあげるさね」

 


「・・・一緒にいれたら幸せかもね。でもフーカまですべてを捨てる必要はない。いつも通りのフーカの方が好きだよ。いつまでも華やかで可愛い姿でいる方が君は輝いているから」

 


真面目に受け取ったハイロリから思わぬカウンターをくらうフーカ。彼女を口説く者は皆変化球を放つ。ストレートに言われた経験がないため戸惑っていた。彼女の心もまた1人の漢に奪われていた。その時それは現れる。屋根の上から覗き込む1人の女。

 


「ねぇ・・・お姉ちゃん?なーーにしてるの?」

 


「・・・アリス。ハイロリいきなっ!あたしは義理は守る。ただ可愛い子にアドバイスだ。お前は勘違いしている」

 


アリスとフーカの戦闘が始まる。オレは言われるがままに逃げ出した。そこに火球が飛んでくる。後ろで爆音とともに爆風が巻き起こる。・・・今度はサリーか。ちゃんと飛べるようになったようだ。偉いぞサリー。

 


しかし火球なんて使えなかった筈だ。・・・と思ったのも束の間。オレを雷や毒々しい酸が襲う。いつ覚えたのだろうか?だがこれは非常にまずい・・・音で居場所がバレてしまう。その時鋭い一撃がハイロリを襲う。

 


「ハイロリ様ご覚悟を!」

 


・・・アヤネか。彼女とオレによる剣撃の応酬が始まる。オレの剣が弾かれ地に落ちる。これでオレの通算200敗目か・・・。彼女との剣のみの勝負では1度もオレは勝てたことがない。

 


彼女はオレのいない間、たったひとりで道場をすべて喰らい尽くした。彼女は凄まじく強い。しかし常勝というわけではない。負けたりすることもあった。ずっと激しい闘いを繰り広げてきた。彼女の話を聞いていたらそれだけで物語と呼べそうな日々を過ごしている。

 


闘う度に自分の剣を見直し洗練し続けてきた。しかしまだ剣の道が終わるわけではない。日々さらなる高みへ登るため彼女は精進している。

 


アヤネの強さはおっさんの強さとはまた違う。感覚派であるおっさん。一方アヤネは人を殺すための動きが効率化されているのだ。感覚と思考の見事な融合がなされている。オレの剣の師匠はアヤネと言ってもよい。今の剣の形があるのは彼女のおかげだ。彼女の太刀筋を見本とし真似てきた。

 


彼女の目に吸い込まれそうになりながら見つめ合っている。やっぱり・・・オレは彼女達が好きで好きでたまらないんだな・・・。自分の思いを再確認していると、さらなる別角度からの攻撃がオレを襲う。

 


なんとか躱したが地面がごっそりと抉れている。オレも当たればああなっていたかもしれない。・・・咄嗟に飛んだが態勢も崩れてしまった。

 


しかしオレの体は空中から地面に足がつくことはなかった。再び宙を舞うことになる。咄嗟にガードはしたもののそのまま体が吹き飛ばされる。受け身をとりなんとか視線をやる。見上げてみるとそこには唯とレナが立っていた。

 


「ダーリン?約束破るとどうなるか知ってる?ごきゅって潰されちゃうんだよ?」

 


「決めたつもりだったが・・・まだまだ私のお仕置きが欲しいようだなキングよ」

 


レナの打撃を受けたせいで片手が痺れている。さすがオレの元カノ達。命唱抜きでは突破するのは困難なようだ。彼女達も手加減はしてくれているようだがな・・・。

 


前回闘った時とは違う。全員本物だ。オレの気持ちは変わっていない。むしろ離れたことにより、より大きく愛してしまっていた。そんな彼女達をオレは傷つけることはできない。やれるだけやるか・・・殺されるかもしれない。オレのすべては君達に捧げた。命すらも君達の物だ。好きにするとよい・・・。

 


仕方ない・・・運命というものに身を任せるとしよう。