闇と光 第47話 限界突破

さてそろそろやるか。首と指をポキポキ鳴らす。1回鳴らしてしまうと癖になっちゃうよね。昔からのオレの癖だ。長く息を吐く。やれる。オレならやれる。そう自分に言い聞かせる。やってやる。見せてもらおう人間の可能性とやらを。オレの可能性をオレに見せてみろ。

 


ハイロリ闘気全開!!

 


以前より黒さが増した気がする。人によって先天属性が決まってると言っていたが、オレは闇とのことだった。アリスは風。アヤネは水。美貴は無。ちなみに闇の単一属性は希少らしい。火、水、風、地が通常属性。ついで無属性。光、闇属性持ちが珍しいとのことだった。

 


全属性持ちもいるらしいがそれよりも光、闇の単一属性が珍しいということだった。また複数の属性を持つ者がいるが大概光や闇は複合属性でしか見ないという。レアになれてよかったぜ。ただ他属性が使えないというわけではないらしい。難しいから考えないことにしよう。それではそろそろいこう。多元命唱も連段形式にしてみる。それでは多連段すた〜と!

 


「命唱。我はハイロリ。人間の王となるものなり」

 


続けていく。

 


「命唱。我はハイロリ。人を超越する力を欲さん。新人類となるものなり」

[命唱。我が闇のマナよ。我に力を授けよ。我はすべてを呑み込まん]

 


まだまだいける。単発の4元命唱以上に強化されている気がする。まだすべての鯖は見えない。もっといくぞ。

 


「命唱。我は王。すべての人類超えし者。人類の王たる我が命ず。すべてを見通せ」

[命唱。我が闇のマナよ。我に跪け。我は深淵たる闇を欲す。闇よ我が力の糧となれ]

[命唱。我が未来の女よ。我は汝らを欲す。我に姿を見せよ。さすれば我が寵愛を与えん]

 


ん・・・ってぇ・・・頭が痛い。だが本来の5割のはずだ。まだいける。限界はここじゃない。50鯖?いやもっと見える。だが似たような景色だ。オレが見ているのはどこだ?まぁよい。もっと範囲を拡大すればわかる。この先にオレの欲する女がきっといる。ハイロリさんが見えるまで・・・まだまだいくぜ。

 


「命唱。我は人にして人に非ず。神へもっとも近き者なり。王たる我が命ず。神達の住まう地の扉を開け。さらなる世界を我に見せよ」

[命唱。我が深淵のマナよ。我にひれ伏せ。さらに深き絶望の彼方にあるものよ。我は力を欲す。我に力を捧げよ]

[命唱。我が未来の女よ。我の呼び掛けに応えよ。我にその姿を見せよ。我にその匂いを届けよ。我が愛に応えよ]

[命唱。我が愛の炎よ。愛する美貴よ。愛するアリスよ。愛するアヤネよ。彼の者達への愛を我が力に変えよ]

 


っ・・・いてぇ!血管がこれでもかと浮き出る。血管がぶちぶちと切れていくのがわかる。眉間に力が入る。視界には400鯖分見える。おそらく世界の別の場所で参加している者達の世界なのだろう。ここもいれて8ヶ所分か。ちらほらと人が見える。身体強化を済ませた者達なのだろう。この強行命唱をやってよかった気がする。オレの好きな匂いの者が3人見える。好きな匂い・・・つまりそれはオレのタイプだ!

 


こちらを見ている者達がいる。男が4人。女の子が3人か。男はお呼びじゃねぇんだよ。その3人全員タイプだ。目と目が合っている気がする。今のうちにオレの存在を彼女達に届けたい。オレは彼女達が欲しい。

 


だけどハイロリさんがまだ見えない。あの時行けたんだから行けるはずだ。ハイロリさんにも想いを届けたい。次を唱えるとやばそうだが1番届けたい人までこのままでは届かない。やるしかねぇ。すべてはハイロリさんを欲するがために。

 


一方その頃美貴は現実世界で仕事をしていた。再び警告音がなる。彼女は急いでチェックする。イエローシグナル。そして彼女はデジャヴのような光景を目にすることとなる。発信源は悪七慶太。

 


「え・・・なにやってるのよばか!!命唱を試したとしか考えられない・・・。急いで薬品投与しないと」

 


しかし彼女をさらなる衝撃が襲うこととなる。

 


ビーッ!ビーッ!

「生体反応に異常あり。危険性レベル5です」

 


機械音声が警報とともに音を発する。危険性レベル5。それはほぼ絶望的状態である。レッドシグナルの通知が画面に出ていた。

 


「今は慶太が大事な時だってのにいったい誰よ!?今忙しいのよっ!」

 


職務怠慢なのかもしれない。でも私には悪七慶太・・・彼がなによりも大事だった。わたしのはじめての大事な人なのよっ!他の参加者など今は正直どうでもよい。画面を開くと再び同じ画面が出る。悪七慶太。彼なのであった。

 


「どうして・・・あんたが死んだら私も死ぬからね!絶対に死なせない」

 


彼のカプセル内は赤く染まっている。私は急いで活性薬だけではなく、細胞再生薬を投与する。これは各支部に10本しか配布されていない。貴重な薬であると言っていた。緊急時の使用が認められている。今が緊急時だ。言い訳はあとでなんとでもなる。

 


私は1本、また1本と投与していく。バイタルがなかなか安定しない。8本目を投与した時であった。彼のバイタルが安定し出した。しかしすぐにまた不安定になる。これがダメならもう終わり。だが・・・やるしかない。私は2本同時に投与した。

 


時は少し前に遡る。ハイロリはさらなる命唱を試みていた。

 


「命唱。我が未来の伴侶達よ。我を見よ。我のマナを感じよ。我が愛を感じよ。我は汝らが欲しい。永遠にともにあれ」

[命唱。我が愛を受け取れ。金の中に輝く虹の髪。あどけない目。華奢な体。心も体も汝のすべてが欲しい。我は汝を愛する]

[命唱。我が愛を受け取れ。闇のごときぬばたまの髪。力強き目。美しき紋様の体。心も体も汝のすべてが欲しい。我は汝を愛する]

[命唱。我が愛を受け取れ。白銀の尊き髪。妖艶なる目。細き美しき体。心も体も汝のすべてが欲しい。我は汝を愛する]

[命唱。我が愛を受け取れ。茶に染まりし絶妙なる髪。ハイロリなる目。ハイロリなる体。心も体も汝のすべてが欲しい。我は汝を愛する]

 


ちくしょう・・・鼻から血が滴り落ちる。目からも血が滴り落ちる。目が見えない。音も聞こえない。痛みも凄まじい。だがオレは今・・・愛を届けている。痛みごときが邪魔するんじゃねぇ!!

 


ん?なんだ?少し痛みが和らいでる。やばいのは相変わらずだが、目が見える。音も聞こえるぞ。

 


ある者は澄み渡る笑顔を浮かべながら言った。

 


「・・・カラスさん?暖かい。私・・・この感じ好き。いいよ。待ってるね」

 


ある者は微笑を浮かべながら言った。

 


「私が欲しいのか?弱い男には興味がない。力尽くで私を奪いにこい。最も私を手にした男は1人たりともいないがな」

 


ある者は妖艶な笑みを浮かべながら言った。

 


「私がお望みなの?男に興味は全くなかったけど・・・あなたなら興味深いわね。いいわ。そうね・・・私を捕まえることができたらあなたのものになってあ・げ・る」

 


ある者は目を閉じ顔を赤らめながら言った。

 


「この感じ・・・。私を助けてくれた王子様なんですね。私を迎えにきてください」

 


どうやら愛は届いてくれたようだ。今の状態でも命唱1つだけならなんとか行けそうだな。がちで死にそうな気もするが女の子達の言葉には返答しないといけない。

 


「命唱。オレはハイロリ。必ず逢いに行く。力尽くでも奪い取る。捕まえて離さない。必ず迎えに行く。いつかくるその日まで待っていろ。オレは君が欲しい」

 


唱え終わるとハイロリは糸の切れた人形の如く、地に伏した。それを別の場所から眺める者がいた。

 


「素晴らしい。何度目の実験になるだろうか。今回は8惑星すべてに特異点クラスが発生している上々の成果。自力で空間を捻じ曲げ特異点同士の接触が起きるとはね・・・。いいね・・・いいねっ!待ち望んでいたよ!

 


しかしあの毒を喰らったとなると・・・ほぅ?逆に毒を制したか。なるほど・・・あの者達が会いたがるわけだ」

 


「ん?何をしているデキウス」

 


「やぁ、君も感じたのかい?あのマナを。面白いものが見れたよ。覚醒の源を10本消費した者が現れた」

 


「がははは。そうかそうか。遊びに来た甲斐があったな。ほぅ・・・あやつか?此度は楽しめそうだな」

 


「ふっ・・・闘いたいだけなんだろう。君は」

 


来訪者達はまだ知らない。これから起こるであろう大きな闘いを。僕は求めている。人間を超越し遥かなる高みに昇る者を。