闇と光 第48話 始まりの日2

心地いい。だが何も感じない。痛みも感じない。1人であるはずなのに。オレはこの感覚を知らない。ただ存在は知っている。ずっと憧れていたものである。

 


それは無。何も感じない世界・・・やはり心地良い。となるとオレは死んだらしいな。死こそ1番の楽園。すべての苦しみから解放される世界。オレはそう信じている。

 


・・・ダメだったか。失敗してしまったらしい。所詮その程度の男だったわけだ。まぁ悔いはない。こんなんでも悔いがないように生きてきたつもりだ。彼女達を残していくのは辛い。だがオレは不死などではない。遅かれ早かれ起こることだ。それを後悔してはいけない。

 


オレの体は適当に野に捨てるなりしてくれ。彼女達の宗教はわからないが、オレは無信仰。葬儀や法事などもやめてくれよ。せっかくの無なんだ。オレを安らかに眠らせてくれ。したい気持ちはわかる。でもオレのことを愛しているならそっとしておいてくれ。この安寧を掻き乱さないでくれ。そうしてくれると信じている・・・最愛の者達よ。

 


ふむ・・・オレの肉体や魂はどうなるであろうか。もしすべてが浄化されるのだとしたら・・・。浄化されることがリセット作業なのだろう。リセットされた後新たなる生に生まれ変わるのだろうか。肉体は間違いなく地獄と呼ばれるようなところに落ちる。すると魂は天国と呼ばれるところに行くのだろう。だから今心地いいのか?無という楽園のもと静かに次の生を待つ。今はその状態か。

 


一方肉体はどうなっているのだろうか。肉体。食事然り、それらは様々な生命の命を奪って成り立っている。常に罪を重ねている肉体が心地いい場所にあるわけがない。生きるためにしょうがない。そんな言い訳など通用するわけがない。

 


仮に人間を餌にするものがいたとしよう。そのものに対して生きるためにしょうがないなどと言えるものはいるのか?同じことをオレはしている。今肉体は想像を絶する苦しみを伴っているに違いない。地球を食い荒らし繁栄している時点で魂も地獄側なのか?よくわからん。だけど心地良さだけが今のオレにあるのは確かだ。

 


「ほぼ正解だけどほぼ不正解でもある。満点はあげられないかな。まぁここの宇宙では・・・いや君達の地球の理では肉体は地獄に落ち魂は天界へ行く。そこで無に還る浄化作業が行われる。無に還った後に新たな生命に生まれ変わる。わぁお・・・優等生じゃないか。だけど残念無念また来週〜〜。不正解」

 


「からかうのはやめてやれ。もっと深くにこいとは言ったがこんなに早くくるとは思わなかったよ」

 


「もういいところなんだから止めないでよ。確かにこんなに早くきたのは驚きだよ。不正解の理由が知りたい?知りたい?それはねぇ〜〜」

 


「まだ死んでないから。だろ?」

 


「もぉ〜〜先に言わないでよね」

 


2つの声が聞こえる。どうなっている・・・死んでいない?言われてみれば肉体があるな・・・。ちゃんと動く。しかし視界は漆黒に包まれている。

 


「ここはどこだ?そしてお前達は何者だ?」

 


「「ボク(ワタシ)達は闇。ここは闇の中」」

 


「特に一人称に意味はないよ。ワタシ達が勝手に名乗っているだけ」

 


「ボク達に願っただろう。闇の遥か向こう。こんな近くまで呼べたのは君が願ってくれたおかげだよ」

 


「姿が見えないようだがどうゆうことだ?」

 


「我々は理の外にいるからね。これは分体の精神体に過ぎない」

 


「さてさて力が欲しいと言ったね。力を授けてあげよう。もちろん力を得られるかは君次第」

 


「そんな難しく言う必要はないだろう。君にわかりやすく言おう。修行の時間だ」

 


「もぉ〜〜雰囲気が台無しじゃない」

 


「よくわからないが願ったり叶ったりだ。ぜひお願いしたい。オレは強くならなければならない。ただ返せるものはなにもないぞ?」

 


「いい返事だ。大丈夫だよ」

 


「「君は我々にいずれ返してくれる」」

 


「返すまで死んじゃダメだよって言ってみる」

 


「死んだと思っていたけど、そうやすやすと死ぬつもりはない。なにをすればいい?」

 


「ひたすら闘う。ただそれだけだ」

 


ハイロリの修行がはじまった。はたしてハイロリは力を得ることができるのであろうか。同時刻現実世界である男女が産まれたままの姿で寄り添っていた。

 


「清十郎様もっとくださいまし。まだまだ足りません」

 


「まだ足りぬというのか。久しぶりに会ったのだ。もう少しゆっくりしようではないか。あとで思う存分可愛がってやるから心配するな。司よ」

 


「はい。今日は逃がしませんよ。そういえば私の部下が再生薬をすべて使い切ってしまいました。申し訳ありません」

 


「よいよい。追加で10本もらってきたからな。でその者は生きているのか?」

 


「はい。重度の昏睡状態ですがさきほどまでの経過を見れば大丈夫だと思います」

 


「人間なら1本でもいれれば大抵死ぬのだがな・・・よほど運がいいらしいな」

 


「あら毒薬なのですか?」

 


「良薬口に苦しと言うであろう。人間の身であれば大きな死のリスクを負うことで超再生をもたらすものだ。超再生に耐えきるものがいるとは儂も興味がある」

 


「まぁ・・・また浮気ですか。他の女ならいざしらず男はダメですよ。私がいるんですからその分私を可愛がってくださいまし・・・清十郎様」

 


「司よ。心配せんでも可愛がってやる。そうじゃ。ひと言だけ司に助言しよう。あの男にはなにがあっても手を出すな。司に危険が及ぶ可能性がある」

 


「はい。わかりました。だから早くしてください。私はもう我慢できません」

 


「がははは。よかろう。快楽の果てまで連れていってやろう」

 


同時刻。涼宮美貴は必死にハイロリを救うべく様々な手段を試していた。

 


「バイタルは安定した。ダイブカプセル内も浄化完了。・・・命の危機は脱したわね」

 


美貴は深いため息をつく。

 


「しかしいったい何をしたらあそこまで脳細胞をずたずたにできるのよ。私の血で輸血できたからいいものを・・・苦労しそうな旦那様になりそうね慶太。命の危機は逸したけれどいつ目覚めるかはわからない。アリスとアヤネにも話さなくちゃね。司さんへの報告はあとでいいか。まず慶太のことが先ね。約束通り必ず私達3人であなたを助けてあげるわ。起きたらきついお仕置きタイムよ慶太」

 


慶太の知らないところで3人によるお仕置きが決まっていたのであった。強く生きるのだ慶太。