闇と光 第115話 ブラックホールの正体

「2人とも気が早い!開始していないのにもう開始しているぞぉぉぉ!と言っている間にも彼らは命唱を重ね終わっているぅぅぅ!」

 


大気が震えているのが観客席にまで伝わる。彼らのマナの波動は惑星全域まで届いていた。

 


「ハイロリのやつ・・・なかなかやるじゃないか」

 


「ハイロリか?もう1人は誰だ?ああぁぁぁぁ!斬り合いてぇぇぇ!」

 


「おや?ハイロリ君かな?どうやら・・・闘う時は本気でやらなきゃ負けちゃうようだね」

 


「ハイロリ!?・・・いいマナをしている。もっと熱いのが欲しくなる・・・。あたしともっと共鳴してもっといいマナにしてあげるからね。あたしの惚れた男なんだからあたしより強い男になるんだよ」

 


「む・・・成長するであろうとは思っていたが・・・成長というのはちと間違っていたのぉ。がはははっ!2人とも化けおったか!しかしまだまだお主らなら強くなれるはずじゃ。バカ弟子達・・・もっと励めぃっ」

 


4英雄そして清十郎もマナの波動を感じ取っていた。そして住人達の中にも少数ではあったがはっきりと感じ取る者が存在していた。彼らは自分達と同格のマナを感じる方角へ・・・惑星上の生物はマナが流れ出る方角に自然と視線が向いていた。

 


舞台上の2人は笑みを浮かべている。互いに殺気を解放する。舞台を中心に風が吹き荒れる。さらに彼らの中間地点からなにかが現れ始めている。それは彼らの姿を覆い隠していく。

 


「あははっ!いいね2人ともっ!2人を包み込んでいる球体。そして取り巻く光。その正体を教えてあげよう。せっかくだから君達にわかる言葉で言ってあげようかなぁ。

 


この球体の名前はブラックホール・・・強いマナのぶつかり合いで生じる現象だ。バトルフィールド・・・僕らはそう呼んでいる。

 


この現象が起きるのは超越者・・・いやわかりやすく言おう。神クラスのマナ同士の激突の証だ。まだまだ規模もマナの量も小さいから・・・プチ神ってとこかな。ようこそこちらの世界へ・・・2人とも歓迎しようっ!!

 


さぁみんなも祝いたまえっ!新たな超越者達の誕生だ!!中々見ることはできない光景だよ。これこそが最後の試合にふさわしい!!しかし中の様子が全く見えないねぇ。

 


ここは僕が特別に見やすくしてあげようじゃないか!これで僕のことをみんな見直してくれたかな?惚れてくれても構わないよ。あははっ」

 


会場は鎮まり返っている。姿がはっきりと見えてくる。しかし動きが速いのだが、目で普通に追えてしまう。2人の一挙手一投足すべてが見える。

 


バトルフィールドの中では時の流れが遅くなる。だから君達にもはっきりと見えている。そうだねぇ・・・先程のバトルロイヤル代表者達が仮に中に入ったとしよう。

 


・・・体を動かすことすら許されずにやられちゃうよ?彼らは実際には光速を超えたハイスピードの中闘っているからね?これが本物の闘いだよ?みんかわかってくれたかな?

 


僕は気分がいい。彼らが最後に唱えた命唱を教えてあげよう。16の命唱句そして同時に唱えた数は256。肆の理状態にある。究極の命唱と呼ばれる絶理命唱・・・その4段階目にいる」

 


会場全体が爆発したかのように盛り上がる。各支部の実力者達は舞台上の2人を真剣な眼差しで見ている。嫁達もまたいつになく真剣な表情で見つめていた。そして時折見せる狂気じみた笑みを浮かべる最愛の男にうっとりしている。他の仲間達は大フィーバー状態だ。自分達のリーダーのさらに上に立つ者の姿を感動しながら見ている者達すらいた・・・ただ1人を除いて。

 


「・・・命唱は込める思いが重要か・・・それがお前の思いの力なのか・・・ハイロリはそれほど強い決意と信念を持っている・・・僕は何が正解なのかよくわからない・・・」

 


ハイロリの思いを聞いていたアーサーだけは違った思いを浮かべながら見ていた。

 


「さてそろそろはりきって実況しちゃおうかな。このまま見てても面白いけどあそ・・・実況者としてしなければならない。

 


ハイロリが双鞭刀を振るう。大量の漆黒のマナが斬撃となりリュカウスに向かって飛んでいく。さらにハイロリは避け筋を消すように罠を大量に展開している。

 


リュカウスは蒼き焔を纏ってお構いなしにハイロリに向かって突き進む。爪を伸ばしハイロリに振るっているぞ。

 


おっと!リュカウスの背後から黒いレーザーが発射されている。これはリュカウス避けきれない・・・!?陽炎のようにリュカウスの体が消えたっ!?ハイロリの背後に既にリュカウスの姿があるぞ!拳がもうハイロリに当たる寸前だ!

 


ハイロリにヒットするぅぅぅ・・・いやしていない!ハイロリの姿は闇のように消えていく。闇から大量の手が展開され、リュカウスに対し闇の拳の連撃が迫っている!それを容易く尾による一撃で薙ぎ払っているぞ!!さらに口からは蒼き球が吐き出されている。

 


その先にあるのは・・・ハイロリの姿だっ!!ハイロリの手の中に闇が渦巻いてる。現れてきたものは・・・ビームソード!?マナで作られた黒き刃で球を斬り裂いているっ!!そのままハイロリが背後に蹴りを放っているぞ!しかしそこには誰も・・・なんとリュカウスの姿があるぞ!?リュカウスもまた蹴りを放っている!

 


2人の蹴りがヒットする・・・今度はお互いにヒットしたぁぁぁ!!吹き飛ばされる両者!ハイロリの行く先に蒼き球の群れが!リュカウスの行く先には漆黒の薄い円盤型の群れがあるぞぉぉぉ!!

 


これはお互いの体にクリーンヒットしていくぅぅぅ!!

 


漆黒の波動と蒼き波動が爆発する!そのまま互いの場所から2色の閃光が飛び交う。しかし両者は既にそこにはいない!?

 


上だっ!拳の撃ち合いが始まっているぞ!ゼロ距離からのインファイトだぁぁぁ!互いの体からはゾクゾクしてしまうほどの紅き血が流れ落ちている!リュカウスの背後では尾と漆黒の鎖による衝突も起きているぞぉぉぉ!遅れてハイロリの双鞭刀が下からリュカウスに飛んできているぞ!

 


蹴りによって打ち払う。しかしその隙をハイロリは見逃さない。背後に浮かぶなにかから漆黒の刃が伸びてくる。リュカウスにヒットはしない!やはり陽炎となって消えている。拳に蒼き焔を集中させ上から殴りかかっている。

 


ハイロリにヒット・・・また闇となり消えていく。さらに上からハイロリが黒い刃を手に持ちリュカウスに斬りかかっていくぅぅぅ!!リュカウスは応戦する構えのようだ!

 


なんと下からハイロリっ!?先程消えてはいなかったようだ!上が偽物なのか!?完全に虚をつかれたっ!!お返しと言わんばかりに漆黒に染まった拳がリュカウスの背中に突き刺さるぅぅぅ!まさに肉を切らせて骨を断つ・・・ハイロリの捨て身の攻撃がクリーンヒットだぁぁぁ!!」

 


両者一歩も譲らぬ攻防が続いている。2人の息が少し切れている。今まで見た事がないほどの高次元の闘いを観客達は目にしている。目に映る光景は時の流れの違う世界。突如として両者の動きが止まった。

 


「ん?2人の動きが止まってしまったぞ。どうやらハイロリは身体中の骨を鳴らしてるようだ。リュカウスは身体中をストレッチしているかのようだ。ふむふむ・・・あははっ!なるほど!2人は戦闘狂みたいだね。

 


2人は会話している。残りの時間はあまりない。リュカウスとハイロリはどうやら互いに1発ずつ交代で殴り合うようだ。せっかく本気で闘えているのに避けてばかりじゃもったいないそうだ。もはやクレイジーと言わざるを得ない。

 


話はまとまったようだ。先攻はリュカウス。1発ずつ全力で殴り合う。両者の意思による漢の闘いの始まりだ。2人の距離がゆっくりと近づいていく。

 


リュカウスの蒼きマナが右の拳に集まっているぞ。それがハイロリの身体へと突き刺さる。クリティカルヒットだぁぁぁ!口から血を吐き出すハイロリ。肩で息をし始めている。

 


今度はハイロリが漆黒のマナを右の拳へと集中させている。お返しと言わんばかりに重い一撃がリュカウスにクリティカルヒットする!!リュカウスもまた口から血を吐き出しているぞ。まさに意地と意地のぶつかり合いだぁぁぁ!!」

 


2人は殴る。殴る。そして殴り合う。殴る度に大きな衝撃音が会場に鳴り響く。2人の足取りはふらふらしている。2人の目は死んでいない。そして何よりも楽しそうだ。何度殴り合ったのだろうか?しかしそれも終わりを迎えることになる。

 


「時間だよ。特別にもう1発だけ許可しよう。これが本気の闘いの最後の一撃だ。2人ともじっくり堪能してくれたまえ。

 


2人の間に余韻を噛み締めるかのような長い沈黙が流れている。わぁお・・・2人とも伍の理へと入った。この遅さだとまだ実戦では使えそうもないね。それに2人ともまだまだ強化幅が小さい・・・今後に期待したいところだね。

 


だが褒めてあげようではないかっ!!2人の重ねた命唱・・・数を聞いて驚くことなかれ・・・2人の唱えた句の数32句・・・同時命唱数は3125!これが超越者達の闘いだ!!肆の理以降の世界は1つ重ねることすら難しくなる。僕は2人に拍手を送ってあげたい。

 


リュカウスの拳が眩いばかりの蒼き光を放っている。ハイロリの拳からはすべてを呑み込んでしまいそうな漆黒の闇が蠢いている。

 


両者共に向かっていったぁぁぁ!先程より速いのは見ればわかってもらえるだろうっ!さぁ最後のぶつかり合いだぁぁぁ!」

 


拳と拳が衝突する。その時この惑星が揺れていた。まるで大地震が起きたかのように大きな音と共に星が大きく揺れる。

 


「2人とも吹き飛ばされたぁぁぁ!結界に打ち付けられる両者・・・さぁ立ち上がるのはどちらだっ!?

 


両者ゆっくりと立ち上がろうとしている。2人の右腕がぷらぷらしているね。衝撃に耐え切れなかったようだ。な、なんと2人とも立ち上がったぞ!2人は笑みを浮かべている。

 


・・・そして2人とも倒れたぁぁぁ!大の字で寝そべっている。バトルフィールドは解除されているぞ!」

 


「・・・ハイロリ・・・最高であった」

 


「はぁ・・・はぁ・・・またやろうぜリュカウス」

 


「両者共にノックダウン!!エキシビジョンマッチ・・・その結果は引き分けだぁぁぁ!熱い闘いを魅せてくれた2人に盛大な拍手を送ってくれたまえ!!」

 


会場では空気が震えるほどの大歓声が巻き起こっていた。