闇と光 第158話 鴻門の会

ゴブ羽とゴブロリは食べる。食べる。食べ散らかす。同席していた魏軍の表情は笑みから驚きへと変化する。こいつらいったい・・・どんだけ食うんだよ。魏軍の将兵の気持ちはひとつであった。

 


「・・・ゴブ操様。食べるスピードが尋常じゃないため調理が追いつきません・・・申し訳ありませぬ」

 


それもそのはずである。ゴブロリの教えを継承しているゴブ羽。食べれる時に食べれるだけ食べる精神。食べ物はすべて飲み物。嫁達が作った愛の料理であればちゃんと味わって食べる・・・しかし愛のない料理はサプリメントとして丁重に飲む。一瞬にして皿は綺麗になってしまう。

 


「よい食べっぷりぞっ!!次の料理まで少々時間がかかる。お詫びと言ってはなんだが・・・ゴブ遼とゴブ褚の剣舞をご覧にいれよう」

 


ゴブ操はゴブ羽暗殺の好機と悟る。猛将2人が剣舞をしながらゴブ羽の首をとる・・・これならば事故として公表することができるのだ。ゴブ羽軍は民達の人気が高い。暗殺したと知られてしまうと民達の心が離れてしまう。故にゴブ操は強引に命を奪うのではなく不慮の事故に偽装しようとした。

 


「待たれよっ!!ゴブ操殿っ!!」

 


「どうしたのかな?ゴブロリ殿」

 


「せっかくの剣舞だ。それも鬼神が如き猛将ゴブ遼殿とハイロリ園に勝るとも劣らない・・・難攻不落の鉄壁と称されるゴブ褚殿の狂宴である。最強の矛と最強の盾が揃っている・・・せっかくなので酒をいただきたい。酒を飲みながら2人の舞に酔いしれたいがいかがかな?」

 


「ゴハハハッ!!構わぬっ!!酒を持ってまいれっ!!」

 


ゴブロリが機転を利かせ、待ったをかける。これは単なる時間稼ぎではない。ゴブ羽の命を守るためなのである。

 


酒樽も届き、ゴブ羽とゴブロリによる酒飲み大会が開催される。今度は飲み物。そのまま胃袋へと入っていく。嫁の口移しがない酒はただの水と変わりない。ゴブロリは酒が強い。ゴブ羽もまた酔い潰れることはない。

 


・・・がゴブロリと決定な違いがある。ゴブ羽は盛大に酔っ払いへと変わる。ゴブロリは顔色ひとつ変えない。そもそもゴブリンスーツを着ているので顔色なんてわからない。

 


酒樽のおかわりが届いたところで魏軍の矛と盾による剣舞が始まる。その時ゴブ羽はふらふらと舞う2人の間へと歩き出していく。ゴブ羽は酔うと踊る癖があるのだ。妖精族の中でも潜在能力の高い妖精は踊り癖を持っている・・・妖精史さらには伝承の中ですらそう語り継がれている。

 


2人の剣とゴブ羽の体が幾度となく交錯する。しかし華麗な舞を踊っているかのようにすべてゴブ羽は避け切っている。

 


ゴブロリとゴブ良はほっと胸を撫で下ろす。とりあえず剣舞でゴブ羽の命がとられることはなくなったからだ。ゴブ羽は酔拳の使い手である。もっとも回避性能が著しく上がるだけの酔拳。攻撃できるわけではない。酔えば酔うほど回避性能がぶっ壊れてくる。

 


かつてゴブロリ、ゴブ良、ゴブ信が3人がかりで本気で当てにいったのだが・・・この状態のゴブ羽には指一本触れることすらできなかった。

 


剣舞のための演奏が終わる。舞った2人は闘いに敗れたかのような表情をしていた。ゴブ羽は何事もなくふらふらと席へ戻り、再び酒という名の水をぐびぐびと飲み出す。

 


「ハラショーッ!!3人とも実に素晴らしい舞でしたなっ!!このゴブロリ感動しましたぞっ!!ゴブ操殿っ!!素晴らしき催し感謝致すっ!!」

 


ゴブ操の表情は変わりない。しかし微妙に口元が緩んでいた。10賢人へと目配せするゴブ操。10賢人から1人立ち上がった。

 


「いやぁ・・・このゴブ彧(いく)も感服してしまいました。次は・・・」

 


バァンッ!!

 


ゴブ彧の言葉を遮るかのように扉が大きな音を立て開く。

 


「ゴブ操殿っ!!このゴブ信も宴に混ぜて頂きたいっ!!左将軍ゴブ順を討ち取ったんだから参加してもよかろうっ!?」

 


そのままゴブ羽達の席へと座るゴブ信。そんなゴブ信の姿を見てゴブ良は厠へと離席する。ゴブ信は恐らくゴブ瑜が送り出してくれた援軍。ゴブ蔵から現在の情報を得るためである。魏軍到着からゴブ蔵はずっと潜伏していたため、ゴブ操らに存在は気づかれていない。

 


「ゴハハハッ!!ゴブ信よっ!!その武勇見事なりっ!!ゴブ操からの贈り物じゃっ!!存分にやれいっ!!」

 


ゴブ操はゴブ信を利用し、兄であるゴブ羽を殺す作戦に切り替えた。ゴブ信が失態を犯せばそれはゴブ羽の責任となるからだ。

 


ゴブ信に出されたもの・・・それはゴブ羽とゴブロリが飲み干したものと同数の酒樽と同数の肉。その数8樽。さらに蟻鳥の生肉が8羽分。1羽分の肉のブロックひとつの大きさは牛1頭に匹敵するほどであった。

 


「えっ!?こんなに食べてもいいのっ!?ゴブ操殿っ!!有り難くいただかせてもらうっ!!」

 


ゴブ操の表情もついに驚愕の表情へと変わる。ゴブ羽、ゴブロリの数倍のスピードで次々に飲み干していくゴブ信。ゴブ羽軍の中で1番食べるのはゴブ信なのである。さらにそのスピードも群を抜いていた。

 


ゴブ操・・・見誤ったな。この末っ子ゴブ信を舐めるんじゃねぇ。こいつの食費だけでどれだけ巻き上げた金が使われていると思いっている。最終的にゴブ信専用家畜場を作らされることになった化け物だぞ。

 


ゴブ良も会場に戻ってきた。目で合図される。何か策があるらしい。ここは素直に乗っかるとしよう。

 


「ごちそうさまでしたっ!!いやぁゴブ操殿うまかったっ!!ってなんだよ兄者・・・めんどくさい酔っ払いになっちまってるじゃねぇか。

 


ゴブ操殿っ!!我が長兄ゴブ羽・・・粗相の恐れがありますので酔いをさまさせてきますっ!!なので少々離席させていただきますっ!!

 


なぁに・・・厠で腹パンして全部出させてしまえばよいのですよっ!!ゴハハハッ!!」

 


「う、うむ・・・あまり兄は虐めるものではないぞ」

 


ゴブ信の勢いに押され、ゴブ操は離席の許可を出してしまう。しかし半刻ほど経っても2人は戻らない。その間、ゴブロリはさらに食べ進めていた。ゴブ良から視線を感じるゴブロリ。

 


なんだよ・・・こっちは兵糧枯らしてやろうと思ってるのに。マナで消化力を強化すればいくらでも食べられるんだよ。まぁしばらく食事は要らなくなるけどな。

 


ん?行けと言っているな。ふむ・・・なるほど・・・ゴブ信は救援にきたわけか。食いしん坊だからがちで食事しにきただけだと思ったぜ。ゴブ信がいるということはゴブ瑜もどこかに待機しているのだろう。ゴブ瑜が機転を利かせてくれたのだなきっと。

 


先ほどのゴブ良の離席はおそらくゴブ蔵と情報を交換し、ゴブ瑜と連携をとるためなのであろう。そしてオレに行けと言っている。つまりは人質として残るから撤退しろ・・・そうゆうことか。

 


ゴブ良の漢気を無下にすることはできないな。死の危険性が高い・・・ゴブ良の命を懸けた策・・・乗ってやろうではないか。弟子の成長を見るのは良いものだな。なんだかんだ定年を迎える以上の人生を送ってきてしまっている。オレも年寄りになったわけだな。

 


ひたすら食べ進めていくゴブロリ。マナによる消化力の強化はもう行なっていない。突然大きな音が会場に鳴り響く。

 


ギュルルルルルゥッ!!

 


それはゴブロリのお腹の音であった。

 


「す、すまぬっ!!ゴブ操殿っ!!腹の調子が悪いっ!!

 


私の胃はところてん方式・・・食べた分だけ押し出されて出てしまう作りになってしまっている。申し訳ないが厠へ行かせてもらうっ!!この場で垂れ流すは一生の恥っ!!ごめんっ!!」

 


「「「「「・・・」」」」」

 


呆気にとられる魏の将兵達。ゴブロリはお腹が弱かった。食べた分だけ出る。故にトイレとお友達であった。

 


ゴブロリも鴻門城から脱出する。ゴブロリは鴻門の会を肛門の怪を使い離脱することに成功した。

 


そして鴻門城の厠はゴブロリの排泄物によって嫌がらせのように詰まっていた。小さいが地味に大きな嫌がらせである。

 


肛門の怪・・・恐るべし。