闇と光 第159話 下邳城の闘い

ゴブ羽はゴブ良、ゴブ瑜の策により窮地を脱した。ゴブ操はゴブ羽殺害の好機を逃す。ゴブ羽軍は皇帝ゴブ操から身を隠すために潜伏している。そしてゴブ良は捕縛された。人質として利用する方が有効であると魏軍は判断したようだ。

 


潜伏しながらゴブ羽軍はゴブ良の居場所を探っている。この広大な妖精の星。隠されているものを見つけるのは容易ではない。

 


「ゴブ羽様っ!!ついに判明しました。ゴブ良様の居場所は大規模収容施設下邳城にございます。何階層に捕らえられているかは不明ですが・・・おそらく最下層かと思われます」

 


「よくやったゴブ蔵っ!!これよりゴブ良救出戦の軍議を開くっ!!全将兵を招集せいっ!!」

 


慌ただしく集められるゴブ羽軍の将兵。そしてそこにはゴブ良が妻・・・英と姫の姿もあった。彼女達は旦那の救出に燃えていた。戦が始まる前からスパーキング状態である。

 


罪を犯したゴブリンが収容されるゴブリン星随一の監獄・・・下邳城。そこにゴブ良は幽閉されている。もちろん内部の警備は厳重。外部の監視もゴブ操が皇帝を称してから強化されていた。

 


守備兵の数は少ない。しかしこれは罠である。ゴブ良を助けにきたゴブ羽の息の根を止めるための罠。おそらくゴブ羽軍が現れた時、魏の全軍が襲いかかってくるに違いない。救出と言っても簡単に行くものではないのである。

 


「・・・オレがいく。念の為ゴブ蔵も共にきてくれ。潜入するには少数精鋭でいくしかない。我が軍で適任者はオレとゴブ蔵しかいない。他は途中で見つかるリスクが高い。

 


しかし単純に潜入といってもこの警備では不可能だ・・・」

 


「「その任私が請け負いますっ!!」

 


ゴブ良とゴブ瑜が同時に応える。2人もまたスパーキング状態。軍を動かし、囮役として潜入路を確保するというのだ。それを聞き、ゴブ羽、ゴブ信、ゴブ策、ゴブ蔵も呼応したかのようにスパーキング状態へと変わる。ゴブロリ以外皆スパーキング・・・仲間外れとなったゴブロリ。

 


このスパーキング強化状態・・・妖精ゴブリン族に伝わりし秘法なのである。ゴブリン族にしか使えない。故にゴブロリといえども模倣することができなかった。

 


ゴブ羽軍の古株そしてゴブ策軍は家族同然なのである。仲間を大切に思うがため・・・誰もがゴブ良の救出を望んでいた。

 


ゴブロリ、ゴブ蔵を除くゴブ羽軍約10億。そのすべてが潜入のための陽動となる。対する魏軍約40億。ゴブ操の徴兵令により戦力は増強されていた。

 


下邳城を舞台に決死の攻防戦が繰り広げられようとしている。

 


「全軍っ!!これよりゴブ良を救出するっ!!皆の力・・・貸してくれっ!!」

 


「羽ーくん・・・どうやらきたようです。

 


3大隊・・・それぞれ10億、20億、10億の構成・・・左翼はゴブ遼。右翼がゴブ褚。中翼がゴブ操といったところでしょうか。

 


右翼は頼みましたよ策っ!!」

 


「おう任せろっ!!」

 


「それならオレが左翼・・・ゴブ遼に当たるっ!!相手にとって不足なしっ!!」

 


「ではオレがゴブ操の相手をする。ゴブ瑜は全体のフォローを頼むっ!!」

 


「「いらねぇっ!!」」

 


「瑜は羽ーくんのサポートに回ってくれ」

 


「兄者ひとりだと危なっかしいから頼んだぞ瑜ーちゃん」

 


「任されたっ!!それでは中翼は5億の兵。他は2億ずつ率いて向かいましょう。

 


ゴブロリ殿っ!!ゴブ蔵殿っ!!出来る限り早期の救出を頼みますっ!!」

 


「帰ってきたら全員お陀仏は勘弁してくれよ。生きてまた会おう」

「御意っ!!」

 


左翼ゴブ遼軍10億対ゴブ信軍2億

 


中翼ゴブ操軍20億対ゴブ羽軍5億

 


右翼ゴブ褚軍10億対ゴブ策軍2億

 


再びゴブ羽軍は圧倒的兵力差の中の闘いに臨む。時間がかかってしまっては壊滅必至。ゴブ羽軍そしてゴブ良の命運は2人の漢に託された。

 


「ゴブ蔵。情報を得た時どこまで潜入した?」

 


「残念ながら2階層までです。最下層は7層という噂にございます」

 


「まぁ・・・ついてこれるよな?ゴブ蔵?」

 


「ゴシシシッ!!もちろんっ!!師に叩きこまれた潜入術・・・成長した姿を見せましょう」

 


ゴブ蔵の口調は普通に戻っていた。やはり獣魔3匹の悪影響が原因だったらしい。ゴブ蔵もまたゴブロリの弟子である。2人きりの時は師と呼ぶ。隠密師弟がゴブ羽軍の奮戦する中、下邳城へと潜入を開始した。

 


「よく統率されているな・・・ここの警備」

 


「ええ・・・潜入するのには一苦労でした」

 


「まっ統率されすぎているのが仇となっている。警備がパターン化しているからそれを把握すればすり抜けるのは容易い。ついてこいよゴブ蔵っ!!」

 


「承知っ!!」

 


2人はするすると警備網をくぐり抜け、どんどん下の階層へ侵入していく。3、4、5層・・・そして軽々と7層へと辿り着いた。

 


ゴブロリの潜入術は神ががっている。すべては覗きのため・・・嫁達の無防備な恥ずかしい姿を見たいがため洗練されていったのだ。嫁達はそんなゴブロリの姿を見つけることができれば2人きりでゴブロリと過ごすことができる。誘惑すればゴブロリなどチョロい。

 


それ故に嫁達の看破能力も神ががっていた。覗き・・・それは愛する夫婦が繰り広げる熱き戦争なのである。

 


「・・・ここは最下層じゃないかもしれないな。ゴブ良がいるとは思えない」

 


「所詮は噂・・・さらなる層があったとしてもおかしくはありませんね」

 


「探すしかないか・・・見つからぬように手分けして探そう。合流は半刻後・・・再びこの地点で落ち合おう」

 


「御意」

 


一方その頃ゴブ羽は魏軍の各将兵に苦戦を強いられていた。ゴブ操率いる大隊・・・将兵が集まっていてもおかしくはない。ゴブ典、ゴブ艾と激しく闘り合うゴブ羽。武器がぶつかると思われた時2つの風がゴブ羽の真横を通り抜ける。吹き飛ばされゆくゴブ典、ゴブ艾。

 


「「ここは私達にお任せくださいっ!!」」

 


ゴブ英とゴブ姫の姿がそこにあった。言葉を言い放ちながらそれぞれ戦闘に入っている。2人とも普通に押している。勝つのは時間の問題であろう。

 


妻というのは恐ろしき力を秘めているであった。ゴブロリの教えを受けたゴブ羽軍。そしてゴブ美の教えを受けたゴブ妻達。恐ろしさもどうやら継承してしまったようだ。ゴブ羽は自身の妻に逆らうのは絶対に止めようと心に誓った。

 


漢とは尻に敷かれる運命なのである。妻達が望めば物理的に尻に敷かれることもいとわない。下から妻が地鳴りを起こす風景は絶景である。

 


「ゴブ良が妻ゴブ英っ!!敵将ゴブ典討ち取りましたわっ!!」

「ゴブ良が妻ゴブ姫っ!!敵将ゴブ艾刈り取りましたわっ!!」

 


2人が同時に勝ち名乗りをあげる。後に語り継がれる下邳城で行われた攻防戦・・・この戦で1番活躍したのはゴブ羽でもゴブ信でもゴブ策でもない・・・ゴブ美率いるゴブ妻軍が暴れまわっていた。魏軍の多くの将兵が彼女達の手によって討たれる。後に・・・彼女達もまた妖精の星の正史にその名を刻むこととなるのである。

 


「ゴブ蔵あったぞ。棚の戸を開けたら下の層への階段があった」

 


「さすが師・・・そのようなところからよく発見できる」

 


ゴブロリがこの入り口を見つけることができたのは日々の賜物である。毎日のように嫁達の下着を物色し、匂いを嗅いでいる。ちなみに1番いい匂いがした嫁が1番絞りをゲットできる傾向がある。

 


なので嫁達は脱ぎたてを意図的にいれておくことがあるのだ。もちろんそれは天性の嗅覚を持つゴブロリ・・・そんな嫁達を可愛く思いながら堂々と堪能する。本人は微かな残り香を楽しみたいがためにやっていたのだが新鮮な匂いには抗えない。

 


一夫多妻。夫の愛をたくさん受けるために影で嫁達は壮絶な争いを繰り広げている。それをゴブロリが知るのはもう少し先のこと・・・。

 


またゴブ女の中にはいい匂いのものもいた。普通に人族と同様のお姉さんの匂いがする。それ故にミリチャンにかけ、お姉さんの下着を探そうとしたのが幸いしたのであった。

 


「道は2つ。明かりのある方と暗い方か・・・時間はあまりない。二手に分かれるぞ?オレが暗い方に行く。我が闇のマナにかかればこの程度の暗闇どうということはない」

 


「御意」

 


暗視・・・これもまた暗闇でも嫁達の細部まで見たいがために備わった能力。共鳴中の無防備な嫁達の表情は最高のドレッシングであるのだ。

 


ゴブロリは基本的に嫁達をより堪能しようとして勝手に能力が向上している。そんな旦那の愛が欲しいために嫁達も強くなる。これが夫婦の絆というものなのだ?

 


それぞれ別の道を行く2人。果たしてこの先にゴブ良は囚われているのだろうか。

闇と光 第158話 鴻門の会

ゴブ羽とゴブロリは食べる。食べる。食べ散らかす。同席していた魏軍の表情は笑みから驚きへと変化する。こいつらいったい・・・どんだけ食うんだよ。魏軍の将兵の気持ちはひとつであった。

 


「・・・ゴブ操様。食べるスピードが尋常じゃないため調理が追いつきません・・・申し訳ありませぬ」

 


それもそのはずである。ゴブロリの教えを継承しているゴブ羽。食べれる時に食べれるだけ食べる精神。食べ物はすべて飲み物。嫁達が作った愛の料理であればちゃんと味わって食べる・・・しかし愛のない料理はサプリメントとして丁重に飲む。一瞬にして皿は綺麗になってしまう。

 


「よい食べっぷりぞっ!!次の料理まで少々時間がかかる。お詫びと言ってはなんだが・・・ゴブ遼とゴブ褚の剣舞をご覧にいれよう」

 


ゴブ操はゴブ羽暗殺の好機と悟る。猛将2人が剣舞をしながらゴブ羽の首をとる・・・これならば事故として公表することができるのだ。ゴブ羽軍は民達の人気が高い。暗殺したと知られてしまうと民達の心が離れてしまう。故にゴブ操は強引に命を奪うのではなく不慮の事故に偽装しようとした。

 


「待たれよっ!!ゴブ操殿っ!!」

 


「どうしたのかな?ゴブロリ殿」

 


「せっかくの剣舞だ。それも鬼神が如き猛将ゴブ遼殿とハイロリ園に勝るとも劣らない・・・難攻不落の鉄壁と称されるゴブ褚殿の狂宴である。最強の矛と最強の盾が揃っている・・・せっかくなので酒をいただきたい。酒を飲みながら2人の舞に酔いしれたいがいかがかな?」

 


「ゴハハハッ!!構わぬっ!!酒を持ってまいれっ!!」

 


ゴブロリが機転を利かせ、待ったをかける。これは単なる時間稼ぎではない。ゴブ羽の命を守るためなのである。

 


酒樽も届き、ゴブ羽とゴブロリによる酒飲み大会が開催される。今度は飲み物。そのまま胃袋へと入っていく。嫁の口移しがない酒はただの水と変わりない。ゴブロリは酒が強い。ゴブ羽もまた酔い潰れることはない。

 


・・・がゴブロリと決定な違いがある。ゴブ羽は盛大に酔っ払いへと変わる。ゴブロリは顔色ひとつ変えない。そもそもゴブリンスーツを着ているので顔色なんてわからない。

 


酒樽のおかわりが届いたところで魏軍の矛と盾による剣舞が始まる。その時ゴブ羽はふらふらと舞う2人の間へと歩き出していく。ゴブ羽は酔うと踊る癖があるのだ。妖精族の中でも潜在能力の高い妖精は踊り癖を持っている・・・妖精史さらには伝承の中ですらそう語り継がれている。

 


2人の剣とゴブ羽の体が幾度となく交錯する。しかし華麗な舞を踊っているかのようにすべてゴブ羽は避け切っている。

 


ゴブロリとゴブ良はほっと胸を撫で下ろす。とりあえず剣舞でゴブ羽の命がとられることはなくなったからだ。ゴブ羽は酔拳の使い手である。もっとも回避性能が著しく上がるだけの酔拳。攻撃できるわけではない。酔えば酔うほど回避性能がぶっ壊れてくる。

 


かつてゴブロリ、ゴブ良、ゴブ信が3人がかりで本気で当てにいったのだが・・・この状態のゴブ羽には指一本触れることすらできなかった。

 


剣舞のための演奏が終わる。舞った2人は闘いに敗れたかのような表情をしていた。ゴブ羽は何事もなくふらふらと席へ戻り、再び酒という名の水をぐびぐびと飲み出す。

 


「ハラショーッ!!3人とも実に素晴らしい舞でしたなっ!!このゴブロリ感動しましたぞっ!!ゴブ操殿っ!!素晴らしき催し感謝致すっ!!」

 


ゴブ操の表情は変わりない。しかし微妙に口元が緩んでいた。10賢人へと目配せするゴブ操。10賢人から1人立ち上がった。

 


「いやぁ・・・このゴブ彧(いく)も感服してしまいました。次は・・・」

 


バァンッ!!

 


ゴブ彧の言葉を遮るかのように扉が大きな音を立て開く。

 


「ゴブ操殿っ!!このゴブ信も宴に混ぜて頂きたいっ!!左将軍ゴブ順を討ち取ったんだから参加してもよかろうっ!?」

 


そのままゴブ羽達の席へと座るゴブ信。そんなゴブ信の姿を見てゴブ良は厠へと離席する。ゴブ信は恐らくゴブ瑜が送り出してくれた援軍。ゴブ蔵から現在の情報を得るためである。魏軍到着からゴブ蔵はずっと潜伏していたため、ゴブ操らに存在は気づかれていない。

 


「ゴハハハッ!!ゴブ信よっ!!その武勇見事なりっ!!ゴブ操からの贈り物じゃっ!!存分にやれいっ!!」

 


ゴブ操はゴブ信を利用し、兄であるゴブ羽を殺す作戦に切り替えた。ゴブ信が失態を犯せばそれはゴブ羽の責任となるからだ。

 


ゴブ信に出されたもの・・・それはゴブ羽とゴブロリが飲み干したものと同数の酒樽と同数の肉。その数8樽。さらに蟻鳥の生肉が8羽分。1羽分の肉のブロックひとつの大きさは牛1頭に匹敵するほどであった。

 


「えっ!?こんなに食べてもいいのっ!?ゴブ操殿っ!!有り難くいただかせてもらうっ!!」

 


ゴブ操の表情もついに驚愕の表情へと変わる。ゴブ羽、ゴブロリの数倍のスピードで次々に飲み干していくゴブ信。ゴブ羽軍の中で1番食べるのはゴブ信なのである。さらにそのスピードも群を抜いていた。

 


ゴブ操・・・見誤ったな。この末っ子ゴブ信を舐めるんじゃねぇ。こいつの食費だけでどれだけ巻き上げた金が使われていると思いっている。最終的にゴブ信専用家畜場を作らされることになった化け物だぞ。

 


ゴブ良も会場に戻ってきた。目で合図される。何か策があるらしい。ここは素直に乗っかるとしよう。

 


「ごちそうさまでしたっ!!いやぁゴブ操殿うまかったっ!!ってなんだよ兄者・・・めんどくさい酔っ払いになっちまってるじゃねぇか。

 


ゴブ操殿っ!!我が長兄ゴブ羽・・・粗相の恐れがありますので酔いをさまさせてきますっ!!なので少々離席させていただきますっ!!

 


なぁに・・・厠で腹パンして全部出させてしまえばよいのですよっ!!ゴハハハッ!!」

 


「う、うむ・・・あまり兄は虐めるものではないぞ」

 


ゴブ信の勢いに押され、ゴブ操は離席の許可を出してしまう。しかし半刻ほど経っても2人は戻らない。その間、ゴブロリはさらに食べ進めていた。ゴブ良から視線を感じるゴブロリ。

 


なんだよ・・・こっちは兵糧枯らしてやろうと思ってるのに。マナで消化力を強化すればいくらでも食べられるんだよ。まぁしばらく食事は要らなくなるけどな。

 


ん?行けと言っているな。ふむ・・・なるほど・・・ゴブ信は救援にきたわけか。食いしん坊だからがちで食事しにきただけだと思ったぜ。ゴブ信がいるということはゴブ瑜もどこかに待機しているのだろう。ゴブ瑜が機転を利かせてくれたのだなきっと。

 


先ほどのゴブ良の離席はおそらくゴブ蔵と情報を交換し、ゴブ瑜と連携をとるためなのであろう。そしてオレに行けと言っている。つまりは人質として残るから撤退しろ・・・そうゆうことか。

 


ゴブ良の漢気を無下にすることはできないな。死の危険性が高い・・・ゴブ良の命を懸けた策・・・乗ってやろうではないか。弟子の成長を見るのは良いものだな。なんだかんだ定年を迎える以上の人生を送ってきてしまっている。オレも年寄りになったわけだな。

 


ひたすら食べ進めていくゴブロリ。マナによる消化力の強化はもう行なっていない。突然大きな音が会場に鳴り響く。

 


ギュルルルルルゥッ!!

 


それはゴブロリのお腹の音であった。

 


「す、すまぬっ!!ゴブ操殿っ!!腹の調子が悪いっ!!

 


私の胃はところてん方式・・・食べた分だけ押し出されて出てしまう作りになってしまっている。申し訳ないが厠へ行かせてもらうっ!!この場で垂れ流すは一生の恥っ!!ごめんっ!!」

 


「「「「「・・・」」」」」

 


呆気にとられる魏の将兵達。ゴブロリはお腹が弱かった。食べた分だけ出る。故にトイレとお友達であった。

 


ゴブロリも鴻門城から脱出する。ゴブロリは鴻門の会を肛門の怪を使い離脱することに成功した。

 


そして鴻門城の厠はゴブロリの排泄物によって嫌がらせのように詰まっていた。小さいが地味に大きな嫌がらせである。

 


肛門の怪・・・恐るべし。

闇と光 第157話 散りゆくゴブ卓

ゴブ瑜の指揮のもと空からゴブ羽軍が魏の殿へと襲いかかる。地上からは猛将ゴブ信が進撃。残る魏軍の5大将が命懸けでそれを食い止める。ゴブ史慈も加わり、見事に5大将を撃破。

 


ゴブ卓軍は3将軍が燃え盛る炎を斬り裂き退路を確保。そこへ回り込んでいた黑州兵が襲いかかる。3将軍がそれぞれ奮戦。そこへゴブ史慈、ゴブ信の追撃が迫る。

 


ゴブ卓はゴブ布とともに退却。ゴブ遼、ゴブ順はゴブ史慈、ゴブ信とそれぞれ激闘を繰り広げている。どんどん逃げてゆくゴブ卓。そこへ待ったをかけるものがいた。

 


ゴブ操である。虎視眈々と内部からゴブ卓の首を狙っていた男がついに動き出す。ゴブロリの火計成功を読み、ゴブ操は旧海軍を後方へ避難させていた。今が好機と見たゴブ操はゴブ卓より離反。

 


「おのれゴブ操っ!!謀りおったなっ!!貴様ごときにやられてなるものかっ!!」

 


「ゴハハハッ!!ゴブ卓よ。そなたは名将である・・・将としてだけならば優れている。しかし王としての才は備わってはおらぬっ!!貴様の命もこれまでぞっ!!」

 


「父上っ!!ここはお任せくださいっ!!ゴブ操っ!!このゴブ布がいる限り父上には指1本足りとも触れさせぬぞっ!!」

 


「行けぃっ!!ゴブ褚っ!!ゴブ典(てん)、ゴブ艾(がい)とともにゴブ布を葬り去れっ!!」

 


数多の兵に取り囲まれるゴブ布。なんとかそれを持ち堪えている。逃げるゴブ卓。それを追うゴブ操。一方その頃3騎の馬が疾走していた。ゴブ羽、ゴブ良そしてゴブロリである。

 


彼らはゴブ卓が撤退するであろう軍事拠点を先に占領してしまうつもりだった。3人とも大量のマナを使い疲弊している。しかし名だたる将兵赤壁に出払っているため、守備兵くらいならば容易に突破できるであろう。

 


この追撃戦を経て、ゴブ卓率いる魏軍は滅亡することとなる。

 


殿を務めた5大将の討死

 


ゴブ信の手によりゴブ順討死

 


しかし被害を受けたの魏軍だけではなかった。ゴブ遼にゴブ史慈が討ち取られてしまったのである。ゴブ遼はそのままゴブ操軍に合流し離反。それによりゴブ布はなす術なく捕縛されることになる。

 


そしてゴブ卓・・・ゴブ操の巧みな指揮により追い詰められる。さすがの名将ゴブ卓。用兵術が優れていた・・・しかしゴブ操はさらにその上をゆく。散りゆくゴブ卓。彼の亡骸は首都へと移送され、城門から吊るされた。民達からは石を投げつけられ、その体は穴だらけであったという・・・。そしてゴブロリ達は魏軍の巨大駐屯地を奪取。軍事施設を得たことにより妖軍の勢力が拡大する。

 


しかし拠点を奪取して1日後・・・事態が急変する。ゴブ蔵より一報が届く。

 


ゴブ操。新たなる魏を建国。さらにゴブ羽軍の抑えた拠点を奪取するため進軍中。その数30億。赤壁の生き残りすべてが向かってきている。

 


魏軍に対しこちらはたった4人。争えば敗戦濃厚。ゴブ羽軍の緊急会議が行われる。いつもは強気なゴブロリであるが、命唱を使い切ってしまった以上無茶はできない。さらに赤壁でゴブ羽はあわやのところまで追い込まれている。

 


「ゴブ良・・・これは仕方ないよな?」

 


「えぇ・・・そうですね。やはりここはこれでいくしかありませんかね・・・」

 


「よし・・・じゃあ言い訳しよう。占領の意思はない。先に到着して待っていただけだと言い切ろう」

 


「苦しい言い訳ですが・・・逃げても追撃されるだけですからね」

 


「じゃあそうしよう。ここ鴻門城をゴブ操に返すために先に占領して待っていた。

 


いいな?ゴブ羽・・・何が何でも言い訳し通せっ!」

 


「まぁやるだけやってみるけど・・・ダメだったらどうすんのっ!?」

 


「「気合で逃げるっ!!」」

 


ゴブロリ、ゴブ良の出した策・・・それはもはや策ではない。挙げ句の果て、失敗した時は根性で逃げる。適当なゴブ羽軍の味がここにきて存分に出てしまっていた。

 


ゴブ操率いる魏軍が鴻門城へと到着する。城門はすべて開かれていた。そして1人のゴブリンが門の前に立っている。

 


「お待ちしておりましたゴブ操殿。重要拠点を取り返そうと先に占領していた次第・・・貴殿にお返し致します。お受け取りくだされっ!!」

 


「ほぅ・・・有り難く頂戴しよう。ならば宴を開こうっ!!勝利の宴じゃっ!!ゴブ羽殿もご参加いただけるかな?是非とも新生魏軍の星下を祝ってもらいたいものだ」

 


「共に城を落とした配下2名も一緒にお招き頂いてもよろしいですかな?」

 


「構わぬよ・・・とびきりの旨いものを用意してやろう。貴殿らの労をねぎらわねばならぬからな」

 


物陰から3人はその様子を見ていた。ゴブ羽は今丸腰なのである。戦闘になった際にはすぐ様助けなければならない。そしてうまくやっているかどうか気が気でならなかったのだ。

 


「先生・・・」

 


「あぁ・・・確実に罠だな」

 


「しかし兄上・・・ファインプレイです。我々も参加することができる」

 


「まだ打開の余地はあるはずだ・・・なんとかするしかあるまいな」

 


鴻門城にて宴が開かれようとしていた。それはまるでかつて行われた鴻門の会のようである。しかし状況がまったく違う。項羽劉邦暗殺を踏み出せずにいた。一方ゴブ操は自ら暗殺に乗り出そうとしている。

 


魏軍は軍議にて既にゴブ羽の抹殺を決定している。魏軍の星下を阻むものは妖軍・・・もはやゴブ羽軍しか残されていない。

 


3人以外はすべて敵である。彼らはこの危機を無事に乗り越えることができるのであろうか。

 


ゴブ羽軍の現在の兵力は約10億。仲間が到着するまでにはまだ時間がかかる。ゴブロリとゴブ良は話し合ったが結局何も思い浮かばない。結論としては得意の即興でなんとかするということになった。魏軍が鴻門城に到着する前となんら変わりない。使えない頭脳達である。

 


逆にゴブ羽は堂々としている。さすが元脳筋と言ったところだろう。何も考えずにきたのでこっちの方がやはり気楽なようだ。そうこうするうちに宴の準備が終わってしまう。

 


ゴブ羽ら3人は案内され会場へと向かって行く。会場には各将兵さらには猛将ゴブ遼、ゴブ褚の姿もある。また10賢人も同席していた。彼らはかつて曹操の抱えた名軍師達の名を継承しているようであった。

 


当然のことながらゴブ操が上座。ゴブ羽らは対面の末席に座らされている。

 


「先生っ!!これ美味いなっ!!」

 


「ほんとうめぇなっ!!レシピ教えてくれないかな?嫁にも作ってもらいたいっ!!

 


あぁぁぁっ!!ゴブ羽っ!!それオレのっ!!」

 


「教えてもらったじゃんかよ。戦は先制攻撃が重要なんだぜ先生?ここは食事という名の戦場だ」

 


「ゴブ羽には負けていられんっ!!どっちがいっぱい食べれるか勝負だゴブ羽っ!!」

 


「ゴハハハッ!!我が師よ・・・王に勝てるとでも思ってるのかっ!?」

 


「ゴハハハッ!!よいぞっ!!存分にやれっ!!馳走ならいくらでもあるっ!!満足するまで食べるがよい・・・」

 


「はぁ・・・何やってんですか・・・兄上に先生。こんなことしている場合じゃないというのに・・・」

 


悪意渦巻く宴にてゴブ羽とゴブロリの大食い合戦が始まった。そんな2人を見てゴブ良は1人頭を抱える。魏軍は見世物であるかのように2人を見物し、笑みを浮かべながら騒いでいる。軽い笑みを浮かべるゴブ操。これは冥土の土産。ゴブ羽に最後の晩餐を振る舞うつもりであった。

 


ゴブ操率いる元海軍だけではゴブ卓打倒はなし得なかった。ゴブ羽軍がいたからこそ成功したのだ。だからこそそんなゴブ羽達を最大限ねぎらいそして・・・息の根を止める。すべてはゴブ操の思惑通りにことが進んでいた。

闇と光 第156話 蒼き赤壁の地

変態貴公子は相変わらず華麗にシャカシャカと舞っている。その様子を魏軍の斥候兵が見ていた。

 


「伝令っ!!ゴブ羽軍の影の総大将ゴブロリご乱心っ!!風向きを変えるため意味のわからぬ言葉を発し祈祷しておりますっ!!」

 


「ゴハハハッ!!頭でも逝かれてしまったのか?悪逆非道の申し子・・・神算鬼謀の名宰相ゴブロリといえどもこの状況は覆せぬと見た。我が軍の威光に屈してよもや祈祷とな・・・笑いが止まらぬのぉゴブ操よ」

 


「ゴクククッ・・・このような奇行に走るとは・・・買ってはいたのだがな・・・ゴブロリも地に落ちましたな。赤壁の風は常に北西の風・・・祈祷したところでどうにもならぬよ。

 


風向きを変えるということは火計を狙っていますな。火計が成功したら我が軍は大打撃・・・しかしそれは万に一つもない。では夜襲もなさそうなので失礼しますゴブ卓様」

 


1人になったゴブ操は赤壁の空を眺めていた。空には蒼き月が見える。

 


「・・・風向きを変えるのは不可能だよ。しかし可能性は0ではない。だから期待してるよゴブロリ・・・我と同じ匂いのする者よ・・・おそらく別の狙いがあるのであろう。かの月のごとき蒼き炎で軍勢を潰してみせよ」

 


魏軍の中でゴブロリの評価は高かった。ゴブ羽軍の中で最重要危険ゴブリンとされている。すべてはゴブ操の発言によるものであった。ゴブ操は見ていた・・・ゴブ紹を盟主へと推挙の声を上げたのがゴブロリであることを・・・。

 


さらに様々な快進撃もすべてがゴブロリによるものである。これがゴブ操の推察なのだ。ゴブロリは影に徹していると思い込んでいるがその実、情報遮断がガバガバだった・・・わかるものには知られている。そして蜀ついで呉の滅亡も魏軍の耳に入っていた。合流してくるであろうゴブロリの動きを最も魏軍は警戒していたのである。ゴブ卓が出陣したのもこのためであったのだ。

 


そのゴブロリは未だに祈祷を続けていた。地鳴りの鳴り響く中、1人のゴブリンがゴブ羽のゲルを訪れる。中には数名のゴブリンがいた。

 


「ゴブ羽よ。ゴブ馬俑で10億の兵を出しておいてくれ。敵に悟られたくない」

 


「・・・相変わらず無茶を言うな先生。任せてくれ。でもそこまでのクォリティーは出せないぞ?」

 


「どうせ敵陣からは見えない。数さえあれば問題ない。ゴブ策・・・ゴブ良・・・手筈通りに」

 


「「御意っ!!」」

 


「ゴブ瑜・・・この戦の指揮はお前がとるしかない。任せたぞ?」

 


「お任せくださいっ!!ゴブ卓軍に必ずや大打撃をっ!!」

 


「ゴブ史慈・・・まともに動ける将はお前しかいない。その武勇期待しているぞ?」

 


「その責・・・任されましたぞっ!!」

 


「ゴブ信・・・それでは行こうか。敵陣のど真ん中へっ!!」

 


「ま、ま、まかせろっ!!」

 


「緊張しなくていい・・・普通にしてれば勝手に成功する」

 


「普通でいいのっ!?なんだぁ・・・気を張って損したぜ」

 


祈祷台にいるゴブロリはゴブロリゲンガー。旧蜀軍兵はゲルで寝ている。旧呉軍兵は遥か上空へと舞い上がる。黑州兵は地鳴りを鳴らすためゲルで愛し合っている。エリート黑州兵はゴブ瑜の指揮下へと入る。

 


深夜2時。ゴブ羽軍がその時・・・動き出した。

 


一艘の小舟が赤壁の海に浮かんでいる。白旗を掲げ2人のゴブリンが乗っていた。1人は拘束されている。もう1人は舟を魏軍の舟へと舵を取り1人で舟を漕いでいる。

 


「伝令っ!!夜分に失礼致しますっ!!ゴブ羽軍の陣より白旗を掲げた小舟が一艘近づいております。偵察兵の報告によりますと乗っているゴブリンは2名。

 


拘束されているのはゴブロリ。そして舟を漕いでいるのは歴戦の猛将ゴブ信であります。なおゴブ羽軍の兵士に動きはまったくありません。相変わらず地鳴りを鳴らしております」

 


「・・・全将兵を集めよっ!!至急軍議を開くっ!!」

 


ゴブ卓の号令により慌ただしく軍議が開かれる。最重要危険ゴブリンがこっちに向かってきている・・・それも拘束された状態で。軍議が進む中、ゴブ操とその配下10賢人。彼らの意見が採用されることになる。

 


いかにゴブロリ、ゴブ信といえどもたかが2人。全将兵の攻撃の前では何もできない。本陣へ招いて話を聞く。ゴブロリの奇行に耐えきれずにゴブ信が本当に投降してきた可能性すらある。

 


ゴブ信が軍門に降るというならば魏軍は喜んで受け入れるであろう。それだけゴブ信の武勇は優れている。それに本陣へと招いてしまえばゴブ信といえども逃さず討ち取れる。故に2人を招き入れる結論に達した。

 


着岸した小舟より2人が現れた。ゴブ信によってゴブロリが引きずられながら本陣へと向かっている。

 


「てめぇこの腐れ脳筋っ!!何しやがんだっ!?祈祷しているところをいきなり拉致しやがって何のつもりだっ!?」

 


「・・・」

 


騒ぐゴブロリ。そして無言のゴブ信。魏軍の兵に案内されゴブ卓の前に連れて来られる2人。

 


「ゴクククッ!!よくぞ参った・・・ゴブ信そして・・・ゴブロリよっ!!」

 


「あんっ!?別に来たつもりはねぇよっ!!このむっつりゴブ信が勝手に連れてきたんだっつーのっ!もうちょっとで風向き変わるとこだったのに何してくれてんだこの脳筋っ!!」

 


「・・・」

 


え・・・何こいつ・・・がちで緊張して話せてねぇ・・・まぁしょうがないから何とかしてやるよ。

 


「ゴハハハッ!!久し振りであるな・・・ゴブロリよ。ゴブ卓様との戦以来であるか?祈祷などという奇行に大方・・・愛想を尽かされたのではないのか?よもや祈祷などで本当に風向きを変えれるなどとは思っているまいっ!?」

 


「おうおうっ!!そこにいるのは民達の裏切り者のゴブ操さんじゃありませんか・・・我が祈祷に不可能はないっ!!私には星がついておるっ!!

 


・・・でもう1人の裏切り者は何で黙ってんだっ!?・・・はん?オレの祈祷の意味がわからなかった?敗戦濃厚だったし寝返った方が未来がある?それにオレへの日頃の怨みだぁ?

 


人に通訳させておいて何言ってんだこのむっつり野郎っ!!」

 


ゴブ信の体を体当たりで吹き飛ばすゴブロリ。起き上がったゴブ信がゴブロリの体を投げ飛ばす。

 


「いい加減にしてくれっ!!先生にはもう付き合ってられないっ!!こっちにいた方が兄者と本気の喧嘩もできるし楽しいだろうがよっ!!先生はそのための手土産だよっ!!」

 


やれやれ・・・ようやく話し出したか。体動かさないとダメなのかね・・・脳筋というやつらは・・・。

 


「ってぇなコラっ!!先生に暴力振るうと退学になっちまうんだぞっ!?まぁ殴られる無能な教師が悪いんだけどな。

 


ゴブ操っ!!答えを教えてやろうっ!!起こすものなんだよっ!!

 


さぁ答え教えてやったから黙って見てろよっ!!どうせオレは殺されるっ!!だが・・・その出来の悪い弟子だけは許せねぇ・・・この有能なる先生ことゴブロリが・・・仲間を裏切るという恥ずべき行為を正してくれるわっ!!

 


てめぇも道連れだゴブ信っ!!かかってこいやっ!!」

 


「・・・ゴブ卓様っ!!我が師の首を魏軍最初の武功としてお届けしましょうぞっ!!」

 


「・・・起こすものとはいったいどのようにして・・・」

 


「ゴブ操よ。そのような戯言に耳を貸すではない。お前の評価は間違っておったのぉ・・・所詮ゴブロリはその程度のゴブリンよ。

 


ゴブ信っ!!その武勇・・・存分に見せてみよっ!!ゴブロリの首をとれぃっ!!」

 


ゴブロリに向かって黑槍を突き出すゴブ信。ゴブロリは体中の骨をポキポキと鳴らしている。ゴブロリの手の中に闇が生じ、双鞭刀が転移してきた。2人が見つめ合う。

 


「命唱。我はゴブ信。億夫不当の豪傑なり」

 


「命唱。我はゴブロリ。妖精の星の使徒なり」

 


2人のマナが急速に高まっていく。2人の武器が激突する。その瞬間2人を中心に風が吹き荒れ、バトルフィールドが形成されていく。2人の斬撃の衝撃波が遥か上空へと舞い上がる。2人とも絶理命唱状態になったのだ。合図を受けゴブ羽軍が動き出す。

 


デキウスの力によりゴブリン同士ではバトルフィールドは発生しない。ゴブリン達はバトルフィールドを知らないため、思考の裏をつくことに成功する。

 


「策っ!!今ですっ!!」

 


「おぅっ!!やってやんぜぇっ!!」

 


ゴブ策から赤壁の地を呑み込んでしまうほどの巨大な蒼炎が放出される。

 


「今が好機っ!!ゴブ羽軍全軍出陣せよっ!!敵の退路を断つのですっ!!」

 


さらにゴブ良より強烈な風が放出される。ゴブ策の炎が追い風を受け加速した。巨大な蒼炎がバトルフィールドへ向かって物凄い勢いで吸い込まれていく。敵の船を次々に焼き払う。魏軍の陣営に阿鼻叫喚の悲鳴がこだましていた。

 


電光石火の連携。瞬く間に魏軍の陣営は炎に包まれていく。前方の海に浮かぶ魏軍の船艇すべてに火が回る。

 


「・・・っ!ゴブ卓様っ!!ご退却をっ!!

 


5大将っ!!殿は任せたぞっ!!

 


3将軍はゴブ卓様の退路を確保するのだっ!!」

 


迫り来る炎を見てゴブ操が直ちに指示を飛ばす。その指示を受けゴブ卓がハンドシグナルのみで軍勢を指揮する。後方へと退却していくゴブ卓。しかしその進行方向より突如として飛来するものがあった。

 


それは旧蜀軍兵の姿。しかし彼らは寝ている。ゲルで就寝中のところをゴブ馬俑と入れ替えたのだ。ゴブロリが捌界状態となり予めゴブ卓軍の遥か後方へと転移させていた。その数10億。それを悟られないためにゴブ羽は大量のマナを使い10億もの兵を出現させている。

 


旧蜀軍兵がゴブ卓軍に着弾すると同時に爆発が巻き起こる。ゴブロリが以前仕込んでおいた体内のマナを暴発させ、さらにそこから蒼炎を生成。絶理命唱の制限時間は1分。その間にすべてのゴブリンを転移させなければならない。さながらゴブリン爆弾のゲリラ豪雨。瞬く間に炎により退路が断たれてゆく。

 


「恐怖によって付き従ったものは・・・より大きな恐怖を経験すればまた簡単に裏切る。故に・・・ゴブ羽軍には必要ない。使えるうちにその命・・・星平定のために有効活用してやるよ・・・ゴヒャハハハッ!!

 


ゴブ信っ!!将軍の1人くらいぶっ潰してこいよっ!!てめぇセリフ忘れたんだから首とるまで戻ってくるの禁止なっ!!」

 


「ゔっ・・・それは忘れてくれよ先生。けど・・・そっちの方が簡単だぜっ!!やってやんよぉっ!!」

 


この日・・・赤壁の地が蒼く染まった。そして猛将ゴブ信の追撃がゴブ卓軍に迫る。さらにゴブロリはこの日・・・すべての命唱を使い切ってしまった。果たしてこの先命唱なしで乗り切ることができるのであろうか。

闇と光 第155話 変態祈祷師

ゴブ羽に追撃の手が迫る。先に抜け出してきたゴブ淵がどんどん距離を縮めてくる。ゴブ淵の弓の射程範囲に入ってしまったようだ。矢が次々に射られてくる。

 


ゴブ美が銃で応戦。多乗命唱でのフルパワーでようやく相殺することができている。既に多界命唱の制限時間は過ぎていた。

 


ゴブ淵との距離が500メートルまで詰まる。その時ゴブ淵が突然落馬した。

 


「兄上っ!!早くこちらへっ!!」

 


ゴブ良である。遠距離真空波を放っていたのだ。さらにゴブ蔵率いる黑兎馬部隊、黑州兵もゴブ羽を覆い隠すように前に進軍している。

 


「・・・機を逸したか」

 


「ゴブ遼よ。ここは退くしかあるまい・・・もう日が沈む。夜戦の覇王相手では分が悪い。寡兵で勝てる相手ではないな」

 


ゴブ良の増援を確認し、退却していく魏軍。この日の闘いで両軍ともに将を失っていた。しかし層の厚さでいえばゴブ羽軍の損害の方が大きい。

 


ゴブ羽は涙を流していた。己のせいで仲間を失ってしまったことに・・・ゴブ羽の8人の妻達がゴブ羽を叱責し、そして慰める。傷ついた心を癒せるのは妻達しかいないのである。

 


ゴブ羽という強力な援軍を得たものの、戦力の低下が大きい。ゴブ良の指示をよく聞き、連携した動きで何とか盛り返すゴブ羽軍。しかし着実に兵力は削られていった。

 


ゴブ羽合流から1週間・・・兵力は両者ともに減っていた。ゴブ羽軍20億。魏軍40億。魏軍は将を失ったことにより将を温存してきたのである。その結果一般兵の削り合いに戦況は変わっていた。そんな中ゴブ蔵が騎乗したまま本陣に到着する。

 


「ご報告でやんすっ!!ゴブ卓自ら兵を率いて出陣。その数40億。ゴブ布も従軍してるでござる。さらにゴブ布自ら練兵したとされていた真紅の精鋭部隊500騎も従軍している模様。実力は未知数ですが警戒が必要でありんすっ!!まもなく敵軍に合流完了」

 


「半分まで減らしたかと思えば元通りですか・・・こちらの兵は20億。最初より状況が悪いですね。しかもさらに敵軍が強化されたとなると・・・退却戦を仕掛けるしかないですかね・・・」

 


「ゴブ良がそう言うならばオレは構わん。蜀との戦のように拠点を放棄しながら撤退するか?」

 


ゴブ羽は自身を生き長らえさせるために犠牲となった仲間達の哀しみを乗り越え成長していた。もはや脳筋と呼ばれるゴブ羽ではない。王への階段を登っていくゴブ羽。ゴブ羽軍はこの状況を跳ね返すことはできるのだろうか?

 


「緊急につき失礼致しますっ!!」

 


「その翼は・・・?ゴブ策軍の伝令か?とりあえず申せっ!!」

 


「ゴブ策軍11億。4時間後にこちらに到着致します。さらにゴブロリ殿より伝言。ご飯11億人分準備しといて。でありますっ!!」

 


「はいはい・・・じゃあ私も手伝ってくるわ。・・・ったく伝言でご飯準備しろってどういう状況なのよっ!!わざわざ伝えるほどのことかしら・・・まぁ・・・久しぶりのゴブロリだしぃ・・・気合いれちゃうけどね」

 


「「「「「先生っ!!私達も手伝いますっ!!」」」」」

 


ゴブ美とゴブ妻達は調理場に急行する。料理部隊とともに彼女達の戦場は厨房へと変わってゆく。

 


「おっ!先生が無事合流して呉とゴブ備を叩き潰したようだな。これでゴブ羽軍揃い踏みか。しかし合わせても31億・・・兵力差は倍以上か・・・ゴブ良・・・なにか手はあるか?」

 


「・・・」

 


「ゴブ良?」

 


ゴブ良はゴブロリの伝言について考えていた。まもなく日は暮れようとしている。普通なら夜営をするはずである。ましてゴブ羽軍は夜営を重んじる・・・それをしないということは休息をとらずに向かってきている?

 


しかし食事は行軍しながらでもとれるはずである。本来であればゴブ羽軍は調理したものを食べる・・・急いでいたとしても・・・加工品で代用しているはずだ。それをわざわざ準備しろとはいったい・・・。

 


何故急いでいる?私の力不足は認めよう。救援するために急いでいる・・・それもある。だがそれならばご飯の準備などはついてからでもよいはずだ・・・。

 


・・・!いや・・・まさか・・・しかし先生ならあり得る。それならば私の取るべき行動はただ1つ・・・策を練ることだっ!!

 


「兄上っ!!全軍に通達。今夜は早めに夜営に入ります。敵はどうせ攻めてきません。ただ早めの夜営だからといって愛せる時間は短くなるかもしれない。そして今宵の夜営を最後に禁愛令を出してください。解除時期は追って通達しますっ!!」

 


「えっ!?オレもゴブ良も相手いないじゃん!?どうすんだよっ!?」

 


「真面目に休息してください・・・おそらく先生は深夜から明朝の間に魏軍に戦を仕掛けるはずです」

 


「・・・わかった。ならば言う通りに休ませてもらう」

 


この日ゴブ羽軍に禁愛令が発令される。ゴブ羽軍の古株達は異常事態であることに気づく。なぜなら1度も発令されたことがなかったからだ。しかしそんなことよりもしばらく味わえない妻や彼女達と愛し合うことの方が重要であった。鬼気迫る空気がゴブ羽軍の中に流れる。

 


「ゴブ良様。愛天地人の精鋭部隊も到着した模様です。旧蜀軍残党狩り完了との由。彼らはどうしますか?」

 


「すぐに食事をとり休息させなさいっ!!休めるうちに休まなければこの先休めないかもしれませんよ」

 


「ゴブ良様っ!!ゴブ策軍が着陣しましたっ!!」

 


「すぐに行きますっ!!」

 


ゴブ良は慌ててゴブ策軍の元へと急いだ。ゴブ策軍が何かを建設し始めている。

 


「これはいったい・・・」

 


「おう良兄っ!!生きてまた会えたなっ!!」

 


熱い抱擁を交わすゴブ良、ゴブ信。

 


「ゴブ良っ!!ゴブ羽を呼んでこい・・・軍議だっ!!

 


あっ・・・ゴブ信は主役だから休んでていいぞ。それと建設班以外の飛行部隊にも休息をとらせろっ!!」

 


「えっ!?悪いなぁ・・・でもなんて言ったって主役だからなぁ。ずっとお預けだったから燃え上がるぜぇぇぇぇっ!!華と異をたっぷり可愛がってくる」

 


ゴブ信は行軍の数倍の速さで消えていった。

 


「先生っ!!よくぞご無事でっ!!策っちに瑜ーちゃんも・・・ゴブ史慈殿も・・・もう1人たりとも仲間は失いたくない・・・」

 


ん?ゴブ羽のやつ・・・雰囲気が変わったか?漢としての風格が上がった気がする。・・・ゴブ超の姿がない。獣魔達もいないか・・・ゴブ美のマナは感じるな。まぁ最悪の事態にならずによかったと思うしかないな。

 


「先生。現状で魏軍は密集陣形。打ち崩すとしたら火計しかありませんが・・・この赤壁・・・つねに風向きは北西からの逆風です。私の頭では打開策は見出せませんでした・・・申し訳ありません」

 


ゴブ良の目から大粒の涙が流れている。自身に力がないせいで仲間を死なせてしまった。そして戦況も初期より悪いものにしてしまった。ゴブ良は後悔と自責の念に押し潰されそうになっている。

 


「いや・・・よく持ち堪えたっ!!仲間が死んだのはゴブ羽のせいである。どうせ調子に乗って突っ込んだのがいけないんだろ?敵の戦力を見誤った王の失態だ・・・まっ!本人が1番よくわかってるようだがなっ!

 


ゴブ羽っ!言いたいことはあるかっ!?」

 


「オレのせいでゴブ超達は命を落とした・・・オレにできることは一刻も早くこの星を平定することだっ!!彼らの無念はこのオレがすべて背負って生きて行くっ!!」

 


「ゴクククッ・・・なら言うことはないなっ!!死んだ者への悲しみを抱くのは愛が足りていない。死という安寧の地へ旅立った仲間を祝福し・・・その者達の思いをすべて背負い成し遂げる・・・それが死者への愛だ。

 


そしてゴブ良っ!!オレも同意見だっ!!火攻めしかないと思う。兵力が多過ぎて密集し過ぎているからな。よって火計を行う」

 


「しかし・・・火を放てば我が陣に向かって侵攻してきますよ?」

 


「ゴフッフッフー!そのためのあれだっ!!」

 


ゴブロリの指差した先には巨大な祈祷台が出来上がっていた。

 


「・・・?何をなさるので?」

 


「天に向かってお祈りするんだよ。東南の風を起こしてくださいってな。

 


ゴブガードっ!!ゴブ蔵っ!!オレの祈祷を魏軍に盛大に広めろっ!!敵首脳陣の耳にちゃんと入るようにな?

 


それからゴブ羽、ゴブ良、ゴブ策はただちにマナを研いでおけっ!!そして内に貯めておけ・・・扱き使うから覚悟しろよ」

 


「御意っ!!・・・風向きを変えるのには無茶がある・・・先生には何か別の狙いがあるのか?ぶつぶつ・・・」

 


「任せろロリ先っ!!フルパワーを見せてやるぜっ!!」

 


「おうっ!!ところで先生・・・天に向かって祈ったとして風向き変わるのか?」

 


「ゴハハハッ!それは天のみぞ知るってことだな。ところでゴブ羽よ。本気で扱き使うからできなかったらお仕置きな?」

 


「げっ・・・真面目に集中してくるわ・・・」

 


ゴブロリは以前ゴブ角になりすました時に着ていた怪しげな導師服を身に纏う。そして祈祷台へと上がっていく。その手には大幣が・・・それもなぜか両手に持っている。大幣とは神主や巫女が使う木に紙のついたあれである。ゴブ美用に大量に持ち込んでいた夜の衣替えの小道具がここにきて役に立ったのか・・・?

 


「はぁぁぁっ・・・東さんと南さんこんばんは。そっちから風をビューンってきてください!南無阿弥風さんこっちにおいでよぉぉぉっ!!」

 


ゴブロリは意味のわからない言葉を発していた。そして祈祷台を縦横無尽に駆け回りながら、大幣二刀流でマラカスのようにシャカシャカと振り回している。

 


側から見れば走り回る変質者にしか見えなかった。その光景を見たゴブ羽軍の将達は絶句したという・・・そして全員が顔を見合わせる。

 


「「「「「なにやってんのっ!?あの人っ!?」」」」」

 


しかし悲痛なる叫びも変質者には届かない。

 


「風さんっ!!ていっ!!こっちからそいっ!!」

 


この光景をゴブ美も見ていた。

 


「久しぶりに会えるっていうのに遊んでるし・・・ホントふざけるの好きよね。テーマは変態祈祷師かな?いやゴブロリがやってるから変態貴公子ね。ふふっ・・・遊び終わったら食べると思うから愛情たっぷりのゴブロリ用のご飯いっぱい用意しておかなくちゃっね」

 


変態の嫁であるゴブ美・・・旦那への耐性もまた変態レベルなのであった。

闇と光 第154話 赤壁の闘い

ゴブ良の元へゴブ羽が援軍として合流した。僅か1週間足らずの合流に驚いている暇すら今のゴブ良には残っていない。淡々と状況を話す。ひと月維持するビジョンが浮かばなかったゴブ良にとって天から降ってきたような助け舟であった。

 


「ならば救援に向かうっ!!良いな?ゴブ良っ!?」

 


「兄上っ!!待ってくださいっ!!おそらく兄上でも辛い闘いになるかと思われます・・・それに総大将自ら救援など・・・」

 


「蜀との闘いはその総大将自ら単騎で籠城して単騎で追撃したんだぜ?今更だよなぁ・・・そんなもん」

 


「・・・先生っ!?総大将になんてことさせてんだよっ!?敗北条件を前線に突っ込ませるとか逝かれてる・・・あぁ・・・兄上がこうなったらもう言うことは聞きませんね。ゴブ超殿っ!!ゴブ吉殿、ゴブ子殿、ゴブリー殿とともに救援をお願いしたいっ!!ゴブ蔵殿は周囲の警戒をお願いしますっ!!ゴブ美殿は待機をっ!!あなたに何かあっては先生に顔向けできません・・・」

 


「私も行くわっ!!守られるだけの女なんて勘弁よ。私はゴブロリの隣に並んで立ちたいのよっ!!」

 


「ねぇあなた?先生を行かせてあげて」

 


「あとで私達があなたをいかせてあげるから・・・ね?」

 


「わかった!!でも無理はしないでくださいゴブ美様っ!!」

 


ゴブ英、ゴブ姫の誘惑の前にあっけなく手の平を返すゴブ良。彼女達はメロメロの旦那をうまく誘導する方法をゴブ美から手解きを受けていた。チョロい師の弟子もまたチョロかった・・・。

 


黑州兵伏兵部隊への救援部隊は出陣した。果たしてゴブ羽は味方を助け出すことができるのだろうか・・・。

 


「ゴブ瑜っ!!向こうに着いたらすぐに祈祷台を建設せよっ!!2時間でやれっ!!」

 


「御意っ!!しかし何をなさるのですか?」

 


赤壁は天然の要害となる内海・・・風はつねに我が軍に向かって吹いてくる。だからオレが祈祷して逆風を起こすという奇行に走る。それを敵軍に広めさせる。そこからはゴブ策にも協力してもらいたい」

 


「おぅよっ!!任せろロリ先っ!!」

 


「ゴブ信っ!!そわそわするなっ!!お前はいつも通りでよいっ!!しかしお前が1番重要なポジションだ。主役だぞ?心せよっ!!」

 


「えっ!?ホントにっ!?任せろっ!!燃えてきたぜぇぇぇぇっ!!」

 


「燃えるのはいいけど急ぎながらやれっ!!ゴブ羽を援軍に向かわせたのはいいが・・・出過ぎなければよいのだがな・・・展開次第ではゴブ羽の首が危険だ」

 


ゴブロリの一言により空気が張り詰める。ゴブロリは懸念があった。ゴブ羽の脳筋度合についてだ。いかにゴブ羽といえども魏軍の猛将を複数相手にするのは無理である。それがゴブロリのひいき目なしの評価であった。そして赤壁ではゴブロリの懸念が現実のものになっていた。

 


「ゴブ羽っ!!覚悟せよっ!!このゴブ遼がその首貰い受けるっ!!」

 


「総大将自ら出てくるとは片腹痛し・・・その愚行が己の首を絞めていることをこのゴブ順が教えてやろうっ!!」

 


救援にかけつけたゴブ羽はゴブ布に匹敵する武勇ゴブ遼。そして攻め入った陣は必ず陥とす鬼のゴブ順。2人の猛将に押されていた。

 


「くっ・・・強ぇな・・・ちっ!またきやがったか・・・」

 


増援に駆けつける5大将・・・ゴブ淵(えん)、ゴブ仁(じん)、ゴブ徳(とく)、ゴブ供(こう)、ゴブ進(しん)。徹底的にゴブ羽を狙いにきている魏軍。敵軍の総大将が目の前にいる。それは当たり前のことであった。ゴブ羽が攻撃を捌ききれずに体に傷を受けていく。

 


「やらせないわよっ!!ゴブ羽を守ってっ!!」

 


ゴブ羽への攻撃をカットするゴブ美。ゴブ吉、ゴブ子、ゴブリーも増援に駆けつけている。4人とも多界命唱を重ね全力である。総大将の危機に温存している場合ではない。しかし魏軍の将を1人たりとも打ち倒すことができない。

 


「ちょろちょろと目障りなっ!!お前から散れっ!!そこの女ぁぁぁぁっ!!」

 


ゴブ遼の鋭い斬撃がゴブ美に襲いかかる。ゴブ美はその時死を覚悟した。

 


ガキンッ!!

 


ゴブ遼の攻撃を受け止める者がいた。ゴブ超である。黑州兵の撤退を完了させたゴブ超が戻ってきたのだ。

 


「ゴブ美殿・・・ゴブロリ殿へお伝えください。あなたの語ってくれた夢のような世界・・・必ずや成し遂げてくだされと。・・・どうやら共に見ることは叶わないようだ。

 


我が名はゴブ超っ!!これより一世一代の晴れ舞台っ!!我が最後の勇姿とくとその身に刻めっ!!魏軍よっ!!」

 


ゴブ超がスパーキング状態に変わる。さらに生命力をマナに変換させたようだ。爆発的にゴブ超のマナが高まる。ゴブ遼が吹き飛ばされていく。ゴブ超の隣へ並ぶ3つの影。

 


「あるじのことは頼んだよっ!!美貴ちゃんっ!!」

 


「ここは任せてくださいっ!!ゴブ羽を必ず連れて帰ってねっ!!美貴ちゃんっ!!」

 


「血をよこせぇっっっ!!まだまだ足りないんですのよぉぉぉぉぉっ!!」

 


1匹ほど血に飢えた獣が混じっている・・・すべてはゴブ羽を逃すため・・・あるじの第2エリア攻略のために命を懸ける獣魔達。ちなみにこいつらはマイルームに戻されるだけである。死ぬことはないのだがノリノリでやっているのであった。

 


配下の鳥ゴブ達とともに殿となるゴブ超達。しかしゴブ羽は退却しようとはしなかった。

 


「ゴブ羽っ!!退却するのよっ!!」

 


「ゴブ美姐さん・・・王たるもの民が逃げ切るまでは闘わなければならない。漢には引けない闘いがある・・・だからオレは闘わないといけないっ!!」

 


「ゴブロリから聞いていないのっ!?王たるものは仲間の思いを受け止めないといけないのよっ!!突っ走るだけじゃ誰もついてこないのよっ!!今は引く時よっ!!彼らの思いを無駄にする気なのっ!?あなたを失っては星下をとれない・・・この星の王はあなたしかいないのよっ!!」

 


「・・・申し訳ないっ!!オレは生きるっ!!必ずや魏軍を討ち倒し星下を獲ってみせるっ!!」

 


ゴブ美の言葉を受け、ゴブ羽は退却を決意する。

 


「そうですかとやらせるわけはあるまいっ!!」

 


すぐそこまでゴブ順の攻撃が迫っていた。ゴブ美が体を盾に攻撃を受け止めようとする。弾き飛ばされるゴブ順。

 


「誰が通ってよいと言ったっ!?このゴブ超がいる限り・・・我らが王に触れられると思うなよっ!!下郎がっ!!」

 


配下の鳥ゴブ達が次々に倒されながらも猛攻を耐えしのぐ獣魔達。しかしその数はどんどん減っていく。ゴブ羽に肩を貸しながら朱愛に跨りともに退却するゴブ美。3キロほど後退することには成功した。

 


ゴブ吉、ゴブ子、ゴブリー討死。しかし3匹とも意地でゴブ仁、ゴブ供、ゴブ進と相討ちにまで持っていく。

 


ゴブ超は立ち尽くしていた。その胸にはゴブ遼、ゴブ順の武器が突き刺さっている。ゴブ超の槍もまたゴブ徳の胸に突き刺さっていた。

 


「敵ながら天晴・・・しかしゴブ羽の首は貰い受けるぞっ!!ゴブ順っ!!」

 


「ああっ!!この好機逃してなるものかっ!!全軍ゴブ羽への追撃を開始するっ!!全速力で突っ込めっ!!」

 


ゴブ超は死にながら立っていた。弁慶の如きその死に様。決して語られることはない。しかし彼の思いはゴブ羽にしかと引き継がれていく。

 


ゴブ超赤壁の地に死す。

闇と光 第153話 砕かれる器達

両軍激突する。それぞれが死に物狂いで闘っていた。

 


「てめぇなかなかやりやがるなっ!?」

 


「当たり前だっ!!ゴブ信っ!!よく見ろっ!?オレだっ!!本物同士が闘ってんだからなっ!!空気読めっ!!この脳筋っ!!」

 


「なんだ先生かっ!?やっぱり先生とやるのはおもしれぇっ!!少ない闘気でよくもここまで抑え込める・・・今日こそは1発いれてやらぁっ!!

 


くらえっ!!龍水閃っ!!」

 


「末っ子脳筋っ!!相手がちげーよっ!!あほっ!!」

 


本物のゴブロリとゴブ信はなぜか闘っていた。ゴブ信のターゲットが歯応えのないゴブ備軍から真のゴブロリへと変わってしまったのだ。脳筋というものは時と場合を選ばないのが玉に瑕である。

 


「あっ!?ちくしょうっ!!逃げやがったな先生っ!!その闇になるやつ卑怯だかんなっ!!」

 


ふぅ・・・危ねぇ・・・本気でぶっ放しやがったなあの野郎。まぁ巻き添えで結構死んだからいっか・・・脳筋には付き合ってらんないわ。拾乗状態とはいえ、ゴブ信の一撃をもらってしまうものなら死んでしまう。またしてもこいつのせいでゲームオーバーになるところだった・・・何度こいつの先駆けからの流れで殺されたことか・・・さて命唱の時間もない・・・あいつだけは始末しておかなければ・・・。

 


「おいおい・・・どうなってんだこりゃ?」

 


「ゴブロリ殿とゴブ信殿が闘っていますな・・・それもなぜか大量に・・・」

 


困惑するゴブ策とゴブ史慈。目の前で味方であるはずの2人が争っている。しかも大量の数が・・・この光景を見ればそれも無理のないことであろう。

 


「ゴフフフッ!!どうせゴブロリ殿の仕業でしょうっ!!全軍ゴブロリ及びゴブ信に突撃せよっ!!皆殺しで構いませんっ!!」

 


「おいおいっ!?それでいいのかよっ!?」

 


「大丈夫ですよっ!!強いのが本物のゴブロリ殿とゴブ信殿ですっ!!この程度でやられる2人ではありませんよっ!!弱い敵から狙いなさいっ!!」

 


「「「「「ゔぉぉぉぉっ!!」」」」」

 


ゴブ策軍の兵士達もスパーキング状態へと変わる。彼らの合流によりさらに戦場が混迷としていく。

 


「権こらぁっ!!潔くその首よこせぇぇぇっ!!」

 


なぜかそのままの姿でいたゴブ権をゴブ策が見つける。ゴブ策の双戟が左右からゴブ権に襲いかかった。その攻撃はゴブ権の目の前で止まることになる。

 


「その身のこなし・・・ゴブ泰だな?権を庇うなら容赦はしねぇぞっ!!」

 


「主君には指1本足りとも触れさせぬっ!!」

 


「おぉゴブ泰よくやった!!褒美じゃっ!!その命置いて行けっ!!」

 


かつてのゴブ堅のように綺麗に心臓を貫かれているゴブ泰の姿があった。

 


「主君・・・ご乱心をば・・・」

 


倒れ行くゴブ泰。その傷を見てゴブ策は思い出していた。以前父の亡骸についていた傷とまったく同じなのである。

 


「・・・ゴブロリっ!!我が父・・・ゴブ堅を殺したのはお前かっ!?」

 


「あぁ・・・オレだ。気付いたのはお前が初めてだよゴブ策・・・ゴブ羽の星下のためにオレが殺した。それが真実だ。今ここで仇討ちでもするのか?したいというならいつでも相手になるぞ?」

 


「いや・・・今はそんなものどうでもいいっ!!親父を殺したからにはゴブ羽軍の星下・・・お前の思い描いた平和を見せてみやがれっ!?そんだけの覚悟を持ってやってんだろっ!?気に食わねぇ時はぶっ殺す・・・覚えとけっ!!ロリ先っ!!」

 


「だったら死ぬ気でついてこいっ!!平和を見届けるまで絶対に死ぬんじゃねぇぞゴブ策っ!!もっと扱き使ってやる・・・こんな雑魚共の相手をいつまでもしてるわけには行かねぇんだよ・・・ゴブ卓軍相手にゴブ良は相当苦戦してるはずだ・・・さっさとぶっ殺すぞゴブ策っ!!」

 


ゴブ権の姿をしたゴブロリとゴブ策が互いに競い合いながら戦場を駆け上がっていく。叶わなかった兄弟の共演。2人の息は噛み合っていた。共通した目標・・・妖精の星の平定のために敵を屠り続ける。

 


そんな2人の姿を見たゴブ策軍の士気は一気に高まる。次々に兵士達の姿が光り出す。兵士達が突然変異を始めたのだ。兵士達の姿は燃えるような茶色の長髪・・・その目は漆黒の中心に燃えるような紅い眼球・・・さらに翼は漆黒と金色の翼へと変化している。

 


ゴブ策の姿も兵士達と同様に変わっていた。ただ1つ違う点は3本の角が頭から生えていたことだ。それはまるで堅、策、権・・・それぞれを表しているかのようであった。

 


「策・・・嫉妬しちゃいましたが許してあげましょう。よりイケゴブに変わりましたからね。

 


さぁ私達も負けていられませんっ!!2人に続いて下さいっ!!」

 


ゴブロリとゴブ信の群れを蹂躙していくゴブ策軍。彼らの通った後には変化の解けたゴブ権の亡骸が転がっていたという・・・この日呉軍は壊滅することになる。そしてゴブ備軍もまた崩壊へと追いやられていた。しかしゴブ備の姿は発見できなかった。

 


「ゴブ備は逃してしまいましたか・・・しかし呉を滅ぼせたのは大きいですね。これで呉と蜀が消えた。残るは魏のみ・・・敵は強大ですがやるしかありませんね・・・」

 


「瑜ーちゃん。心配することはないさ。命に代えても必ずぶっ潰してやるさ」

 


「瑜よ。オレもついている。ゴブ史慈もいる。それになんかみんな強くなったみたいだしなっ!!ゴハハハッ!!」

 


ゴブ信、ゴブ策の一言により兵達の士気は高まっていく。そんな中突然現れる者達がいた。

 


「ゴブロリ様・・・こちらに」

 


ドサッという音とともに投げられたのはゴブ備の姿。ゴブロリは予めゴブジョーカーに指示を与えていた。隊列を離れ逃げ出すやつがゴブ備である。たった一言・・・その言葉によりゴブ備の命運が決まったのである。ゴブガード達もまた漆黒のゴブリンへと変貌していた。強さは以前と比べ物にならないくらいまで成長しているのだ。

 


「ま、待てっ!!命だけはたす・・・」

 


「「「「「・・・」」」」」

 


命乞いをしようとしているゴブ備の首が突然飛ぶ。ゴブロリの仕業だ。それを黙ってみんなは見つめていた。

 


「こんな小器に構っている暇はねぇっ!!勝利に浮かれてんじゃねぇぞっ!!蜀・・・そして呉・・・んなもん勝って当然の雑魚だっ!!真の敵は魏であるっ!!手強い相手だ・・・厳しい闘いが待っているであろうっ!!だがそれでも我らは進まねばならぬっ!!この星の平定のためにっ!!

 


これより死地へと向かうっ!!目標は赤壁っ!!魏軍との決戦を行うっ!!ゴブ良がまだきっと戦線を維持しているはずだっ!!全軍急行せよっ!!」

 


「「「「「ゔぉぉぉぉっ!!」」」」」

 


ゴブロリ達は赤壁へと急ぐ。苦戦している仲間の元へ・・・時は少し遡る。ゴブ良は魏軍の猛攻に苦しんでいた。考え抜いた策もまったく通用しない。

 


宰相ゴブ操そして皇帝ゴブ卓。悪政を貫くゴブ卓であったが戦に関してはとにかく頭がキレる。妖世の奸雄と暴虐の王が混ざり合う。さらに10賢人と呼ばれる才能豊かな家臣もいる。ゴブ良ひとりの智では被害を少しでも減らすことしかできない。幸いにも夜戦の覇王の異名を持つゴブ良に対して夜襲は仕掛けてこなかった。仮に夜襲されていたらひとたまりもなかったであろう。

 


「攻め入ってこない・・・?伏兵を気取られてしまった?」

 


「伝令っ!!伏兵部隊が奇襲されました。現在交戦中。相手は左将軍ゴブ順。右将軍ゴブ遼。さらに10大将のうち5大将の姿が確認できております」

 


「くっ・・・救援すべきか否か・・・救援しようにも対抗できる武がこちらにはない・・・」

 


「伝令っ!!後方より砂塵。味方の援軍。旗印はゴブ羽様に御座います」

 


「・・・!!」

 


苦戦していたゴブ良の元にゴブ羽が駆けつける。援軍はゴブ羽軍20億。しかしゴブ良の軍は既に15億まで数を減らしていた。一方魏軍は未だ60億の兵を抱えている。さらに後方の拠点にはゴブ卓が軍を率いて待機していた。

 


ゴブ羽軍はこの状況を打開することができるのであろうか・・・。