闇と光 第29話 悪七慶太3

「ただいま〜」

 


誰もいないのにとりあえずただいまと家に対して言っておく。

 


「お帰りなさい。慶太様」

 


アリスは笑顔でそう言ってくれた。アリスも一緒に帰ってきたのに言ってくれる優しさが心に響く。この声を聞ければなんでも頑張れる気がした。

 


「慶太様はお風呂は朝派ですか?夜派ですか?」

 


「夜派だよ。お風呂準備してこなくちゃね」

 


「私が準備してきますよ。慶太様は待っててくださいね」

 


アリスがお風呂の準備に行ったのでひとりぼっちになってしまった。武器も手に入れたので久しぶりに練習してみようかなと思う。オレは以前、剣道をしていた。なので素振りから始めてみようと思う。

 


あの頃はひたすら素振りをこなしていただけ。試合となってもただなにも考えず、打っていた。頭の中で考えることもせずに・・・。若さゆえの過ちというやつだな。

 


今なら考える頭がある。だがただ考えるだけでは低脳な動物と変わらない。オレはもっと考えられる脳を持った人間という種族だ。もっと濃密に考え、そして意識しよう。それができるのが人間だ。

 


左手で握る。右手を添える。右手に適度に力を加えろ。手に持っている剣。これは剣ではない体の一部だと考えろ。脳からの電気信号を剣まで届けよ。剣という自分の体。剣という細胞ひとつひとつへ神経をつなげ。細胞を動かせ。意のままに操れ。オレの分子達よ・・・オレに従え!

 


喉が乾く。汗が滲んでくる。息が切れる。2日前のオレでも素振りをすれば意識することで中学時代よりも洗練された鍛錬になっていただろう。だが今のオレはマナの存在を知った。風が後から遅れてやってくる。信じられないくらい凄まじい振りだな。やはりマナは何にでも応用が効きそうだ。しかし自身で使い方を考えなければならない。イメージできなければマナは応えてくれない。

 


ただ実戦となればこのような基本形ではまず不可能であろう。どんな形でも自由自在に動けなければならない。ひたすら訓練だな。喧嘩の経験はあるが戦闘の経験はない。明日は道場にでも行ってみるとするか。良き指導者ならいいが・・・。果たしてどちらか。

 


部活の顧問の先生なら教え方が下手くそなのはしょうがないと思う。ただ体育の教師の教え方が下手なのはいただけなかったな。やってはみせるがそれだけ。お前はなにかの達人なのかと言いたい。もっと筋肉の部位レベルで力の入れ具合、どこをどう動かすのかを運動する前に座学でしっかりと教えるべきだ。子供の身体能力の低下と言うが、指導能力も低下してるんじゃないか?それはさておき、それを体育教師が理解はできていないんだろう。説明できないということは理解できていないそうゆうことだ。

 


達人などは見て覚えよと言うが、実に非効率的なことだ。一子相伝。無駄なことだ。情報を公開すればいいのに。そうすればもっと高みへ至れる人間もいただろうに。

 


こちらの師範がまともに教えてくれるならばよいが・・・。見て覚えよというなら文字通り見て覚えて全員喰らい尽くしてやろう。幸い死なない特典もあるしな。技をすべて見て覚えて吸収してやる。トライ&デス。それができるのがこの空間の強みだな。あぁ楽しくなってきた。アデルソンやリヒテルさんともいずれ殺り合いたいものだな。あの2人もかなりの強者と見た。色んな人を観察してきてステを見ようとして見れなかったのはあいつらが初めてだからな。・・・ふっ。なんか楽しくなってきた。血が湧き踊る命の奪い合い。ゾクゾクする・・・。まぁとりあえず素振りを続けよう。未来の快感のために。

 

 

 

「慶太様ぁ!お風呂入れますよ。ってどうしたんですかその汗は!?」

 


「え、もう終わったの?まだ素振り3回しかしてないんだけど!?」

 


「あれから1時間半くらい経ってますけど・・・?それよりお風呂凄いですね!こんな豪華なお風呂見たことないですよ!!」

 


え、そんな経ってたの?1回30分って・・・。オレ、バカなの?

 


興奮したアリスも可愛すぎた。