闇と光 第160話 明かされる過去
ゴブロリは暗い道をスタイリッシュに進んでいる。赤外線センサーのようなマナがそこら中に張り巡らされているためだ。
道の先にあったのは厳重な扉。しかし鍵開けの技術も限りなく向上しているゴブロリ。これもまた無音で開けようとするゴブロリと音を出させてゴブロリの存在に気付き、誘惑したい嫁達の愛に溢れる闘いのおかげなのである。
扉を開けた先には1人のゴブリンが四肢を壁に繋がれた状態で待っていた。そう見覚えのあるその姿・・・。
「・・・こっちではなかったか。久し振りだなゴブ布」
「見えなくともわかるぞ・・・その声忘れもしない。我らを何度も苦しめた漢・・・ゴブロリ・・・我を嘲笑いにでもきたのか?」
そこに幽閉されていたのはゴブ布であった。赤壁で魏軍に捕縛されてからずっとここにいたようだ。ゴブ良を探しにきたら思わぬ再会を迎える。
「・・・ゴブ良が1人囮になりオレらを逃した。ここに捕らえられている情報を入手したからゴブ羽軍総出で助けにきたんだよ」
「・・・なるほどな。しかしこの地獄でお前に会うとはな・・・ゴハハハッ!!残念だったな。囚われているのがこのオレで」
「思ったより元気そうじゃないか。知っているかは知らん・・・ゴブ卓は死んだ。そして軍も滅んでしまった。今ではゴブ操が新たな魏を建国をし皇帝を称している」
「そうか・・・父上は亡くなってしまったか・・・せっかくこの地獄で会ったのだ・・・少し昔話でも聞いていけ・・・」
妖精の星は他種族を忌み嫌う閉鎖的な星である。そうなったのにも原因があった。ゴブリン達はこの広い宇宙の様々な星で暮らしている。
その星々でゴブリン達は嫌われ者になっている。臭いだの気持ち悪いだの言われてしまう始末だ。それもそのはずである。その地にはこの星のような整備の整った住居がない。ゴブリンだって風呂に入るし、おしゃれもする。
野宿状態なのだから仕方がないことなのだ。他種族を襲うのはそんな住居を求めて・・・メスを襲うのはそそるいい匂いがするからなのである。異なる文明の世界ではうまく住処を作ることができなかったのだ。
そうした過去の行いからゴブリンは悪しき者として扱われてきた。その星の先住人達から討伐依頼が出されてしまうほど害悪とみなされている。どんどん数が減っていくため、本能によりどんどん繁殖しなければならない。
繁殖しては殺される。永遠とその繰り返しなのであった。他星にいるほとんどのゴブリンは己の故郷すら知らない。もはや母星を知っているゴブリンは生きていないからだ。新しく産まれたゴブリン。そこからさらに産まれる・・・その子らは他種族は敵だと産まれた時からそう思い込んでいる。
長い歴史の中にはゴブリンの中では異端とも言える平和主義者もいた。しかし他種族に弁明しようにも言葉は通じない。他の星々のゴブリンは・・・ゴブリンであるから・・・たったそれだけの理由で虐げられてきた。中でも1番同胞の命を奪ったのは奇しくも人族なのである。ゴブリンは人族を最も敵視していた。
遥か昔・・・そういった情報がこのゴブリンの母星である妖精の星まで届いてくる。当時のゴブリンエンペラーは激昂した。そして他種族との交流をすべて禁じたのである。侵入者は死罪。それ故にハイロリはこの星に入る度に狙われていた。
これが鎖星をすることになったきっかけ・・・そしてそれは妖精の星の長い歴史の中、決して破られることもなく守られてきた鉄の掟なのであった。
しかしゴブ布はそれに異論を唱える。ゴブ布は幼き頃より蔑まれて生きてきた。周りのゴブリンの色が緑なのに自分だけ赤いからだ。ゴブ卓・・・実の父親にすら罵られてきた。ゴブ布は愛を知らない。
いじめや嫌がらせを受けながら成長してきたゴブ布。すべては見返すため・・・そして自身が王となりこの掟を壊すため・・・ひたすら武のみを鍛えてきた。
星下最強と言われるまで成長した。強くなるにつれて父の見る目は変わった。自身の武を己の欲のため利用してくる。それ以外は幼少時代からまったく同じ。しかしそれでもゴブ布は自身の野望のために地位をあげるため努力したのだ。
数多くのゴブ女も抱いてきた。しかし彼女達は自身の地位や武を求めて近づいてくる者ばかりだった。ゴブ布の心が満たされることはなかった。ゴブ布は本当の愛を知らない。
同じ同族でもこんな状況である。かつて同族が他種族から受けた仕打ちのようだ。しかしゴブ布は自身の生涯を誇ることはあれども悔いることはない。今までの自分があったからこそこの答えに辿り着くことができた。
もっと広い世界が見たい。種族なんて関係ない・・・ゴブ布からしてみれば同族ですら他種族に見えてしまうのだ。他種族が仲良く手を取り合う平和な星を作ることがゴブ布の夢なのだという・・・虎視眈々と機会を伺い、謀反を起こそうとした。しかし腐っても名将である父・・・なかなか実行することはできなかったのである。
「分け隔てなく・・・この宇宙に生きる者同士平等に笑い合い暮らせる国にしたかった・・・しかし我には王の器がないことはわかっていた・・・武はあっても知が足りない。今ではこの有様だ・・・もはや夢など消えてしまったな・・・生まれ変わることができるのならば・・・願わくばそんな国に生を受けたいものだな。
・・・長くなってしまったな。どうかしているな・・・敵であるお前にこんな話をしてしまうとは・・・さぁ行け。ゴブ良を助けるのであろう?先日この階層が騒がしかった。たぶんこの階層にいるはずである」
金属音が部屋の中に突然鳴り響く。
「・・・何故我を助ける?」
「オレと同じものを見ているやつが囚われていたからな・・・」
ゴブロリはゴブリンスーツを脱ぎ出す。
「オレの名はハイロリ。未来の人類の王となるものだ。オレの故郷では同じ命である星を荒らす害虫が多くてな・・・たとえすべての同族の命を奪おうともオレは理想の世界を創り上げる。
この星には訳あってきた・・・最初はただ制圧するつもりだったんだけどな・・・民達の苦しむ姿が見ていられなかった・・・だからゴブ羽を王としこの星を変えようとしている」
「ゴハハハッ!!よもや人族だったとはなっ!!もっとも敵視している人族がこの星を救おうとは笑いが止まらぬっ!!
やはり種族など関係ないのだっ!!我は間違ってなどいなかったっ!!感謝するぞ・・・ハイロリ。我は再び自身の夢を見ることができる。
貴様の名は本当に一生忘れられない名になりそうだな」
「だろ?最初にそう言ったじゃねぇか。
さてと・・・そろそろ脱出せねばならないな」
「先に行け。我はやることがある。同じく虐げられてきた同胞達を・・・我が部隊を救出せねばならない」
「旅は道連れって言葉がある。ついでだ・・・手を貸そう。そいつらはどの階層だ?」
「・・・恩にきる。階層はわからない。片っ端から探すしかないだろうな・・・」
「ぷはははっ!なら単純でいいじゃねぇか・・・どうせ脱出方法は考えていなかった。派手に行こうぜゴブ布っ!!」
「ゴハハハッ!!ハイロリよ。お前とは敵ではなく味方として出会いたかったものだな。星下無双と呼ばれたこの武・・・見せてやろうぞっ!!」
「くくくっ・・・お前ノリいいな。そんじゃまっ・・・ここは夢の共闘と行きましょうかね」
ゴブロリとゴブ布。最初からは想像もできなかったことが起こる。幾度となく殺し合った2人がひとつの目的のために手を組む。通路を戻ると2人のゴブリンが待っていた。
「先生っ!!私のために申し訳ありません・・・っ!ゴブ布っ!!なぜ貴様がそこにいるっ!?」
「ゴブ良。元気そうで何よりだ。ただ今は時間がない・・・説明は省く。ゴブ布は味方だ。外ではゴブ羽達が魏軍と闘っている。ゴブ蔵とともに直ちに脱出しろ。オレとゴブ布が派手に暴れる。その隙をつけ」
「・・・必ず戻ってきてくださいね?私の次は先生とか笑えませんから」
「星下無双の漢がついてるんたぜ?心配するな。ゴブ蔵っ!!ゴブ良は頼んだ。それと合流次第退却しろっ!!オレは必ず戻るっ!」
「御意」
脱出に向かうゴブ良とゴブ蔵。そしてゴブ布とゴブロリは救出へと向かう。ゴブ布と似た境遇を持つ集団・・・真紅の精鋭部隊を助け出すために。