闇と光 第161話 沈む下邳城

「ゴブ布っ!!オレじゃ誰が部隊の一員かわからねぇっ!!敵は食い止めるから早く見つけてこいっ!!」

 


「後ろは任せたぞっ!!ハイロリっ!!」

 


あの後、ゴブロリとゴブ布はマナセンサーをわざと発動させた。そして下邳城の守備兵達が2人のもとに殺到してくる。その隙をつき第5階層に隠れていたゴブ良とゴブ蔵はどんどん上層へと上がっていく。

 


「しっかし・・・なかなか減らねぇな」

 


ゴブロリは命唱が使えない。倒せども倒せども・・・襲い来る守備兵。敵の流れを食い止めるので精一杯だった。しかし突然前方の敵が吹き飛んでいく。ゴブロリは並び立つゴブリンに目をやった。

 


「お初にお目にかかります。ハイロリ様。ゴブ布様よりお話を伺いました。救援感謝致します。

 


あたしの名前はゴブ厳(げん)。真紅の薔薇の隊長をしております。ゴブ布様の命により助太刀に参りました」

 


ゴブ布精鋭部隊・・・真紅の薔薇。隊長の正体はゴブ女であった。次々に戦線に駆けつけてくる真紅の薔薇の隊員達。すべて女性であった。

 


ゴブ布の野郎・・・こんなハーレムをいつのまに・・・いやハーレムじゃない?匂いが染み付いていない。もしや手を出していないのか・・・ゴブ布・・・お前が望めば彼女達はきっと全員妻になってくれるだろうに・・・もったいないな・・・。

 


何が愛を知らないだ。お前が気づいていないだけじゃないか。彼女達からはゴブ布に対しての感謝の気持ち・・・それ以上の思いを感じられる。はんっ・・・1番モテるゴブリンはお前だったのかよゴブ布め。

 


迫り来る守備兵を押し返していくゴブロリと真紅の薔薇。そしてどんどん味方の数が増える。

 


ふっ・・・ゴブ布が練兵しただけあってさすがに強いな。転移を覚えさせたら黑州兵を超える可能性すらある・・・恐ろしい部隊だな。

 


「おらおらぁっ!!さっさとくらいやがれゴブ褚っ!!」

 


「ゴハハハッ!!その程度の攻撃で何をする気だ?蝿でも飛んでるのかと思ったぞっ!!」

 


攻めるゴブ策・・・守るゴブ褚・・・守りを切り崩すことができないもののゴブ策はゴブ褚を完全に抑え込んでいた。

 


「なかなかやりおる・・・だが甘いっ!!今だっ!ゴブ羽を取り囲めっ!!」

 


「やらせないわよっ!!みんなっ!!」

 


奮戦するゴブ羽。ゴブ操軍は陣形を少しずつ変え、ゴブ羽を完全に取り囲んだかに思われた。しかしゴブ美の号令とともにゴブ妻達が待ったをかける。彼女達の手によりゴブ操の試みは失敗に終わった。

 


「あれ?オレ・・・いる意味あんの?」

 


「「「「「ゴブ羽様っ!かっこいいですっ!!」」」」」

 


「ゴハハハッ!!頑張るぜぃっ!!くらえいっ!!ゴブリンクラッシャーッ!!」

 


もはや餌役にしかなっていないゴブ羽。妻達の声援によりゴブ羽ははりきる。そしてゴブリンクラッシャー・・・彼の一撃は戦場となっている大地すべてを陥没させるほどの威力であった。脳筋は卒業した・・・しかしやはりゴブ羽はチョロかった。

 


「ゴブ信っ!!まだまだ死合おうぞっ!!」

 


「いいかげんやられろよっ!!ゴブ遼っ!!」

 


ゴブ信とゴブ遼が周囲を巻き込みながらド派手にやりあっている。状況は互角。一進一退の攻防が続く。

 


「ゴハハハッ!我が武に匹敵するものはゴブ布だけだと思っていたっ!!ひとりにして億に匹敵する兵・・・ゴブ信。噂に違わぬ実力だっ!!」

 


「っは!!オレはひとりじゃねぇ・・・オレにはゴブ超がついている。黑槍と翠槍・・・2人の力だっ!!その首もらうぞ・・・ゴブ遼っ!!」

 


ゴブ信は亡きゴブ超の槍を受け継いでいた。今のゴブ信は二槍流。さらに師の技ゴブロリハンド・・・それをヒントにゴブ信は自身の体から蒼き腕を2本だしている。4本の腕を使うことで2本の槍を使いこなしていた。

 


ゴブ信の新たな技・・・ファントムアーム。効果は腕を2本生やすだけ。名前も師の技からとった。しかしゴブ超の形見を使うことでより強力な技へと昇華している。ゴブ信が新たな力を振るう中・・・1人のゴブリンが現れた。

 


「ゴブ信っ!!撤退しますよっ!!」

 


「良兄っ!!救出成功したのかっ!!こうしちゃいられねぇ・・・ゴブ遼っ!!わりぃな・・・退かせてもらうぜっ!!」

 


「はいそうですかと言うとでも思ったかっ!!ゴブ良もろとも死ねぇぇぇぇぃっ!!」

 


「四手二槍流・・・黑翠波(こくすいは)っ!!」

 


2本の槍の刺突攻撃・・・槍から黒き水のマナと緑の風のマナが放出される。2つのマナは螺旋状に絡み合う。その姿はまさしく龍。深緑の水龍がゴブ遼に襲いかかった。

 


ゴブ遼は押し込まれながらもかろうじてそれを受ける。しかしどんどん水龍の勢いに押されていく。

 


「まだまだぁぁぁぁっ!!」

 


ゴブ遼の掛け声とともに水龍が上空へと弾き飛ばされ消えていった。下邳城の地に水の矢のような激しい雨が降り注ぐ。ゴブ良とゴブ信の姿は既にない。スパーキング状態となったゴブ遼が息を切らしながら1人立っていた。

 


「良兄っーー!!無事で良かったぜっ!!しばらくは雨だから敵は追ってこれないと思うぜ」

 


「ゴブ信・・・てめぇ何やってんだっ!?先生がまだあの中にいるっていうのにっ!!

 


はぁ・・・兄上の一撃で周囲は沈下・・・そしてこの雨・・・味方を殺す気なのですか?」

 


「えっ!?先生いんのっ!?まじっ!?やっべぇ・・・あとで怒られる・・・呉との闘いの後もすごい怒られたし・・・」

 


「先生は必ず戻るといった・・・とりあえず兄上やゴブ策と合流して撤退しますよっ!!」

 


ゴブ信の本気の一撃によりゴブ遼からの退却に成功した。しかしゴブ羽の放った一撃・・・それが組み合わさって意図せず凶悪なコンボが発動してしまった。

 


現在下邳城には恐ろしいほどの水が流れ込んでいる。そしてゴブロリとゴブ布は未だに下邳城内にいた。

 


「はっ!?ゴブ布やべぇぞっ!!水攻めだっ!!このままじゃ仲良くお陀仏だっ!!仲間は全員揃ったのか!?」

 


「あと1人足りない・・・」

 


「ちっ・・・あっちだっ!!いい女の匂いがするっ!!」

 


「彼女達を連れて先に逃げてくれっ!!我が助けにいくっ!!」

 


「あたしも行きますっ!!隊長として仲間は見捨てられないですっ!!」

 


ゴブ布とゴブ厳はゴブロリに隊員達を託し、1人の仲間の元へ駆け出す。どんどん水位が上がっていく。

 


「ちっ・・・勝手なやつらめ・・・転移するから早くこっちにこいっ!!」

 


いつも勝手なことをしているゴブロリが発してよい言葉ではない。隊員を引き連れゴブロリは地上へと転移する。そしてすぐ様下邳城内へと戻るゴブロリ。

 


ゴブ布とゴブ厳は隊員を救出。迫り来る水位の中、上の階層の床を壊しながら脱出を試みていた。

 


「きゃあっ!!」

 


助け出された隊員が飛んだ先の足場が崩れる。ゴブ厳がその身を投げ出し隊員を上へと弾き飛ばした。

 


「ゴブ布様っ!!あとはお願いしますっ!!

 


・・・なにをっ!?」

 


下の階層へと落ちていくゴブ厳。そこへゴブ布が急降下。そしてゴブ厳を力の限り上へ投げ飛ばす。その先にいたのは・・・。

 


「ゴブ厳は頼んだぞっ!!ハイロリっ!!」

 


ゴブ厳を受け止めたゴブロリ。そして彼女達を転移で地上へ逃がすゴブロリ。ゴブ布は投げ飛ばした反動で最下層の水の底にいた。水の中では激流が渦巻いている。そしてこれはただの水ではない。ゴブ信の放った水である。ゴブ布はまったく身動きをとることができなかった。

 


星下無双と呼ばれた我・・・最後に誰かを救うことができてよかった・・・さらばだ・・・我が天命もここまでか・・・まぁ悪くないゴブ生であったな。

 


ゴブ布の意識は無くなっていく。水に沈み行く下邳城。水牢と化したこの牢獄。この地は後にゴブ星遺産として認定されることとなる。湖の底に沈む下邳城。城内は侵入者を拒むかのように万年激流が渦巻いていた。その奥底には赤鬼が棲んでいると星の民に恐れられている。この場所は鬼神湖と名付けられたのであった。