闇と光 第42話 悪七慶太4

ここはどこだ。なにも見えない。なにも感じない。アリスとアヤネはどこだ?この痛みだけは知っている。

 


孤独。1人であるという痛みがなによりも痛い。たとえ斬り殺されようとも首を締め付けられようともこの痛みよりはましだ。誰もいない。オレ1人という感覚。1人ではなくなったと思ったがアリスもいない。アヤネもいない。美貴もいない。誰もいない。結局1人なのか。グサグサと激しい痛みがオレを襲う。

 


オレは大学を途中で辞めた。そして地元に帰った。それからの生活は地獄の日々だった。何を食べても味がしない。何も楽しく感じない。何もしたいことがない。ただひたすら生きていくためのお金を稼ぐ日々。

 


新しい職場で働き始めた。そこでオレは出会った。美地谷理紗(みちたにりさ)という女性に。知らないうちにどんどん惹かれていった。次第に感覚も戻っていく。後に聞いたら気を持ってもらえるように振る舞っていたらしい。

 


彼女には彼氏がいた。その彼氏は妻子持ちであった。別れて一緒になる予定だったがなかなか別れてくれないと言っていた。ある日一緒に出かけその日彼女と関係を持つことになった。彼女は彼氏と別れたと言っていたがその時まだ別れていなかったという事実は後に知ることになる。

 


その日からオレは彼女と付き合うことになった。大学を辞めてからはじめて彼女を持つことになった。いなかった分反動が大きかったのだろうか。最初にネオに突入した時は彼女から血が出るほど夢中になってしまった。

 


彼女と付き合い出してしばらく経った時、元の彼氏が独り身になって彼女とよりを戻したいと言ってきたそうだ。一緒にいる時の彼女はどこか上の空。オレは彼女を愛するがあまり心にもないことを言ってしまった。

 


オレのことはいいから戻ってもいいよと・・・。そうして彼女は戻っていった。彼女と別れてから体に異変が起こった。常に吐き気と倦怠感が襲う。無理矢理食べてはいた。しかし細身ではあった体はさらに痩せ細っていった。

 


彼女はもう一度オレのところへ戻ってきた。オレの感情は爆発しすぐに押し倒した。その後、元彼氏の男と1度だけ話す機会があった。話すとどうであろう。美地谷理紗の本性が見えることとなる。彼女のことは正直信じられなかった。彼から最後にひと言だけもらった。彼女はまた同じように去っていくと。自分とオレの立場が変わるだけと。オレも同意見だった。

 


しかし彼女との間に子供ができることとなる。別れを告げようとしたらその知らせを聞いた。愛しているが信じられない。オレは悩みに悩んだ。産まれてくる子供のために結婚することにした。信じられないけど信じる。無理矢理愛する。思えば始まる前からこの結婚は終わっていたのだ。自分の心の中で偽りだらけの結婚生活が始まる。精一杯愛そうとした。

 


数年後彼女は男を作り出て行った。やはりそうなったか。しかし最後まで子供のために諦めずに愛そうと努力した。彼女にとっては子供より男が大事。ただそれだけだった。無駄に長い調停、裁判を経て慰謝料をもらった。しかし分割で月々の支払いは微々たるものだった。その癖子供に会わせろ?ふざけるな。

 


その長い期間忘れることもできずただただ傷口が大きくなっていく。浮気が発覚した時も体に異変が起きていた。頑張った分だけその反動が自分にのしかかってくる。前回以上の苦しさだ。痛みだけがオレを常に襲う。

 


怒りを超え殺意に変わった。今すぐにでも殺したい。あいつだけは許さない。無理してでも早く払い切ろうとするものじゃないのか?普通に働いて無理なく返す?子供に会わせろ?法律上子供の権利だからしょうがない?

 


弱い者を助ける法律じゃない。悪い者を助ける法律だ。この国のことをオレは憎くなった。昔から社会に対して違和感しか持っていなかった。オレの中で何かが弾けた気がした。力があればテロリスト。そう呼ばれるようなものになっていたであろう。平和?争いの上に発展してきた人類がなにをいっている。

 


怒りが度を超えると無になる。オレは家族は嫌いだが、子供達は愛している。成人するまでは責任を持って育てようと思っている。その後は決めていない。いくらでも機会を待とう。オレがすべてを変えれるようになるまで。来世。さらにその先。自分を押し殺しいくらでも待つ。そう思っていた。

 


そして幸運なことに機会はやってきたのだ。力を得られる環境をオレは手にした。都合のいいことに敵がやってくるというじゃないか。それに乗じて第3勢力にオレはなる。訓練が終わった時それはオレが世界の敵になる日だ。戦力を得ようとして新たな敵が現れることを想定していないようなら無能だな。来る敵は人類共通の敵とでも言うつもりなのだろうか。その敵もお前らもオレの敵だ。ついでに理紗。愛が180度反転するとどうなるか教えてやろう。

 


オレは弱い。1人がとてつもなく怖い。1人であることを意識すると痛みが体中を駆け回る。心の中でずっと誰かを求めていた。愛すべき人。それさえあればオレはなにもいらない。ずっと探していた。その気持ちは気づかないふりをしてずっと押し込めてきた。

 


周りのいい女達は大抵結婚している。余り物。子持ちのオレにはいい人など現れない。女性と話そうとすらしていなかった。望外の事態が起きて昔の自分が強くでていたようだ。

 


だが今はどうだ。夢でも見ていたのだろうか。なにもない世界。オレは死んだのだろうか。アリス。アヤネ。愛している。幸せだった。美貴とハイロリさんも愛したかった。今となっては叶わぬ願いか・・・。すべてが幻だったかのようにひとりの痛みだけがオレを支配する。

 


オレは泣いているのか?もし次があるならばオレの女すべて。何人でも愛し続けてやる。必ず全員幸せにする。だからひとりにしないでくれ。そばにいてくれ。もう一度会いたい。4人に会いたい。

 


不思議と暖かくなってきた。まばゆい光がある。あれはなんだ・・・?