闇と光 第50話 悪七慶太5

何十年経ったのだろう。いつまで闘い続けなければならないのだろう。闘いながら休み、休みながら闘う。永遠とも呼べるくらい闘っている気がする。オレの限界を的確に僅かばかり超えた相手をぶつけてくる。すべてあいつらの手の平の上だというのか。気に入らない。だが小手先のアイディアも尽きかけている。正直に言ってそろそろやばい。

 


「なかなか限界が来ないね。もっと早く壁にぶつかると思ったけど」

 


「そうだね。汚い手もだいぶ使ってたけどそろそろ苦しそうだ」

 


がやがやうるせぇ。ああまったくもってその通りだよ。仕方がねえ・・・腕を1本生贄にするしかない。次は知らない。とりあえずこいつに勝つ。

 


「わぁお。この勝負は君の勝ちだ」

 


「次はどうする?」

 


やつらがそう言うと敵が現れた。奴はオレ同様片腕がない。なるほど。オレはオレ自身と戦わされていたようだ。そりゃ終わらないはずだ。オレがまだ生きているのだから。オレが生きている限り闘いは終わらない。しょうがない。死んだと思った命だ。もう1回死んでやる。あいつらは修行と言った。だから死にはしない。本当に死んだとしてもこの苦から逃れられる。闘いの連鎖から抜けられる。オレは楽になりたいと思った。

 


風の刃を作り出す。もちろん相手には当てない。わざと外し再び戻ってくるようにする。オレの首元へ。生命力をマナに変換し一時的に爆発的な力を得る。オレはそのままに敵の首を刎ねた。それと同時に風の刃が無防備な状態のオレを襲う。オレは自身の体を眺めていた。

 


「死んでもらおうと思ってたけどこうなるとはね。でも君は逃げたね。苦しみから逃げたね」

 


「予想外のことだけれど都合が良いかもね。次は弱さと闘ってもらうよ」

 


あいつらが何を言ったのかは聞こえない。オレの視界は暗くなっていく。死んではいない。またあの痛みがオレを襲うからだ。なにかが見える。ああ覚えてる。忘れもしない父の顔。次はあの子か。結末は知っている。オレの見たくない過去を見せられている。やめてくれ・・・。全身を痛みが襲う。

 


「君は逃げてばかりだね」

 


「そうだね。さっきも苦しみから逃れるために自害したし」

 


うるせえ。そうだよ。オレの人生逃げてばかりだよ。心の拠り所であるはずの女の子からすらも逃げている。記憶に触れる度に痛みが増していく。あの子はオレにとってのはじめての彼女。それと同時に人生で唯一・・・オレから別れを言い出した相手。

 


当時突然告白された。オレは彼女の親友のことが1年生の頃から好きだった。最初は断った。だけどその夜彼女に電話し付き合ってくれと言った。オレは彼女の親友と付き合う未来はないと悟り絶望していた。そんな中告白の瞬間を思い出す。彼女の告白した時の顔。恥ずかしいながら勇気を振り絞っていたあの顔。その表情が可愛かったからだ。

 


はじめての彼女。どうしてよいかわからない。一緒にいるうちにどんどん好きになっていった。でもどうすることもできない。手をつなぐので精一杯だった。父が死んでからオレは心を閉ざしすべてに対し奥手になっていた。抱き締めたい。けどオレにはできなかった。

 


あれはファーストキスの記憶か。その年の冬であった。その彼女が相手だ。何度でもするチャンスはあった。部屋で2人きり。寝たふりをして誘ってみたりもした。結局帰り際にストーブの前で一瞬触れるだけのキスをした。

 

やめろ・・・そんな姿を見せるな。

 


次は彼女との初体験。彼女は泣きながら痛いと言っている。その表情をオレに見せないでくれ。場面は変わりオレが彼女を振る場面になる。好きな人が他にできた。そう言って別れた。律儀にすぐその日にちょっといいなと思っている子に告白しふられているオレ。ホントはどうしていいかわからなかったからなんだ。誕生日やバレンタインが迫っていた。彼女に何を渡したらよいかわからない。そんな意味もわからない、そしてくだらない理由だ。

 


受験も控えていた。彼女はキスをした時のことが頭から離れず集中できないと言っていた。彼女の邪魔になりたくなかった。いつのまにか彼女への気持ちは大きくなりすぎていた。大事な人にとってオレがいることはマイナスだと勝手に理由を作っていた。相手の気持ちを知ろうともせずに。

 


今度は1年生の春。彼女が家の近くの友達の家に遊びに来ていた。彼女は男友達を連れオレの家にきた。その男友達は買い物してくると言っていなくなり部屋で2人きりになる。またしてもどうしたらいいかわからなくなる。ホントは今すぐにでも抱きしめたい。2人でなぜかゲームをする。時折彼女がこちらを見ている気がしていた。オレは結局なにもしなかった。いやできなかった。ふったオレに気持ちがあるわけなんてないと思っていた。

 


後に彼女が戻りたかったということを知った。秋に場面は移る。彼女は他の男と付き合い別れていた。オレにも先輩の彼女がいた。どうしてよいかわからないのは変わっていない。そんな状況で最初の彼女が家にいるところだ。オレはまだその彼女のことが大好きだった。ちなみに彼女は既に働いている。

 


過去の話をお互いする。雰囲気的にオッケーの流れになる。オレはまだ初体験を済ませていなかった。前回は途中でやめたから。彼女にリードされながらはじめてを済ませた。離したくなかった。でもその時はそのままで終わる。ホントの気持ちも伝えれずに。

 


次も再び1年生の春。オレは学校を辞め入り直している。進学校ではあったが周囲の友達関係が性に合わなかった。

 

別の彼女がオレにはいた。先輩の彼女は来年受験。さらに違う学校になる。素っ気ない態度をとり続け彼女から別れを告げてもらった。オレが近くにいれないことで寂しく思わせ、受験の支障になることを恐れていたからだ。本当は少し彼女の嫌な面を見てしまったから・・・。

 


そんな中最初の彼女はまた現れた。オレの大好きな彼女。今度は付き合っている彼女と別れ、付き合うことになる。でも彼女の様子はどこかおかしかった。数日後彼女からふられることになる。元彼が忘れられないから。オレは言わなかったのではなく言えなかった。忘れさせてやる。そばにいてくれと。

 


次に会うのはオレが19歳の時。その時彼女はいなかった。大学の入学も決まっていたところに電話がかかってきた。オレからは1度もかけたことはない。傷つきたくなかったから。深夜帯に会いたいと言われた。正直オレも遠くに行く前に会いたかった。できることならついて来て欲しかった。

 


会った時彼女は変わっていた。夜の女になっていた。同僚の人の運転で家の近くに来ていた。オレは初対面の人に対して壁を作ってしまう。逃げ続けてきて心を晒すのが怖いからだ。彼女は冗談混じりについて行っていいかなと言ってきた。オレは答えられなかった。2人きりなら言えたのであろうか。それでも結局言えなかったと思う。ついてきて欲しかった。言えば彼女はついてきてくれただろう。だがそれを言うと彼女の人生すべてを背負うことになる。オレなんかが・・・。その言葉を言える勇気がオレにはなかった。

 


次は大学に入学した春。彼女から電話がかかってきた。元気にしてる?と聞かれた。元気ではなかったが嘘をついた。彼女は言った。今男の人から告白されてるけどどう思う?と。知っている先輩の人だった。オレと付き合ってくれ。このひと言は何度生まれ変わったとしてもオレには言えないだろう。いいんじゃないと思ってもいないことを口にする。彼女の気持ちをわかろうともせずに。大好きな相手に対して・・・。思えばその頃からオレは変わっていった。

 


同じ年の夏に移る。オレの住んでいた街では夏に成人式を行う。再び再会することになる。オレは外でタバコを吸っていた。久しぶりと話しかけられる。変わりすぎてわからなかったと言われた。髪型も変え、髪も染め、ピアスを垂れ下げ一瞬誰かわからないくらいになっていたオレ。その時放った第1声は今でも覚えている。

 


「今・・・幸せか?」

 


どんな答えが欲しかったのだろうか。彼女の答えは妊娠し結婚したという事実であった。そこがオレが変わる決定的な瞬間だったと思う。

 


それから10年後オレは知ることになる。今までのやり取りの中の彼女の本音を。離婚する際に苦しくてどうしようとなくなり、彼女を頼った時に。彼女の結婚は続いておりその結婚は幸せでないことも。オレが逃げずに勇気を出し、本音を言っていればお互い違う未来もあったのかもしれない。いや間違いなく幸せな未来だ。オレが彼女を幸せにしていた。少なくともオレは彼女さえいれば幸せになれたと思う。

 


彼女から結婚生活について相談されてもオレに他人の悩みを聞く余裕もなく、彼女になにもしてやれなかった。ようやく少し余裕ができた時彼女にメールをした。だがそのメールは届かなかった。届いたのはメールセンターからのメール。未だにオレは彼女になにも返せていない。